日本でのホンダ「シビック」の復活は、ホンダ関係者も想定していた以上の出足になった(筆者撮影)

ホンダ「シビック」が日本で復活するというストーリーは、2016年2月の八郷隆弘社長の会見が発端だった。この席で八郷社長は、2015年11月に北米でフルモデルチェンジしたシビックの販売を検討していくと口にした。

続いて今年1月に開催された東京オートサロンでは、新型シビックのハッチバック、セダンに加えて、高性能版であるタイプRの3車種のプロトタイプを日本初公開。同年夏に日本で発売を予定しているとアナウンスした。

ホンダはシビックを、「フィット」や「アコード」などと並ぶグローバルモデルの1つと位置づけており、10代目となる新型は新設計プラットフォームに1.5Lダウンサイジングターボエンジンを搭載。2016年に北米カー・オブ・ザ・イヤーを受賞するなど高い評価を受けている。

ただ、日本復活が明らかになった際、メディアの反応は芳しくなかった。一部ジャーナリストは「売れない」と断言するほどだった。そんな中、ホンダは7月27日に日本仕様を発表し、9月29日に発売。11月中旬に静岡県御殿場市で報道関係者向け試乗会が開催された。

受注台数の42.5%がマニュアル車という異例の結果に

ここで多くの専門家の予想を裏切る数字が公表された。3タイプを合わせた受注台数が1万2000台に達していたのだ。販売計画台数は月2000台だったから6倍である。ホンダ関係者も想定していた以上の出足になったようだ。

ボディ別では半分がハッチバックで、残りはセダンとタイプRが3000台ずつ。注目すべきはハッチバックのトランスミッションで、35%が6速MT(マニュアルトランスミッション=手動変速機)だった。セダンは全車CVT、タイプRは全車MTだから、合わせて42.5%がMTという、わが国で販売する乗用車としては異例の結果になっている。


写真左がハッチバック、右がセダンの後ろ姿(筆者撮影)

さらにユーザー層を聞いてみると、独身男性と子離れした夫婦に二極化が進んでおり、3割が20〜30歳代という。少し前に記事を掲載したトヨタ自動車のピックアップトラック「ハイラックス」に似た状況だ。

なぜ新型シビックはこのような売れ方になったのか。ハッチバックとセダンをドライブした印象とともに報告していきたい。

最初に乗ったセダンは、ルーフからリアエンドにかけて緩いカーブでつなげた、ファストバックと呼ばれる流麗なプロポーションが特徴だ。ハッチバックかと勘違いするようなフォルムである。ボディサイズは全長4650mm、全幅1800mm、全高1415mmで、シビックとしては長く、セダンとしては低い。

室内に乗り込むとこの寸法の理由がわかった。前席のみならず後席も、スポーツカーのように低く、足を前に投げ出すようなスタイルで座るからだ。インパネも歩行者保護対策などで高くなりがちな最近のクルマとしてはかなり低い。しかし身長170cmの筆者であれば、後席で楽に足が組める。

1980〜1990年代のホンダ車が一気にフラッシュバック

3代目「ワンダーシビック」や5代目「スポーツシビック」、リトラクタブルヘッドランプを備えた「アコード・エアロデッキ」、デートカーという異名を取った2〜3代目「プレリュード」など、1980〜1990年代のホンダ車が一気にフラッシュバックしてきた。

シビックらしからぬ長いボディは、現在の厳しい安全基準の中で、あの頃のホンダ車と同じ低くて広いキャビンを実現するためだったようだ。

あの時代をよく知るクルマ好きは、そろそろ子離れ世代に入っているはずだ。新型シビックを見て若い頃を思い出すかもしれない。一方で運転免許取り立ての若いユーザーは、背が高いミニバンやSUVを多く見ているためもあり、新型シビックのデザインは新鮮に映るだろう。これが先に紹介したユーザー層につながっているのではないかと思った。


1.5LターボエンジンとCVTの組み合わせ(筆者撮影)

1.5LターボエンジンとCVTの組み合わせはステップワゴンなどで試乗経験がある。フィーリングもステップワゴンと似ており、1700〜5500rpmという幅広い回転数で最大トルクを発生するので、エンジン回転が先に上がってあとから速度がついてくるというCVTの癖はほとんど感じない。

ただし、ステップワゴンでは静かで滑らかとしか感じなかった音は、あえて聞かせる設定にしているようで、加速時には軽やかなサウンドがキャビンに届く。この音もまた、1980年代のホンダ車を思わせる。

コーナーが迫ってきたのでステアリングを切る。ロールはほとんど発生せず、低いノーズがすっと真横に動き、そのまま安定した姿勢で駆け抜けていく。この感触もまた、あの頃のホンダ車に近いものだった。

当時のホンダ車はその代わり、サスペンションのストロークは短く、荒れた路面のコーナリングでは横っ飛びすることもあった。この点について新型シビックは大幅に進歩していた。乗り心地はこのクラスの日本車としてはかなりしなやかで、凹凸が目立つ路面でもサスペンションが自在に動き、粘り強いグリップを実現していた。ボディ剛性も強固そのものだった。

続いてハッチバックMT仕様に乗った。スタイリングはセダンと似ている。セダンがハッチバックに近づいたともいえるが、ホイールベースも同じ2700mmだし、共通部分を増やしてもよいのではないかと思った。


足が組めるほどではないが、このクラスのハッチバックでは十分な空間を持つ(筆者撮影)

しかし2台を並べると車体後部が130mm短く、キャビンが台形に近いことがわかる。エンジニアに聞くと、短いボディで十分な荷室容積を確保するために、後席の位置もセダンより少し前にセットしたという。

確かに後席に座ると、このクラスのハッチバックでは十分な空間を持つものの、足が組めるほどではなかった。荷室容積はセダンの519Lに対してハッチバックは420Lになっている。

かつてのホンダ車の創意工夫を取り戻してきている


左右方向に引き出すタイプのトノカバー(筆者撮影)

個人的に興味深かったのは荷室内部を隠すトノカバーが、ゲートと一体で跳ね上がる方式でも、奥から引き出す方式でもなく、左右方向に引き出すタイプだったこと。世界初だそうだ。かつてのホンダ車で何度も目にした創意工夫を取り戻してきているようで好ましい。

エンジンはハイオクガソリン仕様になっており、最高出力はセダンの127kW(173馬力)に対して134kW(182馬力)という性能だ。

確実なタッチのシフトレバーを操って走り始めると、環境対応型エンジンの悪癖の1つである回転落ちの遅さが気になったものの、エンジンはセダンより加速感も音も少し活発。それをダイレクトな反応とともに味わえるMTはやはり独特の楽しさがある。ただロードノイズはセダンより気になった。

ホイール・タイヤはセダンが17インチなのに対し、ハッチバックは18インチとなる。しかし乗り心地は悪化しておらず、コーナーではセダンに輪をかけて俊敏なハンドリングが堪能できた。こういうシーンでもMTのダイレクト感は味方になる。

2台のどちらを選ぶかと聞かれたら、セダンの広さやスマートなスタイリングに引かれつつも、個人的にはMTが選べ、走りが楽しめるハッチバックを取るだろう。シビック=ハッチバックというイメージが強いためもある。ユーザーの中にもそういった気持ちを抱く人が多いのではないだろうかと思う。

ただし新型はセダンを日本で生産し、ハッチバックとタイプRは英国から輸入する。セダンが主力と予想したのかもしれないが、現在の状況が続くようなら生産体制の見直しを図る必要があるかもしれない。

一方で現在の状況を維持していくことも必要だ。そのためには定期的なテコ入れも重要になるが、過去に設定していたハイブリッド車はスポーティなイメージに合わないということで考えていないという。


「あの頃のホンダ」を彷彿とさせる新型シビック(筆者撮影)

子離れ層には懐かしさ、若者には新しさをもたらした

新型シビックは21世紀によみがえった「あの頃(1980年代)のホンダ」を彷彿とさせる。それが子離れ層には懐かしさ、若者には新しさをもたらした。であれば欧州向けの1L3気筒ターボ投入はどうだろうか。ホンダには「マン・マキシマム/メカ・ミニマム」という設計思想があり、ワンダーシビックもこの考えから生まれた。

世界生産累計1億台を達成した「スーパーカブ」が2輪におけるホンダの伝道師であるなら、シビックはクルマのホンダの伝道師であろう。ホンダらしさをいちばんピュアに表現できる車種だと個人的には考えている。