画像提供:マイナビニュース

写真拡大

●次期クラウンへの命題「ラスト・クラウンにするな!」

最新技術を盛り込んだコンセプトカーが先進性を競う東京モーターショーだが、一方で、現実的に近く市販が予定されるクルマにも注目が集まる。トヨタの次期「クラウン」もそのひとつだ。いつかは乗ってみたい憧れのクルマだったクラウンは、これからの世界でどのような存在を目指すのだろうか。

○2018年夏の新型「クラウン」はコネクティッドカーの新基準?

「世界を、ここから動かそう。」をテーマに「第45回 東京モーターショー2017」が東京ビッグサイトで開催されている。自動運転や電動化、つながるクルマなど、自動車大転換への先進技術を日本から発信していこうと、AIやIoT、電化を駆使した最新技術のコンセプト車が居並び先進性を競っている。

その中にあって、トヨタ自動車のブースも「Concept-愛i」など近未来のコンセプトカー展示に高い関心が持たれているが、一方で、近々に市販予定のクルマにも注目が集まる。クルマユーザーにとっては、自動車各社が次のクルマをどう出してくるのかが、購入あるいは買い替えへの大きな動機となるのだ。

トヨタブースにおけるそれが次期「クラウン」だ。トヨタのメインターンテーブルには2018年夏に市場投入されるクラウンが展示され、プレスブリーフィングでは「2018年には新型クラウンが日本のコネクティッドカーの新しい基準となる」(ディディエ・ルロア副社長)と説明した。

○いつかはクラウン、これからどうなる?

クラウンと言えば、初代クラウンが1955年に製造・発売されて以来、トヨタ量販車の中で最上位モデルの地位を確立してきた。1983年に投入された7代目クラウンでは「いつかはクラウン」のキャッチコピーを打ち出し、オーナードライバーにとっては「日本の高級車像」の代名詞ともなってきた。

そのクラウンも現行が14代目。来年にはフルモデルチェンジで15代目となる。初代投入から60年余が経過する中で、次期クラウンの開発にあたっての命題が「ラスト・クラウンにするな!」(秋山晃ミッドサイズ・ビークル・カンパニーMS製品企画ZSチーフエンジニア)だった。

つまり、「いつかはクラウン」の1980年代から30年以上が経過する中で、日本の高級車がどうあるべきか、あるいは従来の「クラウン継承」だけでは終焉を迎えるとの危機感を持って、トヨタは次期クラウンの開発を進めてきたのである。

●TOYOTAが世の中を変えるためにつくったクルマ

○ドイツの高級車ブランドに対抗、レクサスもライバル?

東京モーターショーで世界初披露されている次期「クラウン」は、世界的に需要がSUVなどに取って代わられようとしている「セダン復権」へ向け、トヨタの高級車としてのあるべき方向を目指したものだ。

「トヨタの高級車として、ドイツのベンツ、BMW、アウディに負けない走りとスタイリングはニュルブルクリンクサーキットで徹底的な走行テストを行い、デザインもスポーティ化を意識して若者層の吸収へ」と秋山チーフエンジニアも強調する。ライバルは、メルセデス・ベンツ「Eクラス」、BMW「5シリーズ」、アウディ「A6」といったドイツ御三家であり、かつ陣営内の「レクサス」でもあるとする。

クラウンとして初めてTNGAを採用、走行安定性に磨き

クラウン初の「TNGA」(トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャー、詳しくはこちら)採用でプラットフォームは一新。エンジンは「GRシリーズ」に新開発V型6気筒3.0リッター、「ロイヤル/アスリート」には4気筒2.5リッターハイブリッドおよび2リッターターボを設定する。「ニュルでの走行テストでは、意のままに操れるハンドリング性能に加え、低速域から高速域までドライバー目線がぶれない走行安定性を実現した」(秋山氏)という。

スタイリングも歴代クラウン初の6ライト制を採用し、迫力を増したフロントマスクやリアの4本マフラーなど、ファストバック色を強めてチャレンジしているのが特徴だ。

一方、次期クラウンはトヨタのコネクティッドカー戦略の先陣とも位置づけられる。「次期クラウンではDCM(データ・コミュニケーション・モジュール)をトヨタ車初の標準装備とし、ネットワークとコネクトしてユーザーに安心・安全を提供する」(相原誠コネクティッドカンパニー・テレマティクス事業室長)ことになる。

現行の14代目クラウンは「ピンクのクラウン」で話題を集めたが、次期クラウンはトヨタが新たな時代に向け、「トヨタの高級車」を追求したクルマだといえよう。

●「日本の高級車像」に何を求める?

○日本産高級車に興亡盛衰の歴史あり

トヨタのクラウンは、「いつかはクラウン」のキャッチだったように日本のモータリゼーション進展期における上級者志向の象徴だった。しかし、1955年の初代モデルから来年夏に投入される新型クラウンが15代目となるように、フルモデルチェンジを重ねる流れのなかで、その位置づけも変わってきている。

クラウンのライバルは、かつて日産自動車の「セドリック」だった。日本自動車産業をリードし、ライバル関係にあったトヨタと日産の高級車を代表するのが、クラウンでありセドリックだったのだ。これに三菱自動車の「デボネア」やホンダの「レジェンド」といった日本の高級車が並ぶ時代もあった。日産セドリックは後継の「フーガ」に代わったし、「丸の内カー」と呼ばれ、三菱グループ役員車として丸の内周辺で多く走っていたこともあったデボネアも、今や消滅した。

トヨタは「レクサス」、日産は「インフィニティ」、ホンダは「アキュラ」の高級車ブランドを立ち上げ、北米での展開から一時は日本でも販売網展開を構想したが、具現化させたのはトヨタだけで、日産、ホンダは断念している。日本車各社としては、欧州・米国の自動車産業に追いつき、追い越すべく、この高級車分野にも挑戦してきた。そんな中、米国メーカーの減退で北米での高級車ブランドは一定の成果を収めたのである。一方で、トヨタはレクサスとともに、トヨタブランドのセダン訴求として先に新型「カムリ」を投入している。

しかし、欧州市場や世界の高級車市場では、なかなか欧州勢、特にドイツの高級車ブランドに太刀打ちできないという流れがあった。メルセデス・ベンツ、BMW、アウディのいわゆる御三家である。それでもレクサスは、「おもてなし」などのブランド力形成でドイツ勢への対抗力を強めている。

○世界最大の自動車市場に次期クラウンも挑戦

クラウンはこれまで、日本のドメスティック高級車としての位置づけであったが、すでに12代目クラウンの2003年から、中国のトヨタ合弁「第一汽車」で現地生産・供給を開始しており、その後も継続している。

来年夏に国内投入される次期クラウンも、中国での現地生産が予定される。もちろん、日本市場における高級車クラウンがトヨタの挑戦ではあるが、日本の高級車としてあるべき姿を追求し、輸入車対抗や若者層の獲得も狙おうとするなら、グローバルでもプレゼンスの向上を図っていくべきであろう。

すでにクラウンも、国内では8割がハイブリッド車である。次期クラウンは、コネクティッドに加えPHV(プラグインハイブリッド車)投入も含め、世界最大の中国市場にチャレンジする可能性があるのだ。