信頼を得られる先輩・上司になるために。「童話」から学ぶ、4つの後輩&部下育成術

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新年度がスタートして、この春からはじめての部下を持ったり、後輩の指導を任されたという人も多いのでは? けれど、彼らとどう向き合えばいいのか不安を感じている人も少なくないはず。そんな悩みを解決するためのヒントが「童話」に隠されている――そう語るのは、『仕事の答えは、すべて「童話」が教えてくれる。』の著者で、数多くのビジネス書を手掛ける文筆家・経営コンサルタントの千田琢哉さんだ。

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「子どものものと思われがちな童話ですが、その作者は古今東西の天才たちです。歴史に名を残す天才たちが創り、世界中の人々によって、何十年、何百年と語り継がれてきた物語は、余計な贅肉は削ぎ落とされ、人間社会の本質をシンプルに捉えています。だからこそ、そこに仕事の答えを見つけることができるのです」

仕事で疲れた頭で哲学書を読むのはしんどいけれど、童話ならすんなり読むことができるはず。『仕事の答えは、すべて「童話」が教えてくれる。』で紹介されている童話の中から、はじめての後輩・部下対策に効く童話をチェックしてみよう。

■『桃太郎』の“きびだんご”だけでは信頼は得られない!

良好な人間関係を築こうと、後輩や部下に優しく接しているつもりなのに相手の反応はイマイチ。もしかして、先輩・上司として信頼されていないのではないかと、悩んでいる人には『桃太郎』流のマネジメント術がおすすめだ。

鬼ヶ島の鬼退治へと旅立った桃太郎は、きびだんごを与えて犬と猿、雉を家来にした。けれど、彼らが桃太郎に従った要因はきびだんごのほかにもあると、千田さんは言う。

「信頼を得るためにもっとも必要なのは、“自立している”ことです。もしも、桃太郎が仲間を集めてから旅立とうとしていたなら、犬や猿、雉は家来にはならなかったでしょう。ひとりで鬼退治の旅をしていたからこそ、彼らは桃太郎を信頼したのです。自立している人――つまり、実力がある人はおのずと信頼されるものです。逆に、実力がない人のきびだんご=優しさは、卑屈で気持ちが悪いだけ。媚びることで築いた人間関係は、偽物の人間関係です。実力によって相手から敬意を得ることではじめて、本物の人間関係を築くことができるのです」

彼らのご機嫌伺いをするのではなく、まず自分の仕事をきっちりとこなして、実力を示す。それが、後輩や部下の信頼を得るための一番の近道なのだ。

■『大きなかぶ』のおじいさんが教えてくれる、リーダーの在り方

指示を受ける立場から、指示する側へとまわると、プロジェクトのリーダーを任されることも増えるだろう。けれど、どうやって後輩や部下を引っ張っていけばいいのか分からない……。そんなときに、リーダーの在り方を教えてくれるのが『大きなかぶ』に登場するおじいさんだ。おじいさんとおばあさん、孫、動物たちのみんなで力を合わせて、大きなかぶを引き抜くというプロジェクトを成功させた要因は、おじいさんの“演技力”にあった。

「おじいさんは最初から本気なんて出していないんです。腰を痛めない程度の力で試しにかぶを引っ張ってみて、誰かに手伝ってもらう必要があるとおじいさんは考えたはずです。そこでおじいさんはおばあさんを呼び、おばあさんは孫を、孫は動物たちを呼びます。そして、おばあさんや孫が助けを呼びに行っている間、おじいさんがくたびれた様子でかぶの前にしゃがみこんでいる“演技”こそが、プロジェクト成功のカギとなっているのです。その姿を見た、孫や動物たち=部下は“自分たちがなんとかしなきゃ!”とやる気を燃やし、その力を利用することで、おじいさんは小さな力でかぶを引き抜くことに成功しました」

先輩や上司が疲れたふりをして、しゃがみこんでいるだけで後輩や部下はやる気になる――『大きなかぶ』には、後輩・部下育成の極意が詰まっているのだ。

けれど、はじめて指示する側となった人には、後輩や部下に仕事を任せることができず、自分ひとりの力でかぶを抜こうとしてしまうこともあるはず。なにかコツはあるのだろうか?

「後輩や部下に仕事を任せられない人は、ずっと部下のままでいればいいのです。なにも悩む必要はありません。けれど、組織が求めているのは後輩や部下を育成できるリーダーです。彼らを育成するためには、あえて転ばせることも必要です。後輩や部下が失敗しないように、自分で仕事を抱え込むことは優しさではなく、育成を放棄しているだけ。彼らが失敗したときに、アドバイスやバックアップができるように体制を整えておくことが本当の優しさであり、本当のリーダーシップなのです」

後輩や部下が転んだときにちゃんと見守ってあげる。自分の実力を磨いて、そのための余裕をつくることが後輩や部下に仕事を任せるコツと言えそうだ。

■後輩・部下を成長させたいなら『ジャックと豆の木』に学べ!

『ジャックと豆の木』の主人公であるジャックは、大切な牛と交換した豆粒から伸びた巨大なつるを登り、雲の上にある巨人の家から金の卵を産む鶏を持ち帰った。ジャックが大きな成功を掴むことができたのは、彼を自由奔放に遊ばせておいた母親の教育が大きいと千田さんは分析する。

「もしも、ガチガチな管理教育で育てられていたなら、ジャックは雲の上まで伸びる大きな豆の木に登るという、無謀な挑戦はしなかったでしょう。自由奔放に遊んで育ったからこそ、冒険に必要な勇気と知恵を獲得できたのです。ビジネスでも、勇気と知恵をいかに獲得できたかで、その後の成長は大きくかわります。後輩や部下の前にレールを敷きつめるのではなく、ある程度の自由を与えることも必要です」

もちろん、後輩・部下にただ自由を与えるのではなく、彼らの得意不得意を見極めて、活躍しやすいフィールドに誘導することも大切だ。けれど、中には自分の得意分野を勘違いしている後輩や部下もいるだろう。どうすれば彼らを上手に導くことができるのだろうか?

「得意分野を勘違いしている人は挫折も早いです。得意分野を勘違いしている人が10時間掛けてやる仕事を、本当に得意な人は1時間でこなしてしまいます。そうした現実を目の当たりにしたとき、自分から気付くものです。そして、自分が勘違いしていたことに気付いて落ち込んだとき、“君はこんなことに向いているのではないか”とそっと囁いてあげてください。受け入れ態勢が整っていない相手になにを言ってもムダです。でも、落ち込んでいるときは、アドバイスを受け入れやすくなっているものなのです」

こちら側の指示を押しつけるのではなく、相手の様子をよく観察して、的確なタイミングでアドバイスすることが、先輩や上司には求められるのだ。

■『人魚姫』のような遠回しな言動は成功率を下げる!?

ここ数年、1988年生まれ以降の「ゆとり世代」が続々と社会人の仲間入りを果たしている。「先輩や上司の言葉には反発心を抱きやすい」とも言われている彼らとどう付き合ったらいいのか、頭を悩ませている人も少なくないだろう。ゆとり世代の後輩や部下を指導するとき、上手な言い回しはあるのだろうか?

「ゆとり世代が先輩や上司の言葉に反発心を抱きやすいというのは大きな間違いです。私はこれまでゆとり世代と数多く接してきましたが、彼らはストレートな言葉でも、ちゃんと話を聞いてくれます。むしろ、遠回しな表現はNG。『人魚姫』の物語では、声と引き換えに人間の足を手に入れた人魚姫は、王子に想いを伝えられずに泡となって消えてしまいました。それは、彼女がストレートに愛を伝える勇気を持たなかったから。もしも人魚姫が身振り手振りででも、王子に“好きだ”と想いを伝える勇気があったなら、ハッピーエンドを迎えることができたかもしれません」

ゆとり世代とうまくコミュニケーションを育めないのには、彼らと接する側に問題があると千田さんは指摘する。

「ゆとり世代に嫌われたくないからとグジグジ悩んで、先輩や上司は遠回しな言葉を選んでしまいがちです。それでは想いを伝えられずに、ゆとり世代の成長やプロジェクトの成功を遠ざけてしまうだけです。彼らに媚びる必要はありません。彼らに媚びない私の著書や講演会は、ゆとり世代からも支持されています。本当に相手のことを思っているのなら、ストレートに叱ることが愛です」

後輩や部下に嫌われることを恐れて遠回しな言葉を選んでしまうのは、きびだんご(優しさ)だけで実力がないことを隠そうとしているだけなのかもしれない……。

今回紹介した4つの童話のほかにも、千田さんの著書『仕事の答えは、すべて「童話」が教えてくれる。』では、20の童話と、そこに凝縮された「仕事の答え」が書かれている。後輩や部下との付き合い方に悩んだときや、仕事で失敗したときにこそ、本書から学べることは多いと千田さんは話す。

「なにもせずに一万冊のビジネス書を読むよりも、仕事で失敗したときに出会った一冊の方が深く、さまざまなことを学ぶことができます。たくさん失敗した人はもっとたくさんの本を読んで、“本物の勉強”をしたくなるはずです。童話や哲学書、マンガなど、どんな本も物事も教材になるのが“本物の勉強”です。たくさん失敗をして、たくさんの本を読み、たくさん挑みましょう。その方が絶対に人生は楽しいです」

童話を読めば、後輩や部下との関係も楽しいものへと変えられるかもしれない。童話を読みながら、今日一日の仕事を振り返ってみてはいかがだろうか?

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