声優として経験したからこそ描けることを入れた 〈あさのますみ×畑健二郎 「それが声優！」2〉
声優であり、作家のあさのますみ（声優としての名義は浅野真澄）と、『ハヤテのごとく！』の作者・畑健二郎によるサークル「はじめまして。」も、最終日の8月12日（日）に、声優あるある4コマ漫画『それが声優！』の第2巻を頒布します。
二人による対談の後編は、サークル「はじめまして。」がコミケデビューを飾った、昨年12月の冬コミの思い出から伺いました。
（前編はこちら）
――1巻を頒布した去年の冬コミでは、あさのさんはブースの奥で、ひたすら裏方作業をしていたそうですが。畑先生の担当は？
畑 僕は、列整理をしてました。ツイッターとかで見かけるファンの方がいっぱい来てくれたので、楽しかったですね。
あさの 話しかけられました？
畑 すごい話しかけられましたよ。
あさの 良いな〜（笑）。
畑 ただ、意外に早く売り切れてしまったのは、予想外でした。完売は無理かなと思うくらいの数を用意していたんですけどね。
あさの 初めてコミケに出すってことで、いろんな方がツイッターのDMで、刷り部数などについてもアドバイスをくれたんですね。でも、最終的には私が「余っても良いから、もっと持っていきましょうよ！」って、畑先生を説得したんです（笑）。
――それが、お昼過ぎには完売したと。1巻に2巻の予告も載っていますし、早くから2巻以降の計画もあったのですね。
畑 最初から、3冊は作ろうと話していました。1冊では終わらせたくなかったんですよね。
あさの 感覚もつかめないですしね。
畑 そうですよね。それに、僕の持論というか、よく言われる物事の考えた方なんですが。1つだけだと点にしかならないけど、2つになると線になって、3つになると面になるって言うじゃないですか。あれは正しいと思っていて。やっぱり、今回、2冊目を作ってみて、2倍ではない広がりがあるなと感じたんですよね。たぶん、3冊くらい出すと、コンテンツと言っても良いくらいになるんじゃないかな、と思ってます。
――2巻を作るにあたって、変えた事や、目標にしたことなどはあるのでしょうか？
あさの 1巻はけっこう中身がギューッと詰まっている感じだったので、少し箸休め的なページを入れたいとは思ってました。
――3人のヒロインのカバンの中身を紹介したページなどですか？
あさの はい。あとは、真ん中に一コマだけの漫画があるページとか。それと、2巻のラストの展開は、1巻のネームを考えている時からやりたいと考えていたことだったので、それが入れられて良かったです。
――そうだったんですね。では、作画面での変化は？
畑 全体的にちょっと線が太くなっているんですよ。優秀なアシスタントに時間を掛けて描いてもらったおかげで、背景の質もかなり上がっています。
――確かに、背景を含めた絵の密度も、かなり高くなったと思いました。ページ数も増えてますし。
畑 あと、2巻では新キャラクターも登場するんですが。彼女のデザインは、ここ何年かで会心の出来だと思っていて。
――魅力的なキャラですよね。どのあたりが、ポイントですか？
畑 あえて、デザインの中に記号っぽいものを入れてないんですよ。例えば、眼鏡であったり、ツインテールだったり。そういう記号はあえて全部抜いてるんですね。それでも、大人の女性っぽくちゃんとまとめられて、それなりに華のあるデザインになっていると思ってます。
●経験したからこそ書けることを入れたかった
――2巻は「webラジオ編」ですが、このテーマを選んだ理由は？
あさの ラジオってエンターテイメントなので、皆さんは、いち視聴者として楽しんでくれているじゃないですか？ でもやっぱり、作る側には色々な葛藤もあるというか。お話の中にも描きましたけど、声優だって、常にいつでも楽しい気持ちでは無いわけで。そういう時でも、スタジオでは楽しい番組になるようにと思って喋っているんですよね。まあ、それを分かって欲しいというつもりではないんですけど。そういう部分が垣間見えるのも、面白いんじゃないかなと思って。自分が声優として経験したからこそ描けることを、入れたかったんです。この同人誌を読んでくれた人が、誰かのラジオを聞いてみたいなと思ってもらえたら、嬉しいなという感じで。
――畑さんは、2巻のネームを読んで、どのような感想を？
畑 いろいろなネタも面白いんですが、僕が今回、一番面白いと思ったのは、最後の展開なんですよ。こういう言い方は誤解を招くかもしれないですけど、普通の漫画家さんではなかなか描けない展開。
――僕も読んでいて、思わず「え！」と声を出しそうになりました。
あさの あはは（笑）。
畑 これを読んでもらえたら、あさのさんが、ただの遊びで漫画を描いてるんじゃない、ということがすごく伝わると思うんですね。主張があるじゃないですか。いつも「お金のため」とか言いながらも（笑）、やっぱり作家性が前に出てくるんだなと。そのへんが素晴らしいですよね。
あさの あ、ありがとうございます（笑）。最後のエピソードは、声優をやっているとよくあることなんですけど、その話について書いてる人っていないと思うんですよね。
――そうですね。
あさの 声優って、こういう気持ちなんだよというのが伝われば良いなと思いながら、書きました。それを、みんなが面白がってくれて、この3人をますます好きになってくれたら嬉しいですね。
畑 あさのさんは、作家として、絶対に成長みたいなものを描きたい人なんだと思うんですよ。描きたいというか、無意識のうちに描いてるのかな。1巻も2巻も、他の作品もそうだと思うんですね。そのあたりも、僕にはあんまりないところなので、面白いなと思います。
あさの そうなんですか？ 私がお話を作る時に意識しているのは、向日性というか、ポジティブさというか……。自分自身が、読み終わった時、気持ちが前向きになるような読後感が好きなので。何を書く時でも、そこだけは意識しています。だから『それが声優！』も、読み終わった後に「自分も頑張ろう！」と思えるような本になればという気持ちで書いてます。
●100点のラインは越えられました
――1巻の時よりも準備期間があったので、他の声優さんへの取材で仕入れたネタも多いのでは？
あさの そうですね。3人のカバンの中身紹介ページについては、アフレコの時に「ねえ、カバンの中って何が入ってる？」とか質問したりしましたし。鈴ちゃんは学生をしながら声優としても働いているという設定ですが、私はそういう経験をしたことがないので。実際、まだ学生の子に、「学校ではどんな感じ？」とか、「どうやって勉強と両立させてるの？」とか取材したりしました。ただ、今回はメインのネタがラジオ編じゃないですか。私、デビューしてからずっとラジオをやらせてもらっているので。ラジオに関してのネタは、ほとんど自分が経験したことだったりしますね。
――まだラジオに不慣れな双葉が、先輩にからかわれたりもしていますが、それらも実際にあさのさんが経験した事ですか？
あさの それは、以前、新人の子と一緒に番組をやった時、私がやったことですね（笑）。
――ああ、先輩の側としての実体験だったのですね（笑）。
あさの はい（笑）。番組の中で新人の子に変わったニックネームをつけたら、そのまま定着しちゃったというのも実際にあった事で。今もまだそのニックネームで呼ばれていて、「ごめーん」って思ってます（笑）。あと、ラジオですごくお世話になっているスタッフさんが出てきたり。ラジオを聴いてくれてる人なら、絵を見ただけで、誰だか分かると思いますよ。スタッフさんにも、「漫画に出して良い？」と聞いて許可ももらってます。
――僕も「この人は……」と思いました（笑）。夏コミも間近ですが、お二人の手応えは？
あさの 1巻を読んで下さった同業者の人の評判がけっこう良くて。「こういう事、あるあると思いながら読んだよ」と言ってもらえたんですね。2巻でも、実際に（声優業界で）あることをそのまま入れました。なので、リアルな声優の一面が垣間見える作品には、なってるかなと思います。それを皆さんに面白いと思ってもらえると良いな……という感じですね。
畑 正直、僕の中では、この2巻は会心の出来だと思ってます。
あさの お〜〜。
畑 自分でこういう事を言うのは変かもしれないですけど、この時間の中で、自分の能力を使って描ける100点のラインは越えられたと思っています。
――正直、商業作品の『ハヤテのごとく！』の横に並べても、何の違和感もないクオリティだと思います。
畑 はい。何の違和感もないはず。内容的にも絵的にも、自分の中ですごく良くできたと思うので。夏コミで、みんなに読んでもらえるのが楽しみです。手に取って読んでくれた人が、どんな顔をするのか。
あさの 残念ながら、読んでるところまでは見られないですからね（笑）。
畑 ツイッターとかで、どんな意見が返ってくるか、楽しみですね。
あさの 感想、聞きたいですね。サークルのホームページにも、アンケートページを作る予定なので、ぜひ！
●今回こそは、みんなに会いたい
――あさのさんにとっては、出展者としては初の夏コミですね。
あさの はい。でも、前回のコミケで私は、ブースの中でクリアファイルとしおりと折り本のセット作業をずっとしていたので、印刷会社の箱に描かれた猿の絵と会場の床しか見ていなくて（笑）。2巻にもクリアファイルと折り本が付くのですが、今回は前日から準備をしておく予定です。当日は、少しでもコミケを楽しみたいので（笑）。今回こそ、みんなに会えるのが楽しみです。
畑 前回は2時間くらいで完売してしまったので、今回はさらにたくさんの本を持って行きます。目標は、コミケが終了するまでブースにいることなんですよ。
あさの ブースに来て下さった方に、「売り切れました」って伝えるのは本当に申し訳なかったので。
畑 当日の状況次第なので確約はできないですが、ブースに来てくれたすべての方に、本をお渡しできれば良いなと思って、印刷部数を決めました。かなり強気な数です（笑）。
――では、最後に。『それが声優！』の2巻を目当てに、初めて夏コミに来る方もいると思うので。夏コミ初心者に向けて、畑さんからアドバイスがあれば、ぜひ。
畑 そうですね……。たぶん、コミケは友達と来る方が楽しいと思います。
あさの 手分けして、色んなサークルの本を買えるからですか？
畑 はい。なので、できるだけ多くの友達と来た方が良いですよ、という感じでしょうか。そうすると、例えば始発電車で来て、入場前に並んで待ってる時も、普通に楽しいですから。途中でトイレにも行けますしね。
あさの なるほど。
――そして、グループの中の一人は、「はじめまして。」のブースに来て、という感じでしょうか（笑）
あさの あ、もちろん（笑）。コミケ3日目の8月12日（日）に、「西あ 20-ab」まで、ぜひ来て下さい！
（丸本大輔）
