文学フリマでのエキレビ!ライター陣の“収穫”。『S.E.』『90年代ゲームとゲーム漫画』『ゴキコミ』『放課後』『THIS IS NOT A LOVESONG**』

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連休最終日の5月6日、東京流通センターにて同人誌即売会「第14回文学フリマ」が開催された。当日は会場に隣接するセンタービルが電気工事のため、同ビルに入るカフェやコンビニといった店舗も休業、また会場も空調の冷暖房が使用できず送風のみと、異例づくめの開催ではあったが、あいかわらずの盛況ぶりを見せていた(暑かったけど)。

さて、エキレビ!では一昨年11月の第11回より毎回、各ライターが文学フリマで見つけて面白かった本を紹介している。今回はその第4弾として、初めて会場を訪れた加藤レイズナさんをはじめエキレビ!ライター陣のおすすめ本をここに一挙に紹介したい。なお、各文章の冒頭には本のタイトルとともに、カッコ内にその本を販売していたサークル名を示した。

【青柳美帆子のおすすめ本】『S.E.VOL4』(左隣のラスプーチン)
テーマは「文学」! 小説が2本、評論が3本、漫画が1本。その中で、『盤上の夜』の宮内悠介さんの短編「文学部のこと」がツボでした。
舞台は文学部。ただ、この世界の「文学」は、私たちの世界の文学とは違う。「文学」を作るために必要なのは、「材料」「酵素」「仕込み」!
そんな文学部では、学生たちが糠を取り除いたりビフィズス菌の混入に苦しめられたり流し素麺をすすったり現実とぶつかったりする。SFだし青春だー!
この設定にもかかわらず、「あ、これ確かに文学部の話だわ」と思えてしまうのもスゴイ(私は文学部生なんですが、妙に実感が……)。
高山羽根子さんのおばあちゃんの背中と般若心経短編や、かつとんたろうさんのドイツ・ロマン主義的批評論などなど、他の作品も尖りまくりです。

【とみさわ昭仁のおすすめ本】『90年代ゲームとゲーム漫画』(カニ温泉)
わたしが文学フリマで買い求めているのは大体いつもコレクト系の本ばかりだ。これまでにもAmazonの商品発送用段ボールを集めた「日常⊇非日常」(NEKOPLA)とか、女子高生バンドのインタビュー集「いまどきの10代に聞いたリアルな『けいおん!』の話。」(成松哲)といったものを発掘してきた。で、今回の収穫はサークル・カニ温泉の「90年代ゲームとゲーム漫画」。90年代に区切ったことに深い意味はないんだけども、胡散臭い遊びでしかなかったゲームというものが、世界に誇る文化へと成長していく過渡期の気分を、児童漫画という切り口で分析していてとても興味深い。このサークルは他にも、アニメに登場する大仏のシーンばかりを集めた「大仏アニメ」という本なんかも作っていたりして油断がならない。

【tk_zombieのおすすめ本】『ゴキコミ』(ゴキコミ)
今回もゾンビものを探して二点見つけました。ひとつは前回も紹介した東部市場さんのゾンビ布教フリーペーパー「Cafe Of the Dead」の最新号。今回の特集は第二回学生残酷映画祭にゾンビ映画を出品した佐藤周監督のインタビューでした。もうひとつは「ライフ・イズ・デッド」の古泉智浩さんが売っていた「ゾンビの森」。こちらは既に二つ持っているので今回は買いませんでした。新作読みたいです! ゾンビでないけど驚いて買ったのがゴキブリについてのミニコミ誌「ゴキコミ」。ゴキブリが出てくるマンガ、映画、特撮の怪人の紹介、食用で飼育している女性のインタビュー、ゴキブリはんこの作り方などまるまる一冊ゴキブリづくし。あとで聞いた話では、この周辺のブースにはヤリマン、薔薇族、童貞の同人誌が売られていて、文学フリマで最も濃いゾーンだったみたいです。

【加藤レイズナのおすすめ本】『放課後 Vol.4 視聴覚室号』(「放課後」編集部)
今回がはじめての文学フリマ! 何を買おうかなーとフラフラ歩いていたらファミコン風ドット絵(マリオチック)な表紙を発見。サークル放課後さんの「放課後 Vol.4 視聴覚室号」。〈じんせいとたたかうための特効薬、それがゲームの力なんだ〉。ゲームと現実の新しい接点を考えた記事で構成されている。ゲーム的な作品をクロスレビューで紹介したり、文学フリマ代表の望月倫彦にゲーム「アイドルマスター」についてインタビューしたり。特に面白かったのが、「伝説のクソゲー いじめ」レビューだ。「かげぐちじょし」「くつかくし」「かたぱんまん」(肩パン!)など、教室内で、できれば出会いたいくない連中をキャラクター化し解説。うわー、リアル。一説によると、レビュアーの実体験も含まれているのだとか……。うーん。放課後ははやく家に帰るに限るね。

【近藤正高のおすすめ本】『THIS IS NOT A LOVESONG**』(大坪ケムタ)
今回の文学フリマでは、行きがけに浜松町駅の立ち食いそば屋で、帰りはモノレールの車内で、となぜか(ってもちろん目的地が同じだからなんだけど)ライターの大坪ケムタさんをよくお見かけしました。先にTwitterなどで文フリで新刊を出すとの告知があったから、そば屋でおかけしたときにはいっそその場で購入しようかとも思ったのだけれども、ご迷惑がかかるのではと思いとどまりました。
というわけで、ちゃんとブースでご本人から買ったのがこの本。一言でいえば男性の童貞喪失インタビュー集です。《7割のエピソードでギンギンにおっ立ちました。そしてうかつにも、ほのかな感動を覚えてしまったり》とは、巻頭に寄せられたマンガ家・武富健治さんの言葉(じつは大坪さんと武富さんは従兄弟なんだとか。驚いた)。まさにその言葉どおり、胸も下半身も思わず熱くなる話がいっぱいです。たとえば、学生時代に旅館でバイトしたとき、寮で一緒になったウェイトレスたちからモテモテ……といったうらやましい話もあれば、フーゾクで喪失してわりとあっさり終わってしまったという話も。
大坪さんは現在もウェブサイト「メンズナウ」でインタビューを継続中。将来的に、山田風太郎の『人間臨終図巻』みたいに、童貞喪失年齢別に体験談をまとめていただけると面白そうですが。
今回の文フリではこのほか、「押尾学と交際中のモデルルーム」というすごい名前のサークルがあって、恐る恐る行ってみたら残念ながらすでに新刊は完売。新刊は絵馬の名作・珍作を集めた『えまにあん』という本で、見本を見せていただくと、「梅宮辰夫に会いたい」と書かれた絵馬が出てきたり、たしかに珍作ぞろい。結局サークルの方のご厚意で、後日、自宅に送っていただけることになりました。

以上、いかがであっただろうか。回数を重ねるたびに出店サークルも増え(今回は約650ブースが出店したという)、会場全体をまわるのもなかなか時間がかかるのだが、それでもここに紹介したような本、そして何よりそれをつくった人たちと会える(コミケなどとくらべてもライターの参加している割合も大きい)という点で、えがたい場となっている。

次回、15回文学フリマ(第1回から10周年という節目の大会)は今年11月18日、今回と同じく東京流通センターでの開催が決まっている。(近藤正高)

【関連】文学フリマ公式サイト

※とみさわさんの紹介文中でとりあげられているライターの成松哲さんは、今回の文学フリマでも販売された『Kids these days! vol.2』の刊行記念イベントを、明日、5月12日にお台場の東京カルチャーカルチャーにて開催する。詳細はこちらを参照のこと。