珍盤集めて27年、とみさわ昭仁の「スカイツリー便乗ソング」全曲レビュー
なんで東京タワーがあるのに新しくこんな塔をおっ建てたのかっていうと、ようするに東京タワーのある周辺はもう超高層ビルだらけで、せっかくタワー先輩が電波をビンビンに飛ばしても、届きにくくなっちゃったらしいんだな。だから、高層ビルの少ない地域に新しくタワーを建てたい、ってのが理由のひとつ。
他にも、最近はワンセグだのマルチメディア放送だのといったケータイ機器向けの放送がいろいろ出てきてるんで、それを見やすくするって理由もあるらしい。まあ、細かいことはおれにはワカンネ。
じゃあ、開業当日に駆けつければいいかっていうと、それも簡単にはいかない。なにしろ展望デッキへの入場券は開業の５月22日から７月10日までは日時指定の完全予約制で、すでに大変な勢いで売れちゃってるって言うじゃない？ しばらく当日券は出ないし、インターネット予約は抽選方式だし、タワーひとつ登るにもハードルが高いもんだねえ。まあ無理もないか、全高634メートルなんだから。
で、運よくチケット取れた人はまあいいとして、そうじゃない人はどうすればいいか？
唄だよ唄。唄を聴いて待つんだよ。
昔から、こういう未来を象徴する巨大建築物や交通インフラのプロジェクトがあると、それにあやかった“便乗ソング”が作られてきたんだな。横浜マリンタワーの開業を記念した『マリン・タワーで逢いましょう／田代京子』（1961年）とか、東京モノレールの開通を祝う『恋のジェット航路／和田弘とマヒナスターズ』（1964年）とか、東北新幹線の開通を唄った『夢の東北新幹線／新沼謙治』（1982年）とか、リニアモーターカーの完成を夢見る『リニア讃歌／高石省三』（1990年）とか……。
もちろん、東京タワー先輩だって負けちゃいない。覆面シンガーが唄う『東京333米（メートル）／ミラクル・ヴォイス』（1959年）、タワー観光をテーマにした『東京タワーの唄／西六郷少年少女合唱団』（1967年）、東京タワーへの憧憬をシンセに乗せてしっとりと歌い上げた『哀愁の東京タワー／遠藤賢司』（1979年）などなど、珍曲、名曲が揃ってる。
そして、東京タワーにこんだけ関連レコードがあるなら、東京スカイツリーにだって唄がないはずがない──。
と、ここまでは長い前フリでございまして、ここからは珍盤集めて27年のとみさわ昭仁が、スカイツリー便乗ソングを一挙にレビューするのだった。
■『TOKYO SKY TREE／MARIN & G.O』（2010年８月11日／F.I.V.E RECORDS）
スカイツリーの存在感が静かにひたひたと迫ってくるようなヒップホップ曲。サビのところのリリックでスカイツリーをやけに美化していて、知らず知らずのうちに押上（ダウンタウン）が素敵に思えてきて（輝き出して）、なんとも不思議な気持ちになる。
■『組曲 6億円ください 第4楽章「スカイツリー」／Acma』（2010年12月15日／DRAGON GATE RECORDS）
『エイリアン営利案』という相当ひどい駄洒落タイトルのアバムに収録されたこの曲は、４つの楽章から構成される組曲で、意外にしっかりしたバンドサウンドを聴かせてくれる。スカイツリーと直接的な関係はないようだけど、「ロークオクエーンクダサーイ」と繰り返すサビが耳に気持ちいい。
■『スカイツリーは完成間近／四星球』（2011年１月19日／ duke records）
徳島県出身のパンクバンド。と言いつつも「泣けるコミックバンド」をキャッチフレーズにしているように、この曲にはユーモアと勢いとセンチメンタリズムが漲っていて、思いのほか聴き応えがある。ニューロティカが好きだった人ならじっとしていられなくなること請け合い。
■『スカイツリー／□□□』（2011年２月23日／commmons）
いとうせいこうが加入したぐらいだからヒップホップ……と言いたいところだけど、実際聴いてみるとジャンル分けしにくい音楽ばかりを発表し続ける□□□（クチロロ）も、スカイツリーを題材に選んでいる。窓から見える建設中のスカイツリーを「もうこんなにでっかくなったんだ！」って表現する言語感覚がいいな。
■『東京スカイツリー／愛狂います。』（2011年４月20日／NINE）
ビジュアル系、という表現は下手に使うとミュージシャンの方々のご機嫌を損ねることは承知しつつ、オジサンには美男が揃ってるだけでそう見えてしまうのでご勘弁願いたい。曲は、バンド名が示すようにヘヴィなラブソングで、スカイツリーの高さと全能感をリンクさせた詩の世界がおもしろい。
さて、ここまではエキレビの読者に合わせてロックとかラップといった若い人向けの曲を中心に紹介してきた。こういうのが全部iTunes MusicStoreからダウンロード購入できちゃうって、すんごい時代になったもんだね。けれど、こちとらオッサンだ。やっぱり便乗ソングの本領は演歌にあり、と言わせてもらおう。行きつけの銀座山野楽器の奥の演歌コーナーとか、浅草のド演歌専門店ヨーロー堂とか、宮田レコードとか、若い人はあんまり行かないような店をまわって、スカイツリーあやかり演歌をかき集めてきたんだぜー。
■『スカイツリーは雲の上／さくらまや』（2010年12月８日／日本クラウン）
演歌少女さくらまやがビッグバンド風の演奏にノせて唄うパラダイスソング。北海道の老舗料亭の家に生まれ、２歳半からバイオリンだピアノだハープだと徹底的な英才教育を受け、10歳でプロデビューしたという天才。美空ひばりに憧れて唄の世界に入っただけあって、『港町十三番地』調にスウィングしまくる歌唱が心地よい。作曲は演歌界のおかっぱ男子、岡千秋。
■『夜空のスカイツリー／西郷輝彦』（2011年５月11日／日本クラウン）
どことなく“戦メリ”っぽいイントロに、西郷輝彦のハンサムヴォイスがかぶさってくれば、不思議に安心感を覚えるのはなぜなのか。元祖御三家の力、いまだ衰えず、ということか。夜空に屹立するスカイツリーに灯った明かりを、残り少ない人生の灯明に見立てた森加代子（森山加代子じゃないよ）の詩がせつない。
■『東京スカイツリー音頭／相原ひろ子』（2011年８月17日／公益財団法人日本伝統文化振興財団）
便乗ソングと言えば、やっぱり“音頭”につきる。オリンピックもオバＱも、怪獣もＵＦＯもランバダも、しまいにゃイエローサブマリンさえも、時代を湧かせたアイテムはぜーんぶ音頭にされてきた。そりゃスカイツリーだって音頭になるってもんよ。「♪トウキョ〜 トウキョ〜」のリフレインはお江戸の盆踊りに欠かせない。輪になって踊れば昇天気分。スカイツリー音頭は現代の「東京音頭」といっても過言ではない。
■『東京スカイツリーの歌／京一夫＆ちづる』（2011年11月９日／インターナショナルミュージック）
このＣＤのジャケットを見て買わずにいられる人なんている？ 即、カゴにINするでしょ？ 最先端の建築の唄なのに、ジャケ写の世界観がなぜか「芸者、股旅、スカイツリー」。どうしたわけかなんだろう。Ａ面はわりとオーソドックスな男女デュエットでスカイツリーを唄ってるのに、Ｂ面にはなぜか『東京天空樹之歌』として中国語バージョンを収録。しかも作詞したのはカルロス大島っていって、こんな風貌の人。いったい誰に向けた企画なんだかサッパリわかんない。だがしかし、これこそが便乗ソングの醍醐味とも言えるのだ。
というわけで、このレビューをどうまとめて終わろうか考えあぐねていたおれなのだが、この際まとまんなくてもいいよね。
そういえば、先週『海ほたる音頭』みたいなＣＤがあるんじゃないかと思って、パーキングエリアの「海ほたる」までアクアラインぶっ飛ばして行ったんだけど、全然ないのな。その悔しい気持ちは、５月22日のスカイツリー開業にぶつけてみたいと思う！（とみさわ昭仁）
