歯周病を防ぐ方法はあるのか。40年間の医師生活で2500人の最期を看取った長尾和宏さんは「『かため』の歯ブラシは歯ぐきを傷つけ、歯肉退縮を招くリスクがある。靴選びのように個人にフィットしたものを選ぶことが、歯周病予防の第一歩になる」という――。(第2回)

※本稿は、長尾和宏『病気の9割は自分で治せる!』(PHP新書)の一部を再編集したものです。

写真=iStock.com/ThamKC
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/ThamKC

■「かため」の歯ブラシは選んではいけない


歯磨きをする上で、歯ブラシ選びは大事です。歯科医がすすめる歯周病予防の「理想的な歯ブラシ」は、実はかなり共通した特徴があります。

まず毛の硬さは、「やわらかめ」もしくは「ふつう」がおすすめです。「かため」は歯ぐきを傷つける、歯肉退縮(歯ぐきが下がる)を招くなどのリスクがあります。特に、歯磨きの後、たまに口の中が出血するなど、歯ぐきが弱い人は「やわらかめ」にしましょう。

ヘッドの大きさは「小さめ」です。小さいほうが、奥歯の裏側や歯並びの悪い部分に届きやすいのです。前歯2本分くらいの幅が目安となります。毛先の形は先端が細くしてあるもの(テーパード毛)を選びましょう。歯周ポケット周辺を磨きやすくなります。

毛の密度は高すぎないほうがよいです。ぎっしり密集したほうがよく磨けそうな印象ですが、実は歯垢が毛の間に詰まりやすいデメリットがあります。適度な密度のほうがカスをかき出しやすいのです。持ち手(ハンドル)は、細かい動きがしやすいストレート形状がいいでしょう。今の電動歯ブラシも優秀です。「手磨きが苦手」「短時間で効率よく磨きたい」人に向いています。

■歯ぐきが傷つくと歯周病リスクが高まる

歯ブラシ選びはいわばウォーキングの靴選びと一緒です。個人個人の歯に合わせてフィッティングしてもらってもいいぐらいです。合わない靴で歩くと靴擦(くつず)れしたりするのと同じように、合わない歯ブラシは逆効果です。ビジネスホテルのアメニティのような歯ブラシはなるべく避けましょう。

旅行や出張では、いつもマイブラシを持っていたいものです。歯磨き粉も、かかりつけの歯医者や歯科衛生士とよく相談して、歯周病予防に効果があるものを、ぜひ選んでください。ちょっと高くても、効果を考えれば安いものです。

ビジネスホテルの歯ブラシは毛先が硬くとがっていることがあります。硬すぎる歯ブラシは歯ぐきを傷つけることがあります。そのような歯ブラシを使う場合は、歯ぐきを傷つけないように軽くあてるなど、注意して使いましょう。

歯ぐきに傷がつけば、何らかの菌に感染しやすくなりますから、歯周病になるリスクがあります。高い歯ブラシには、高い理由があるのです。きめ細かくてやわらかくて傷つけない、そういう機能を目指して作られた物を使うことが、体を気遣うということです。私も恥ずかしながらこの年で気がつきました。

■「ゆすぎ」は1日何回やってもいい

さらに時間をかける意識を持ってほしいのが「ゆすぎ」です。グジュグジュパー、グジュグジュパーを、1日トータルで何十回もやってほしい。磨きっぱなしにしては元の木阿弥(もくあみ)。磨いたものを全部きれいに洗い流さなければいけません。

洗口液は必要ありません、水でいい。特に寝る前です。やらないと、寝ている間に口腔(こうくう)内の雑菌が気管内に垂れ落ちていきます。起きていれば咳(せき)をするなどで痰(たん)として出せるのですが、眠ってしまうとできません。夜間睡眠中の不顕性誤嚥(ふけんせいごえん)といいます。これが肺の奥深くに達すると、誤嚥性肺炎のリスクになるのです。ですから本当にしっかりとゆすぎましょう。

左写真=iStock.com/kohei_hara、右写真=iStock.com/eternalcreative
※写真はイメージです - 左写真=iStock.com/kohei_hara、右写真=iStock.com/eternalcreative

肺炎は日本人の死因の第5位になっており(2024年「人口動態統計」厚生労働省)、長寿のためにはぜひ気をつけたい病気です。特に高齢肺炎の大半は誤嚥性肺炎です。

■「正月のもち」よりこわい誤嚥性肺炎

誤嚥性肺炎といっても、食べものを飲み込み損ねてというケースは少ない。

意外に思われるかもしれませんが、食物誤嚥ではないのです。夜間睡眠中の不顕性誤嚥が高齢者の肺炎の原因です。これは、睡眠中に唾液が気管に垂れ落ちることで起きます。昼間の誤嚥であれば垂れ落ちても咳反射で痰として出せますが、睡眠中だと咳反射がなく、身体の反射が起こらない不顕性誤嚥になってしまうのです。

オーラルフレイルや口腔機能低下症になると、夜間睡眠中に雑菌をたくさん含む唾液が気管に垂れ落ち続けます。夜間睡眠中は咳反射がないので、知らない間に誤嚥性肺炎を発症します。まさか自分の唾液で肺炎になるなんてと思うかもしれませんが、現実はそれが非常に多いのです。

ですから、寝る前の口腔ケアが非常に重要です。歯磨き、口をよくゆすぐこと、この2つです。寝る前、面倒がらずに5分や10分は口腔ケアに使うことが、誤嚥性肺炎の最大の予防策なのです。

■大腸の次に細菌が多いのが「口腔内」

口の中は細菌の坩堝(るつぼ)です。人体全体でも、大腸菌ウヨウヨの大腸の次に細菌が集まっている場所なのです。

長尾和宏『病気の9割は自分で治せる!』(PHP新書)

歯と歯の隙間や歯ぐきとの間に溜まる歯垢(しこう)には、1グラム当たり何十億という細菌がいます。ですから口腔ケアをしっかり行なって、できる限りきれいな状態にするのです。

きちんと口腔ケアをしていない状態の唾液は、細菌でびっしりになっています。ウイルスもいます。それが睡眠中に肺に流れ込むのが、不顕性誤嚥による誤嚥性肺炎です。口腔ケアをしても、もちろん誤嚥性肺炎のリスクはゼロにはなりませんが、低下はします。

意識する人としない人では、状況はかなり変わります。免疫機能が低下して、微生物との駆け引きに負けてしまえば肺炎になる。病気とはそういうものです。ですから病原体に触れないということだけでなく、自分の免疫機能を上げるか、せめてできるだけ下げない生活をすることが大事なのです。そのためには口腔ケアをしっかり行なうことです。

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長尾 和宏(ながお・かずひろ)
医学博士
1958年、香川県生まれ。1984年、東京医科大学卒業、大阪大学第二内科入局。大阪大学病院第二内科、市立芦屋病院内科などを経て、1995年、尼崎市に長尾クリニック開業。複数の医師による365日24時間態勢で、外来診療と在宅医療を両立させ、40年間の医者生活で2500人の最期を看取る。2023年、長尾クリニックを定年退職。主な著書に、『歩く人はボケない』(PHP新書)、『病気の9割は歩くだけで治る!』(ヤマケイ文庫)、『「平穏死」 10の条件』(ブックマン社)、『僕とイベルメクチンの物語』(南東舎)など。
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(医学博士 長尾 和宏)