【穂積 昭雪】村民全員がひとりの男に殺され、青森県の地図からも消えた…「杉沢村伝説」の真相に迫る

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一つの村が消滅「杉沢村伝説」

このような話を聞いたことがないだろうか。

かつて青森県の山中に、杉沢村と呼ばれる小さな村があった。だが昭和初期、この村に住むひとりの男が突然、村人全員を殺害。最後は自ら命を絶った。その後、村は廃村となり、地図や県などの公式文書から存在を抹消されてしまう。現在も杉沢村があった場所には怨霊が棲みつき、訪れる人を呪う--。

この不気味な話は「杉沢村伝説」と呼ばれ、インターネット都市伝説として2000年以降に流行した。紹介する媒体によって細部に差異こそあるものの、概ねの内容は変わらない。

もともとは戦後の青森県で知られていたローカルな都市伝説だったとされているが、1999年前後に放送された『奇跡体験!アンビリバボー』(フジテレビ系)で取り上げられ全国に広がった。2000年以降、インターネットが普及していくなかで再び話題を呼び、さらに広く流布されるようになったとみられる。

杉沢村にまつわる殺人事件はあくまで噂話だ。

とはいえ振り返ってみると、これまで日本ではいくつかの大量殺人事件が起きている。歴史に埋もれているだけで、実際にこのような事件が起きた可能性はないのか。本稿では「杉沢村伝説」を検証してみたい。

津山三十人殺しとの共通点

「杉沢村伝説」には大きなポイントが5つある。「青森県」「昭和初期」「発狂(心神喪失)」「村人全員の殺害」そして「犯人の自殺」である。

「昭和初期」「村人全員の殺害」「犯人の自殺」という要素を満たすような大量殺人事件といえば、やはり1938年(昭和13年)の「津山三十人殺し」が筆頭にくるのではないだろうか。

津山三十人殺しは、1938年5月21日に岡山県苫田郡西加茂村(現在の津山市加茂町)で発生した大量殺人事件で、日本を代表する猟奇事件のひとつでもある。

事件は5月21日深夜1時よりはじまった。

この村に住む青年・都井睦夫(とい・むつお)は、まず自分の家で寝ている祖母の首を斧ではねて殺し、続いて自身と肉体関係のあった女性やその家族を次々と猟銃や日本刀で殺害していった。深夜1時から2時半までのわずか1時間半の間に都井は33名の村人を襲い、最終的に30名が死亡するという大惨事となった。殺戮を終えた都井は、村から3キロ離れた山で自ら命を絶っている。

本事件は発生から90年近くが経過した今も小説や映画、ドラマなど様々な形で目にする機会が多く、特に横溝正史の小説『八つ墓村』では事件をモデルにした“三十二人殺し”が描かれている。

一般的には、1938年に起きた津山三十人殺しこそが「杉沢村伝説」のモデルとされる傾向が強いが、当然史実と異なっている点は多い。

日本刀の殺傷能力の限界

第一に津山三十人殺しの犯人である都井睦夫は決して「心神喪失状態」ではなかったという点は強調しておきたい。

現代において広く知られている話ではあるが、都井睦夫は少年時より学校の成績は非常に優秀であった。そして決行の覚悟を決めてからは自ら狩猟免許を取得し、合法的に猟銃や日本刀などの武器を確保。来るべき実行日に向けて銃の練習を続けるなど入念な準備を行っていた。

つまり、津山三十人殺しとは頭脳明晰な人物が計画性をもって行った大量殺人事件であり、決して心神を喪失した人物による犯行ではなかったのだ。

また、いくら日本刀などの武器を持っていたとしても、心神喪失状態の人間がたったひとりで何十人もの村人を殺戮するのは不可能である。特に日本刀は人間を斬ると刃に脂が付着するという構造上、何十人も斬りつけ死に至らせることは難しい。

そのため都井睦夫がメインの武装として選んだのは日本刀ではなく猟銃であった(津山三十人殺しにおいて日本刀で殺された村人は僅か3名ほどである)。

日本刀がいかに大量殺人に向かない武器であるかは、後年に発生した事件でも明らかである。1985年(昭和60年)9月19日、山口県下関市の団地で日本刀を持った男が自身の母親を殺害後、通行人を襲い、近隣の住宅に押し入って計11名を斬りつける無差別殺傷事件が発生した。

男性には精神科に通っていた過去があり、「心神喪失」という要素だけみれば「杉沢村伝説」にも近しい事件ではある。だが、武器となった日本刀はすぐに折れてしまい、本事件による死亡者は4名にとどまっている。

「杉沢村伝説」では、使用した武装についての言及は特にないが、多くは刃物ないしは斧とされている。仮に刃物で村人全員(何十人〜何百人規模の人間)を殺すのであれば、最低でも10本以上を用意する必要があるため、やはり大量殺戮を行うためには(後編でも言及するが)斧が適当と言えるのではなかろうか。

つづく記事〈《青森県の大量殺戮村》はなぜ地図から消されたのか?…男が村民全員を殺害した「杉沢村伝説」と「平成の大合併」の意外な関係性〉では、ほかの大量殺人事件とも比較する。

【つづきを読む】《青森県の大量殺戮村》はなぜ地図から消されたのか?…男が村民全員を殺害した「杉沢村伝説」と「平成の大合併」の意外な関係性