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現役時代に購入し、ようやく住宅ローンを完済したマイホーム。「これで一生住む場所には困らない」と安心している人は多いかもしれません。しかし、子どもが独立して夫婦二人だけの生活になると、マイホームはかえって日々の生活の負担になりがちです。かつては「終の棲家」と信じて疑わなかったマイホームが、老後の足かせになってしまうケースが増えています。FPの川淵ゆかり氏のもとには、シニア世代から「老後の住まい」に関する相談が多く寄せられます。今回は、東京郊外の戸建て住宅に住むAさん(70歳)の事例をご紹介しましょう。※プライバシー保護の観点から、相談者の個人情報および相談内容を一部変更しています。

ローン完済後の持ち家の現実

Aさんは、以前は中小企業に勤めるサラリーマンでした。現在は同い年の妻とともに、月26万円の年金生活で、住宅ローンはすでに完済した東京郊外の戸建て住宅に住んでいます。40歳になる一人娘は小学校の教師をしており、25歳のときに13歳年上のサラリーマンと結婚。現在は中学生と小学生、二人の子どもに恵まれています。

Aさん夫婦に娘が誕生した当時、初めてできた子どもが可愛くて、愛情を一身に注いで育てました。「将来はどこに嫁に出しても恥ずかしくないように」と、ピアノや英会話など興味を持った習い事はなんでもさせてあげたそうです。

当時はAさん自身の仕事も順調で、“羽振りのいい時期”でした。いまも、娘のピアノを始め、マッサージチェアなど大型の家具や荷物が家の中でひしめき合っています。夫婦二人だけの生活になった現在、2階へ上がる機会はめっきり減り、ほとんど1階だけで過ごす毎日。2階の各部屋には、整理できていない荷物が山積みになっている状態です。

現役時代、同僚から羨ましがられた自慢の“庭付き一戸建て”でしたが、いまでは庭の草むしりなど、手入れに負担を感じるようになっていました。

娘から突然の宣告「残されても迷惑だわ」

そんなある日、Aさんが外出しているあいだに、娘が実家に顔を出しました。そして、母親に対して次のように、はっきりと告げたのです。

「お母さんたち、もう70歳でしょ。体のほうは大丈夫? 片方が寝たきりになったらどうするか、考えているの?」

幸い、Aさん夫婦はいまのところ大きな病気などはありません。とはいえ、将来的な「老々介護」のリスクはなんとなくイメージしており、過去に老人ホームへの入居などを考えたこともありました。加えて、ここ数年の物価高は確実に家計に影響を与えており、将来の暮らしには不安を感じていたところだったのです。

娘の言葉はさらに続きます。

「私の夫ももう50代半ばでしょ。役職定年になったら収入も減ってしまうのよ。子どもたちにはまだまだこれからお金がかかるし、家のローンだって残ってる。私がどんなに働いても、お母さんたちの面倒までみられないのよ。義父母のほうがお母さんたちよりも年上だから、そっちの介護が先に始まるかもしれないわ。」

さらに、娘は現実的な問題を突き付けてきました。

「それにこんな古い家、荷物はゴチャゴチャあるし始末だけでも大変よ。残されても迷惑だわ。私たちの家より場所もいいし、固定資産税も大きいんじゃないの? 自分たちで自分の面倒は見てほしいし、施設に入ることになってもこの家の始末はちゃんとしていってよね」

娘が誕生してからずっと暮らしてきた思い出の詰まった家を、「こんな古い家」「残されても迷惑」と言い放たれ、Aさんの妻はさすがに腹が立ったといいます。しかし、娘の主張はどれも正論であり、反論する言葉は見つかりませんでした。

その夜、帰ってきたAさんは妻から娘の話を聞かされました。夫婦でじっくりと話し合った結果、二人はひとつの結論に達します。

「娘に迷惑をかけず、自分たちで自立した老後について本気で考えないといけないな」

娘からの新たな提案

それから半年ほど過ぎた現在、娘のほうから「私たちの家の近くに2DKの戸建ての賃貸物件があるから、そこに引っ越してこないか」と連絡があり、Aさん夫婦は転居を検討中です。

現在の住まいは、立地条件がいいため、売却すれば3,500万円程度にはなる見込みです。

「転居先はいまの家より狭いので、寂しいですが、この際、みんな手放そうと思います」。Aさんはそう決心しました。

引っ越しを機に、“断捨離”を進めることができますし、転居先の2DKという間取りは、将来夫婦のどちらかが寝たきりになっても、目が行き届き介護がしやすい広さです。バスを乗り継がないと病院には行けませんが、「いざとなったら私が送り迎えをするから」と娘がいってくれています。

以下の表は、Aさん夫婦の「これまでの住まい」と「引っ越した場合」との費用の比較をまとめたものです。

・ケース1:現在のまま、持ち家に住むケース

・ケース2:娘夫婦の近くの戸建て賃貸に引っ越すケース

・ケース3:ケース2のあとに、老人ホームなどに入居するケース

[図表]これまでの住まいと、引っ越した場合の比較 出所:筆者作成

持ち家」が正解とは限らない

Aさんのケースからもわかるように、長寿化が進み、子世代との別居が当たり前になった現代において、住まいは一生に一度の買い物ではなくなってきています。

子どもが同居して親の面倒をみてくれれば、家や家財などはそのまま引き継がれていくでしょう。しかしいまは、それぞれが住まいを持ち、独立して生計を立てているケースが大半です。だからこそ、リフォームや老後の住まい(終の棲家)など、老後の生活まで考えた計画を夫婦で立てないといけません。

結婚したり、子どもができたりしたタイミングで家を購入する人は多いですが、その際に無理をしてしまうと、その後のリフォーム資金や老人施設や介護施設での入居費用などが大きく圧し掛かってきます。

物価高もまだまだ続きそうですし、社会問題化する「空き家問題」も無視できない時代ですから、早めに生涯の暮らしを考えた住まいについて考えてみましょう。

川淵 ゆかり

川淵ゆかり事務所

代表