日本近海に高濃度の「レアアース泥」が存在する理由。その成因に3400万年前の知られざる海洋生物の大イベントが隠されている!?

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レアメタルやレアアースという言葉をニュースで耳にする機会があります。このレアメタルとレアアースの違いを知っていますか? スマートフォンや半導体など、さまざまな産業分野で需要が高まっているこれらの希少金属が、日本近海の海底に豊富に蓄積していることがわかってきました。これらの海底鉱物資源には「海底熱水鉱床」、「マンガンクラスト(コバルトリッチクラスト)」、「マンガンノジュール(マンガン団塊)」、「レアアース泥(でい)」の4種類があります。じつは、日本は「排他的経済水域(EEZ)」内に、この4種類の海底鉱物資源がそろっている、世界唯一の国です。この記事では「レアアース泥」に注目しながら、その成因の謎や最新研究を紹介します。(取材・文:立山 晃/フォトンクリエイト)

海底下地質コアから「レアアース泥」が発見された

レアアース泥が、新しいタイプの海底鉱物資源として注目を集めたのは、2011年のことです。

地球史解読の研究をしていた東京大学の加藤泰浩教授のグループが、過去に行われた海洋科学掘削で採取・保管されていた大量の海底下地質コア(以下、コア試料)を分析することで、太平洋のタヒチ沖とハワイ沖などの海域に、レアアースが濃集した泥の層があることを発表しました。このときに「レアアース泥」という名前がつけられたのです。

さらに翌2012年、加藤教授のグループは、掘削したコア試料の分析などから、南鳥島周辺の海域にもレアアース泥が存在すると報告しました。ただし、そのときに分析された試料は、2ヵ所で掘削されたものだけだったため、レアアース泥が深度方向や水平方向にどれくらい広がっているのかはよくわかっていませんでした。

南鳥島周辺で見つかった高濃度のレアアース泥

そこで、JAMSTECと加藤教授のグループは2013年1月、深海調査研究船「かいれい」により南鳥島沖のレアアース泥を探る研究航海を行いました。

この航海では、最大で海底下20メートルの試料を採取できるピストンコアラーという装置によって、南鳥島周辺の水深5600〜5800メートルの数ヵ所の海底からコア試料を採取しました。

その結果、そのうちの1ヵ所では、海底下の3メートル付近の泥に、レアアースが0.65%(6500ppm)の高濃度で濃集していました。これはタヒチ沖のレアアース泥の4〜6倍、ハワイ沖の10倍という高濃度です。

さらに、複数の地点で海底下10メートル以内という浅い場所に、レアアース泥があることがわかりました。

この調査航海では、「かいれい」から音波を出して海底下の構造を調べるサブボトムプロファイラー(SBP)という手法で、レアアース泥のありそうな候補地点を予測し、その地点でピストンコアラーを用いて試料を採取したのです。

そのコア試料の分析結果とサブボトムプロファイラーによる海底下構造の予測は、よく一致しました。

この観測等によって、 南鳥島の南東沖には海底下の浅い領域にレアアース泥の分布域が広がっていることがわかりました。下の図の黄色(L-type)はレアアース濃度の低い遠洋性堆積物(表層泥)が海底下の浅い深度に分布する領域を、 赤およびピンク色(T-type)は海底下の浅い深度にレアアース泥が分布する領域を示しています。

レアアースとレアメタルの違いわかりますか?

ここで、質問です。そもそもレアアースとは何でしょうか。また、レアメタルとレアアースの違いはなんでしょうか?

レアメタルというのは、じつは和製英語です。これは、経済産業省が「産業に必須で備蓄しておくべき希少金属」として指定している元素の総称です。

一方のレアアースは、学術用語で、元素周期表の第3族に属する元素のうち、イットリウム(原子番号39)と、原子番号57〜71の「ランタノイド系列」と呼ばれる元素群を指します。また、場合によってスカンジウム(原子番号21)も含める場合もあります。

レアアースは、その特殊な電子配置によって、磁石や電池、レーザーの高機能化をもたらします。たとえば、原子番号60のネオジムは、強い磁力を持つネオジム磁石に使われ、自動車用モーターから発電機、小型スピーカーなど、さまざまな高性能機器に欠かせないものです。さらに、ジスプロシウム(原子番号66)という元素などをわずかに添加することにより、高温でも磁力が低下しない耐熱性があらわれます。

このようにレアアースには、少量を添加することで高機能をもたらす特性を持つものが多くあります。

レアメタルには、レアアースのすべての元素が含まれます。さらにレアアース以外のマンガンやコバルト、ニッケルなど産業に必須の多数の元素が指定されています。つまり、レアアースはレアメタルの一部であり、レアメタルの方がより幅広い元素を指すという違いがあります。

レアアース泥の資源としての利点

レアアース泥に話を戻して、その資源としての特徴についてみていきましょう。

レアアース泥には、レアアースの中でも原子番号が大きい、原子番号64のガドリニウムから71のルテチウムまでの「重レアアース」の比率が多いことが知られています。これらの重レアアースは有用な機能をもたらし、資源としての価値が特に高いといわれています。

また、陸上のレアアース鉱床は、放射性元素の濃度が高い傾向がありますが、海底のレアアース泥では、放射性元素が少なく、これは資源開発のさいに有利です。

さらに、陸上の鉱床からのレアアースは、精製するさいに、抽出液として毒性のある化学物質を使うため、それらをきちんと処理・回収しないと環境汚染を引き起こしてしまいます。

一方、レアアース泥の場合、レアアースはほとんど希酸で容易に溶けるアパタイトに含まれており、毒性の高い化学物質を使わずにレアアースを精製することができるという利点があります。みなさんが虫歯になるのも、歯を構成するアパタイトが口中の酸で溶かされることが原因です。

南鳥島周辺になぜレアアース泥が存在するのか

そもそも、南鳥島周辺に、なぜレアアース泥が分布しているのでしょうか。

これには、プレートテクトニクスが関係しています。

海洋プレートは中央海嶺と呼ばれる海底火山列で生まれ、移動し、ほかのプレートの下に沈み込んでいます。

じつは、南鳥島周辺の海洋プレートは、約1億数千万年前に、タヒチ諸島に近い中央海嶺で生まれ、日本列島の近くまで移動してきたと推定されています。

さきほど紹介したように、タヒチ沖やハワイ沖には、レアアース泥の分布域があります。海洋プレートが移動するさいに、このレアアース濃度が高い海域を通過してきたため、南鳥島周辺にはレアアース泥が分布していると考えられます。

しかし、現在の南鳥島周辺にある海洋プレートがハワイ沖のレアアース泥の分布域を離れたのは、図にあるように3000万〜4000万年前です。

その後の長い年月にも、現在の南鳥島の海底には堆積物が10メートル以上降り積もったはずです。

前述のように、南鳥島周辺の海底では、海底下10メートル以内の領域、場所によっては海底下3メートル以内にもレアアース濃度の高い泥の層が見つかっています。これはなぜでしょうか?

私たちは、海の深層を流れる「底層流」とよばれる海水の流れに、その原因があるのではないかと推測しています。

この底層流の影響が強い場所では、堆積物が流され、レアアース泥の層が海底下の浅いところにあり、底層流の影響が小さい場所では、海底下の深いところにレアアース泥の層があるのかもしれません。海底下の浅いところにあるレアアース泥は、採掘する上で有利です。

レアアースはどのように濃集するのか

レアアース泥は、海水中に微量に含まれるレアアースが濃集してできます。また、レアアース泥は水深の深い海底に分布しています。

その理由の一つは、水深の浅い海底には、レアアースを希釈してしまう炭酸カルシウムが降り積もるため、相対的にレアアース濃度が下がって、レアアース泥といえる高濃度の堆積物ができにくいからだと考えられます。

たとえば、有孔虫は炭酸カルシウムの殻を持ち、その死骸はマリンスノーとして海底に降り注ぎます。しかし、太平洋の水深2000メートルを超える深海では、水圧が高いため炭酸カルシウムは海水に溶けてしまいます。

そのため、太平洋の2000メートルより浅い海底ではレアアースは炭酸カルシウムに希釈されますが、2000メートルより深い海底では希釈されずに濃集すると考えられます。

では、レアアースはどのようなメカニズムで濃集するのでしょうか。

そのメカニズムの一つは、他の記事で紹介した「マンガンクラスト」や「マンガンノジュール」と同様に、鉄・マンガン酸化物などが海水中のレアアースを吸着して海底に堆積することでできるのだと考えられます。

さらに、近年の研究から、レアアース泥の成因には生物由来の物質が関与していることがわかりました。

レアアース泥を顕微鏡で観察すると、アパタイトという鉱物にレアアースが濃集していたのです。

アパタイトの起源は脊椎動物の骨や歯です。脊椎動物の骨や歯はリン酸カルシウムからなる硬い組織なので、深海の高い水圧でも海水中に溶けてしまうことはありません。レアアース泥に含まれるアパタイト濃度が高いほど、レアアース濃度が高いこともわかりました。

3400万年前、知られざる海洋生物の大イベントがあったのか?

東京大学やJAMSTECではオスミウムという元素の同位体を使って、レアアース泥の中のアパタイトの年代を調べてみました。

すると驚くべきことに、このアパタイトの年代は約3400万年前に集中していることがわかりました。さらに、マンガンクラストやマンガンノジュールにも、約3400万年前の層にはアパタイトを含むものがあり、その時代に成長速度や化学組成が変化しているものがあることもわかってきました。

レアアース泥に含まれるアパタイトは、その形状から魚など大型生物の骨や歯であったことも報告されています。

このことから、約3400万年前、海に住む脊椎動物の死骸が大量に海底に降り積もるという大イベントがあったのでないかと考えられます。この時代、南極底層流が強まり、世界の海流に大きな変化が起き、地球が寒冷化したことが知られています。

この寒冷化により、暖かい海に適応していたプランクトンなど海洋生物が大きな打撃を受けたことがわかっている一方、魚などの大型生物の盛衰については明確になっていません。南鳥島の豊富なレアアースは、その謎を解くためのヒントを私たちに示してくれているのかもしれないのです。

「マンガンノジュール」の記事でもふれたように、南鳥島沖のレアアース泥とマンガンノジュールの分布域は重複していますが、それぞれの成因について、具体的にどのような共通性・関係性があるのかははっきりとはわかっていません。

また、約3400万年前の南極周辺で起きた底層流の変化が、遠く南鳥島周辺のレアアース泥やマンガンノジュール、マンガンクラストの成因にどのように影響を及ぼしたのか。そもそもレアアース泥の年代測定は難しく、どれくらい年月をかけてレアアースが濃集するのかも、わかっていません。

それら海底鉱物資源の成因の謎を解明するには、物理や化学をはじめ、地球史や古生物学などさまざまな分野と協力しながら研究を進めていく必要があると考えています。

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