なぜ犯人は5歳の弟まで刺したのか、真犯人は誰なのか 衝撃展開の「田鎖ブラザーズ」ラストはどうなるのか
もっちゃんは犯人か
TBS「田鎖ブラザーズ」(金曜午後10時)の放送は第8回まで済んだ。相変わらず人気は高い。週間個人視聴率(1〜7日)6位、40代以下のコア視聴率3位、週間個人録画視聴率(5月18〜24日)トップ。田鎖夫婦殺害事件の真相はうっすらと見えてきたものの、代わりに新たな謎が次々と浮上している。疑問点を整理してみたい。【高堀冬彦/放送コラムニスト、ジャーナリスト】
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神奈川県警青委署刑事の田鎖真(岡田将生)とその弟で県警捜査1課検視官の稔(染谷将太)は事件の真相を追い続けている。父・朔太郎(和田正人)と母・由香(上田遥)が31年前に刺殺された事件である。犯行当時、2人は7歳と5歳だった。

第8回、中華料理店「もっちゃん」の店主でもっちゃんこと茂木幸輝(山中嵩)が犯人という見方が急浮上した。事件発生時刻である1995年4月26日午後10時54分のアリバイが崩れたためだ。
事件発生時、もっちゃんは朔太郎の勤め先である辛島金属工場で小爆発と直後の火災に巻き込まれた。だから捜査圏外にいた。ところが小爆発の現場にいたのなら体に残るはずの金属熱傷による白い瘢痕がない。それを田鎖兄弟は銭湯で確認した。小爆発時は工場にいなかったのだ。
神奈川県の蓬田町にある辛島金属工場と田鎖宅は近い。走れば数分。もっちゃんが田鎖家で犯行に及んでいるとき、辛島金属工場で工場長の辛島貞夫(長江英和)と妻で山岳写真家のふみ(仙道敦子)が小爆破を起こせば、アリバイがつくれる。もっちゃんは消防隊が到着するまでに戻ればいい。
もっちゃんには動機もある。かなり込み入っているので、順を追って説明させていただきたい。まず辛島金属工場は銃を密造し、反社会的組織の五十嵐組に売っていた。銃密造と売買を追っていたノンフィクション作家・津田雄二(飯尾和樹)の綿密な取材ノートにそう記されていた。
辛島金属工場と五十嵐組による密造銃の取引は同4月13日夜にも行われた。両親殺害の約2週間前だ。取引場所は洋上。密造銃を港まで運んだのは朔太郎だ。この取引中にトラブルが起きた。深刻なものだったらしい。
困った辛島は県警捜査1課刑事・笹岡隆弘(柳憂怜)に収拾を頼む。笹岡は捜査情報を五十嵐組に流していた男で、後に懲戒免職となった。その相棒だったのが現在は真の直属の上司・小池俊太(岸谷五朗)である。
当時の笹岡は五十嵐組の密造銃売買に深く関わっていた。さらに同組と結託して蓬田町の立ち退きにも手を出していた。跡地をマンション業者に転売し、利益を上げていたらしい。
立ち退きに応じない畳屋の店主・加賀正吉は射殺された(第5回)。両親殺害の約1か月半前となる同3月3日の惨劇だった。辛島金属工場の密造銃が使われた可能性がある。きな臭い時期だった。
五十嵐組と笹岡は蓬田町に現存するもっちゃんの店も立ち退かせる腹積もりだった。拒否されたら、母・カル(三谷侑未)の命を奪うことも視野にあった。
しかし、もっちゃんの店の立ち退きは白紙になる。交換条件として、もっちゃんが取引に関するトラブルの後始末をすることになった。津田のノートによると、後始末の内容とは「あの一家を処理する」。真はピンと来た。「俺たち家族のことだろう」(第8回)。
なぜ稔を刺した?
もっちゃんが真犯人であるのなら、動機は母・カルと店を守るため。もっちゃんはカルの老人ホーム入りを考えていた(同)。母思いだった。
ここで第1回からくすぶっている謎が浮上する。なぜ、犯人は5歳だった稔まで刺したのか。実行犯がもっちゃんなら、なおさら解せない。しかも犯人は1階で両親を殺害したあと、わざわざ2階に上がり、子供部屋に入っている。
稔を刺したのはアクシデントではないか。2段ベッドの下段で寝ていた稔が、犯人の侵入に気づいてしまったから刺し、逃走した。どうして子供部屋に入ったのか。何かを探していたのではないか。
それは朔太郎が手製のロボット内に隠していた密造銃と読む。これが密造銃取引中のトラブルとは違う、もう1つの両親殺害の理由と見る。この銃が畳屋の加賀の射殺に使われていたとしたら、五十嵐組や笹岡、辛島金属工場は放っておけない。逆に朔太郎にとってはこの密造銃が身を守るための保険だったのではないか。同組、辛島にとって朔太郎は危険分子になっていた。もっちゃんに殺害を命じても不思議ではない。
もっとも、両親殺害の犯人はもっちゃんとは限らない。もっちゃんが犯人とは思えない状況証拠を挙げる。まず事件当日もパート従業員の由香と親しげに会話している(第3回)。小さなことではない。いくらカルが人質のような状態であろうが、サイコパスでもない限り、由香の殺害は難しいはず。幼い田鎖兄弟から両親を奪うのも身を切る辛さだろう。
ほかにもある。五十嵐組の掃除屋(証拠隠滅屋)によってシュレッダーにかけられた津田のノートを田鎖兄弟宅から盗むようにふみから指示されたが、思いとどまった(第7回)。自分にとってもマイナスだ。
やはり、ふみに命じられ、田鎖兄弟宅から朔太郎が隠し持っていた密造銃を盗んだものの、ふみに涙ながらに良心の呵責を訴え、結果的に宅配便で返却した(第8回)。
この直後、もっちゃんは横浜市金沢区で変死体となって発見される。つまり、他殺か自死である。他殺なら口封じ、自死なら田鎖兄弟への贖罪だが、61歳の男が年老いたカル1人を残して自ら命を絶つだろうか。他殺と見る。もっちゃんは自分でも気づかぬうちに両親殺害のお先棒を担いでしまったのではないか。
晴子も過去を追う
両親殺害時、田鎖宅の前には今は質屋で情報屋の足利晴子(井川遥)がいた。その理由がぼんやりと見えてきた。密造銃の取引中のトラブルには晴子の亡父が深く絡んでいるのだろう。
晴子の父は漁師だった。密造銃を港から沖合まで運んだか、あるいは取引の現場を目撃したのではないか。晴子はこれまでにこう言っている。
「もう何年も前だけど、酔っぱらって海に落ちて、死んじゃった」(第6回)
おそらくは五十嵐組の仕業だ。県警の笹岡がいたから、捜査の目をくらますのは難しくなかったはずだ。
取引中のトラブルがあった同4月13日午後10時28分、津田は朔太郎を目撃した。プラスチックケースに入れたものを辛島金属工場に運んでいた。晴子の父の遺留品か、それとも何らかの理由で水没した密造銃か。
晴子は父の死んだ現場に朔太郎がいたことを知り、真相を尋ねようと考え、殺害事件当夜も田鎖宅の前で待っていた。あるいは関係者の出入りをチェックしていた。
晴子たち父子は田鎖宅の近隣に住んでいた(第3回)。朔太郎もご近所さんである晴子の父の死を見過ごすことは出来なかったはずだ。
ここで第1回の意味深な回想シーンの中身が浮かび上がってくる。殺害事件当日の昼間、朔太郎は自宅に来た辛島に向かって、「よろしくお願いします」と頭を下げ、何かを頼んだ。
その願いは銃密造をやめたいというものだと考えていたが、違ったようだ。死んだ晴子の父について善処を頼んだのだと見る。
辛島は「分かってる」と鷹揚にうなずいた。だが、それはウソだった。辛島とふみ、五十嵐組は田鎖夫妻の死によって問題の決着を図ったと見る。取引トラブルに居合わせ、密造銃を隠し持つ朔太郎は厄介な存在だったはずだ。
津田のノートには辛島金属工場について「女房、手術、金」と書かれていた。当時、ふみは山の事故によって下半身の自由を失い、車椅子生活を余儀なくされていた。歩けるようになるためには手術が必要だったが、金がかかる。密造銃をつくる発端はふみだ。次回第9回の予告に歩けるふみが登場しているが、これは事故前だろう。
晴子についてはまだ謎がある。晴子を敵視する小池が第7回で「なんでこっちに戻ってきた」と詰問したが、その通りなのだ。晴子は「たまたま縁があっただけ」と軽く答えたが、そうとは思えない。
直後、晴子は小池に向かって「笹岡さん、お元気ですか。刑事をやめさせられたんですってね」と口にする(第7回)。カウンターとなった。
ここで気づかされる。未解決事件を追っていたのは田鎖兄弟ばかりではないのだ。晴子もそう。晴子は第7回時点でキーパーソン・笹岡の行方が分かったことを田鎖兄弟に伝えなかった。
まず自分が下調べしようとしたのだろう。第8回には田鎖兄弟に笹岡の存在を話した。晴子は田鎖兄弟に向かって「もう時効よ」と言い続けてきたが、自分も事件から逃れられていない。だから蓬田町に帰り、笹岡の居場所を探し当てた。田鎖兄弟が両親殺害を調べるために県警入りしたのと同じく、晴子も父の死の真相を知るために新聞記者になったのだろう。
小池は一連の事件を闇に葬り去りたいに違いない。事件当時の相棒だった笹岡の悪事を知らなかったとは考えにくく、加担していた可能性すらあるからだ。笹岡の懲戒免職時は左遷で済んだが、両親殺害事件への関与がバレたら破滅だ。
刑法や民法と違い、警察官の服務規程違反に対する懲戒処分には法律上の明確な時効の規定がない。何年過ぎようが処分の可能性がある。そうでなくても小池は津田のノートの複製を今は一般人の笹岡に渡してしまったのだから。業務上横領、証拠隠滅に該当すると見られる。よほど隠したいことがある。
小池は今も五十嵐組と通じているに違いない。だから稔の得た情報によって行われた同組へのガサ入れの情報が事前に漏れた(第7回)。田鎖兄弟が同組の掃除屋に行った件も小池は知っていた(第8回)。
第7回に殺人教唆で捕まった市の相談員・秦野小夜子(渡辺真起子)が一連の事件に関係しているとは思えない。秦野は連行時、真に向かって「きっと、あなたは私に会いに来ると思う」と言ったが、これは真が事件の全容を知ったときに憔悴すると読んでいるからだろう。
秦野の読み通り、絶望の結末が待っていると見る。
高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
放送コラムニスト、ジャーナリスト。1990年にスポーツニッポン新聞社に入社し、放送担当記者、専門委員。2015年に毎日新聞出版社に入社し、サンデー毎日編集次長。2019年に独立。前放送批評懇談会出版編集委員。
デイリー新潮編集部
