スマートホーム はアプリ体験で勝敗が決まる? 亡きペットを「忘れさせない」ウィスカーの戦略

記事のポイント
スマートホーム製品の普及が進むなか、ユーザー体験を左右するのはアプリ設計であり、利便性と感情への配慮が求められている。
ウィスカーは「触れさせないハード設計」と「補助的アプリ体験」を両立させ、利用者の多様なニーズに対応している。
シャークニンジャやロフティなども、アプリを単なる補助から独立したプロダクトへ進化させ、競争力の源泉にしようとしている。
スマートホーム製品の普及が進むなか、ユーザー体験を左右するのはアプリ設計であり、利便性と感情への配慮が求められている。
ウィスカーは「触れさせないハード設計」と「補助的アプリ体験」を両立させ、利用者の多様なニーズに対応している。
シャークニンジャやロフティなども、アプリを単なる補助から独立したプロダクトへ進化させ、競争力の源泉にしようとしている。
「CatPoopMan」というハンドルネームでRedditを閲覧していたリッターロボット(Litter Robot)の親会社ウィスカー(Whisker)のCEO、ジェイコブ・ズップケ氏は、ユーザーが直面している悲しい現実を目にした。
「Redditには『亡くなったペットをアプリから削除するのはとてもつらい。アプリを開くたびに名前を見るのが悲しい』という声があった」とズップケ氏は語る。そこで同社は「メモリアライズ(memorialize)」機能を追加し、ユーザーが「削除」という言葉をクリックせずに済むようにしたのである。
スマートホーム製品に求められるアプリ体験
アプリ体験を正しく設計することは、スマートホーム分野で活動するブランドにとって重要な課題になっている。スマートサーモスタットからデジタルフォトフレーム、トイレまで、アプリと連動するスマートホーム製品は、テクノロジー企業の戦略によってさらに日常的な存在になりつつある。
8月にはGoogleが10月からGoogle Assistantに代わってGeminiをGoogle Home製品に導入すると発表。Appleも新たにスマートホーム市場への参入を模索しているとブルームバーグ(Bloomberg)が報じた。
ベライゾン(Verizon)の2024年版「Consumer Connections Report(コンシューマー・コネクションズ・レポート)」によれば、米国のインターネット世帯の42〜45%が少なくとも1つのスマートホームデバイスを所有しており、約5世帯に1世帯はスマートドアベルを導入しているという。
しかし需要は一様ではなく、接続型製品に抵抗感を持つ消費者も存在する。そのため、デザイナーやエンジニアには、ユーザーに真に役立ち、製品利用の妨げにならないアプリ設計が求められる。実際、ソノス(Sonos)は2024年のアプリ更新で製品が不具合を起こし、多くのユーザーを苛立たせたことで大きな批判を浴びた。この問題は集団訴訟にまで発展。新CEOとなったトム・コンラッド氏は8月初旬の決算説明会で「今が転換点だ」と語っている。
ハードに触れさせないことをめざすウィスカー
ウィスカーのズップケ氏は、同社の究極の目標は「人々ができるだけリッターボックスに直接触れる機会を減らすこと」だと語る。リッターロボットのアプリでは、猫の利用状況やセンサーの不具合、廃棄トレイの清掃時期などを通知で受け取ることができる。さらに遊び心のある機能も加えられている。
「ハードウェアの品質を極めれば、ユーザーはほとんどハードそのものに触れなくなる。そのとき、アプリこそが消費者にとってのプロダクトになる」と同氏は強調する。
もっとも、アプリを使わなくてもリッターロボットを利用することは可能だ。ウィスカーはこれまでに150万台以上を販売しているが、アプリを月間で利用するのは約75万人だとズップケ氏は明かす。「誰もがアプリをスマホに入れたいと思うわけではないし、スマホ操作に不慣れな人もいる。そのため、製品はマニュアルでも動作し、両方のユーザーにシームレスな体験を提供しなければならない」と述べる。
社内ではハードとアプリのチームが密接に連携し、両者の最適なバランスを探っているという。同社は毎月1回のアップデートを計画的に実施し、修正や新機能を追加。年初に実施したホームページの刷新も、まずはベータユーザーを対象に慎重に導入した。
「時間をかけ、段階的に展開した。現在の段階的なアプローチは非常にうまく機能しており、多くのユーザーに受け入れられない場合でも、早期に発見して元に戻すことができる」とズップケ氏は話す。
「アプリ必須」にしないことが鍵
アプリ連携製品を手がける企業にとっての課題は、アプリなしでも製品が利用できるようにすることだ。アメリカンホームシールド(American Home Shield)が2024年12月に実施した調査によると、回答者の46%がWi-Fiやインターネット接続の不具合でデバイスが動作しなくなった経験を持ち、約5人に1人が電池切れや画面のフリーズ、ペアリングの不具合を経験していた。Reddit上にも接続問題や、日常的な操作に必要なアプリが多すぎることへの不満があふれている。
シャークニンジャ(SharkNinja)は2025年、より多くの接続型製品を投入する大きな戦略転換を進めている。
同社はすでにシャークロボット掃除機(Shark Robot Vacuum)、ニンジャウッドファイア・プロコネクトXL屋外用グリル&スモーカー(Ninja Woodfire ProConnect XL Outdoor Grill and Smoker)、ニンジャプロシェフ・ワイヤレス温度計(Ninja ProChef Wireless Thermometer)などアプリで操作できる製品を展開している。さらに、多様なアプリを一元化し、ユーザーがスマホに過剰なアプリを入れずに済む仕組みづくりにも取り組んでいる。
シャークニンジャの最高イノベーション・技術責任者マイク・ハリス氏はModern Retailへのメールで「アプリのベストプラクティスは、接続そのものではなく、アプリを通じて消費者価値を提供することに尽きる。多くの企業はこの焦点を失い、技術そのものに魅了されてしまう」と指摘する。
またセキュリティとプライバシーについては妥協を許さず、スマートフォンOSの更新に応じて適切にアップデートを行うことが不可欠だと述べる。そのうえで「正しい更新頻度は存在しないが、新しい魅力的な機能を届けて体験を高めることが目標だ」と語っている。
アプリをサイドカーから独立したプロダクトへ
一方、ロフティ(Loftie)は、ベッドルームからスマートフォンを排除することを目的に目覚まし時計やランプを製造している。同社のアプリでは、就寝リマインダーや睡眠コーチング機能を利用できる。最近では特定の時間帯にスマホ利用を制限できるアプリブロック機能も追加された。
しかし、すべてのロフティ製品はアプリなしでも利用可能であり、創業者でCEOのマシュー・ハセット氏は「アプリはあくまで補助的存在だ」と語る。
「時計をアプリ依存にはしたくなかった。単体でも常に利用できることが、競合との差別化になっている。我々のアプリは何時間もスクロールして楽しむようなものではなく、きわめて機能的なものだ」とハセット氏は強調する。
さらに、米中関税の影響で物理製品の製造コストが膨らんでいることから、同社はアプリをハード製品を持たない人にも提供する「独立したプロダクト」として展開する可能性も模索している。
「関税の影響で物理製品の製造が非常に困難になっているいま、我々はアプリへの投資を優先している。これまでアプリは時計やランプの『サイドカー』に過ぎなかったが、いまは単独で成立するプロダクトへ fと進化させようとしている」とハセット氏は述べた。
[原文:Brands Briefing: How connected products companies like Whisker and Loftie are crafting their app strategies as smart homes take over]
Melissa Daniels(翻訳・編集:杉本結美)
