シーズン最終戦後にファンに手を振る小久保監督(右)(撮影・星野楽)

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 4年ぶりのリーグ優勝を果たしたソフトバンク・小久保裕紀監督(53)の単独インタビュー「一瞬に生きる」をお届けします。就任1年目で胴上げまでの道のりを振り返ってもらい、リーダーとして下した決断や覚悟を聞きました。さらにド派手なガッツポーズの裏側や胴上げの意外な感想も。現役時代のポストーシーズンを回想し、クライマックスシリーズの戦い方まで話しは及びました。(聞き手・構成=小畑大悟)

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 ―9月23日のオリックス戦(京セラドーム大阪)で優勝が決まった。胴上げの映像や写真を見た。
 「見ましたけど、意外と低いなと思って(笑)。リチャードがおらんかったのでね。昨年(ファーム優勝では)リチャードが下におったので、めっちゃ高く上がった。でも、ありがたい話しですよね。胴上げがなかったかもしれないし。僕の性格的にはわざわざ胴上げのための時間をつくることはなかったと思うので」

 ―前日の移動後に決まっていたら胴上げはしなかった。
 「そんなダサいことせんやろ。そのために(笑)」

 ―リーダーは決断が仕事と常々話してきた。就任から最大の決断は。
 「日々、小さい決断の連続なので、開幕してから大きい決断はあまりないかな。一番はやっぱり(昨オフ)モイネロに先発をさせよう、大津を先発に回そうというのが最初の仕事だった。さらに牧原大成をセカンド一本でやるとか、谷川原の外野を取り上げるとかは結構な決断でした。彼らの野球人生にとってプラスになるのかどうか。そこを決めるのは首脳陣であり、僕なので。コーチ陣と話してユーティリティーより本人が一本で勝負したと言った牧原にチャンスを与えようと決まった。谷川原もキャッチャー一本で甲斐拓也と勝負をしなさいと。結局、ほとんど2軍でしたけど、(最終盤に昇格してきた)姿を見て、途中で中途半端に上げずに良かったと思いました。海野と併用で入れ替えていたら両方しっかりと見られなかったと思うので。下でやってきた谷川原の成長を見ると、退路を断つという決断をして良かったのかなと思います」

 ―谷川原健太の野球人生にとってもプラスになる。
 「外野手であの使われ方だったら、若い選手が来たら変わるじゃないですか。飯が食えなくなる。だったらキャッチャーは貴重なポジションなので、しっかりやれば長く(現役が)できるでしょう。もちろん目指すところはレギュラーだと思うので、甲斐の後と思ってやったらいいと思うし、今年の海野の数字だったら『俺ならもっと打てる』と思っているかもしれない。チーム内の競争という点でもキャッチャーとしてやるべきという判断だった。僕だけじゃなく、みんなで話して、最後は僕が決断したということ。シーズンが始まってからというより、最初にその決断がありましたね。始まってから一番のテーマはとにかくどっしりしておく、バタバタしないというのを自分に課していた。あまりバタバタした記憶はないかな」

 ―開幕ダッシュに成功し、ゲーム差を保ったままゴールテープを切った。今年は優勝できると思った時期は。
 「(9月21日の楽天戦の)柳町のサヨナラヒットですね。これで正直、『今年はいけたな』と思いました」

 ―大きなリードを保っていたが、そこまでは気を休めることはなかった。
 「やっぱり最悪、最低を想定していくのでね。日本ハムが全勝とか、普通に考えたら10試合ぐらいで10連勝、10連敗はあり得ないけど、それがずっと頭の片隅にあった。でも、柳町があそこで打ってあのマジック(3)になった時点で、これで今年はいけるかもしれんと思った試合ですね。それまでは全然思わなかったですよ」

 ―その思いからもド派手なガッツポーズが飛び出した。
 「あれはそうね。しかも結構、あの試合も重たい雰囲気で。ほぼほぼ負けの試合だったので、そこから一気に逆転やったからね」

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「彼らに小細工を要求することは絶対にないです」

 ―9月は初の4連敗もあった。
 「ここ(みずほペイペイドーム)での(6日からの)西武戦。有原、カーター(スチュワート)のどっちかで勝てると思っていて連敗した時はね。(3戦目の相手先発が)武内だったので、そこまでいったらその週、日本ハム(2連敗)から始まって全部連敗しそうな時だったので。あの試合(松本晴で勝った3戦目)は9月の中で一番大事だった。9月一番のポイントでしたね」

 ―最終的には独走でのVだったが、主力のけがで苦しい場面もあった。若手の成長を感じた時は。
 「送り出す時に不安なく送り出せるのが成長じゃないですか。4月なんか緒方、川村を守備固めで起用する時はドキドキしていましたけどね。今は『どうぞ、いってください』と送り出せるところまで来たから成長したなと思います。ピッチャーでも正直、杉山がここまでなるとは思わなかったですね。もちろん素材は良かったけど、しっかり1軍の舞台で花が開いた。その花の開き方、咲き方がこんなに派手に咲かせるかというぐらいの活躍だったと思うので。終盤、尾形もすごく良くなって、昨年の(2軍で)クローザーをやらせていた時の姿に戻った。あの時よりも球は速くなっていて、その辺も成長しているなと感じますね。ただ、これからポストシーズンが始まる。若い選手は怖さもあるでしょうけど、経験を積んでうまくなるチャンスだと思う。ドキドキしながら、緊張したなりにCSの空気感、雰囲気を味わうのが一番じゃないですか」

 ―そのCS。現役時代の思い出は。
 「ジャイアンツに行っている時にパ・リーグで始まったので、(CSの)経験なく戻ってきた一発目が(2007年の)ロッテ戦やったかな。初戦、サードでめっちゃ緊張したのは覚えています」

 ―以前に日本シリーズも経験していたが、CSはまた違った。
 「超短期決戦で負けたら終わりというか。普段のレギュラーシーズンとは全然違う、開幕戦とも全然違う。『こんなプレーオフって緊張するんや』という思い出があるので相当緊張していたと思いますね」

 ―レギュラーシーズンとは戦い方も違った。
 「選手としては自分のやるべきことをやるだけなので。監督として迎え、そんなに大きく戦い方が変わることはないですね。近藤が戻るか戻らないかで打順も変わりますけど、彼ら(主力)に小細工を要求することは絶対にないです」

 ―2位の日本ハムとレギュラーシーズンでは13・5差と圧勝しているだけに負けられないというプレッシャーもかかる。
 「それは別にないですよ。目標は日本一なので。負けられないというよりも、レギュラーシーズンはレギュラーシーズンで終わりなので。全然別物です」

 ―独走だっただけにしびれる戦いをしていないところが不安。
 「心配というか、そうならないためにも初戦は大事だと思っていますよ。当たり前だけど。1勝のアドバンテージのスタートの中の初戦は絶対に大事だともちろん思っています。でも、そう(追い込まれる状況)なったからって、何ができるのってなったら動じずにどっしりしておくことが一番じゃないですか」

 ―状況によっては大きく動く可能性も。
 「まだ動いていないのでね。基本的にはいじらないのが一番いいと思っている。ただ、調子の良しあしは早めに見極めようと思いますね。代わりになる選手が入るところ、例えば柳町でいくのか正木でいくのかみたいな時、右左というよりはしっかり状態のいい選手、牧原大なのかダウンズなのか川瀬なのかみたいなところを含めて見極めは早めにしないといけないと思いますね」