『おむすび』写真提供=NHK

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 福島・糸島と神戸を舞台に、平成元年に生まれたヒロインの青春を描く橋本環奈主演のNHK連続テレビ小説『おむすび』が9月30日にスタート。初回の放送には、明るくポジティブなヒロイン、賑やかな家族、問題児の姉、ヒロインの水落ち、のちに恋に落ちそうな男子との出会いなど、朝ドラ原点回帰とも言える要素が詰まっていた。

参考:朝ドラ『おむすび』第2話、結(橋本環奈)が博多ギャル連合(ハギャレン)に勧誘される

 『らんまん』『ブギウギ』『虎に翼』と明治から昭和を舞台にした実在のモデルがいる朝ドラがしばらく続いたが、今回は久々のオリジナル現代劇。物語は平成のど真ん中、2004年4月から始まり、海と山に囲まれた自然豊かな糸島で農家を営む両親、祖父母と暮らす主人公の米田結(橋本環奈)が高校初日を迎える。

 結が準備をしている間、一足先に朝食をとる家族。米田家はごく一般的な家庭のようだが、父・聖人(北村有起哉)、母・愛子(麻生久美子)、祖父・永吉(松平健)、祖母・佳代(宮崎美子)と演じているのは豪華面々だ。彼らが繰り広げる好テンポの会話劇が朝から心地いい。

 ところで本作はギャルが主人公と宣伝されていたが、すでにオープニングではギャルビジュアルの結が登場しているものの、今はまだその片鱗はない。きちんと制服を着こなしている結に父の聖人(北村有起哉)もほっと一安心。結も「ギャルとか今どき古いもん」とギャルに憧れているというより、むしろ嫌悪しているような印象がある。どうやらそれはまだ姿を見せていない姉・歩(仲里依紗)に原因があるようだ。

 登校初日に担任から入学早々に何らかの問題を起こし、過去最短で停学になった姉の存在をみんなにバラされる結。明るかった笑顔が一瞬で曇るほど、ギャルで問題児だった歩の存在は彼女にとってネックになっているのだろう。その様子を心配そうに見守るのが、幼なじみの陽太(菅生新樹)だ。結は苗字の「米」と名前の「結」から彼に「おむすび」というあだ名で呼ばれていた。

 そんな結は学校からの帰り道、帽子を海に落としてしまった幼い兄弟と遭遇。人助けせずにはいられない性格のようで、思わず制服のまま海へ飛び込む。これまでも『てっぱん』のあかり(瀧本美織)、『とと姉ちゃん』の常子(高畑充希)、『ごちそうさん』のめ似子(杏)、『虎に翼』の寅子(伊藤沙莉)など、水に落ちてきた朝ドラヒロインは数知れず。ヒロインの水落ちはもはや朝ドラのお家芸であり、「うちは朝ドラヒロインか?」という結のメタ的台詞には思わず笑ってしまった。

 その後、結は助けてくれた野球着姿の高校生・翔也(佐野勇斗)に服を着たまま海に飛び込んだことを注意され、言い合いになる。のちに恋に落ちる二人が最悪の出会いを果たす……というのも朝ドラあるある。結と翔太がそのパターンに当てはまるかどうかはわからないが、「俺は3歳から地元の海で泳いでた」「うちも6歳の時からここの海で泳いでます」と張り合う姿はすでに息が合っている。

 そもそも結は元から糸島で育ったわけではなく、9年前に両親と越してきたようだ。2004年の9年前は、1995年。「9年やない。9年と2カ月と20日や」という聖人の台詞から察するに、阪神淡路大震災をきっかけに結たちは祖父母がいる糸島に移住したのだろう。脚本家の根本ノンジが、阪神淡路大震災の時に震源地から少し離れた兵庫県・丹波地域に住む女性たちがおむすびを握って被災地に届けたという話から着想を得たこの物語。大事な帽子が水に濡れて泣いている兄弟に、結が実家でとれたトマトを差し出す際に告げた「美味しいもん食べたら、悲しいことちょっとは忘れられるけん」という台詞は本作の大事なテーマとなってくるのだろう。

 そして今度こそ帰ろうとした時、結は謎のギャル集団に絡まれる。バブルが弾け、阪神淡路大震災、地下鉄サリン事件、アメリカ同時多発テロ、東日本大震災など、振り返ってみれば色んなことがあった平成。悲しい出来事も多々あったが、その中でもギャルたちはいつでも明るく逞しく生きていた。そんなギャルの文化に触れた結が平成という時代をいかにサバイブしていくのか、これから半年間見守っていきたい。(文=苫とり子)