【ナルゲス・モハンマディ】人を破壊する「白い拷問」…ノーベル平和賞を受賞した女性がイランの女性刑務所で受けた「ヤバすぎる蛮行」を緊急告発

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イランでは「好きなことを言って、好きな服を着たい!」と言うだけで思想犯・政治犯として逮捕され、脅迫、鞭打ち、性的虐待、自由を奪う過酷な拷問が浴びせられる。2023年にイランの獄中でノーベル平和賞を受賞したナルゲス・モハンマディがその実態を赤裸々に告発した。上司の反対を押し切って担当編集者が日本での刊行を目指したのは、自由への闘いを「他人事」にしないため。ジェンダーギャップ指数が先進国最下位、宗教にも疎い日本人だからこそ、世界はつながっていて、いまなお闘っている人がいることを実感してほしい。

世界16カ国で緊急出版が予定されている話題作『白い拷問』の日本語版刊行に先駆けて、内容を一部抜粋、紹介する。

『白い拷問』連載第1回

無言の裁判で即独房に

尋問責任者の命令で逮捕されたとき、裁判官はまだ裁判所に到着すらしていなかった。裁判所は裁判官に電話をして、私の逮捕状に署名をするよう求めた。私はそこで1時間ほど裁判官が来るのを待っていたのだが、裁判官は到着するや、一言も発することなく、誰にも何も質問せずに、逮捕状に署名した。尋問官が私を連れ出した。

私たちは革命裁判所の裏口から出て、プジョーに乗り込んだ。頭を下げるよう言われ、目隠しをされた。そこから何ブロックか先で降り、大きな扉のあるビルのなかに入っていった。そこを出ると今度は長い距離を走った。外の通りはとても静かでひっそりとしていた。目隠しをされたまま車から降ろされ、建物に入った。

人里離れた城に来たような雰囲気だった。私は刑務所に連れて行かれ、独房に入れられた。

独房に入れられたのは初めてだった。なんとも奇妙な場所だった。窓はなく、どんな隙間もない小さな箱。頭上にはごく小さな天窓があったが、自然光はほとんど入ってこない。壁のずっと高い場所に穴があいていて、はめこまれた100ワットの小さな電球が点きっぱなしになっている。

独房が「人間」にもたらす効果

それ以前にホダ・サベール(イランの知識人、活動家で2011年にハンガーストライキをおこない、ほどなく心臓発作で亡くなった)から、昼も夜も強烈な光でプロジェクターの映像が映し出されている独房の話を聞いたことがあった。

独房は人ひとりが両手を広げられる程度の大きさしかない、そして完全な静寂に支配され、聞こえる音といえば、トイレや祈りの前の清めのために、1日に3〜4回ドアが開いたり閉まったりする音だけ、ということも聞いていた。

独房がどのように人間に作用するのか、私は聞いたことを思い返してみた。

それは白い拷問であり、洗脳だ。いままで人の体験談としてしか知らなかった状況のなかに、自分が置かれている。そしてそれがどれほどひどい傷を残しうるのか、私はよく知っていた。にわかに、とても恐ろしくなった。

ここがどこなのか、何をされるのかも分からなかった。刑務所でこれからどんな罰が与えられるのか知らされず、先のことは一切不明という状況は、死に至る毒にも似ている。

人の最も基本的な権利を奪う

人間に対してこんな仕打ちがどうしてできるのだろう。息を吸い、歩き、自由にトイレに行き、人々の話し声を聞き、話しかける、これらの権利はどこにいってしまったのだろう。最も基本的な権利を奪われたことは、起訴内容や裁判と判決について考えるよりもずっと怖かった。

シャワーを浴びる日になると、男性看守がやって来て、シャンプーを渡し、シャワーを浴びられると言った。トイレに行くとき同様に、彼も私の少し後ろに立った。

私は慄きながらシャワー室に足を踏みいれた。恐ろしく不潔な場所だった!

しかし他に道はない。私はシャワー室の真ん中に立って、なるべく何も触れないように気をつけながらシャワーを浴びた。髪を洗うときも絶対に目を閉じなかった。シャワー室に鍵はついていない。ドアだけは閉まる。私は何度もまばたきしながら、誰かが入ってくるのではないかとドアから目をそらさなかった。

全く安心できなかった。トイレでもシャワー室でも、看守にもっと離れてほしいと何度も訴えたが無駄で、その状況に耐えるしかなかった。

「3歩歩けば壁」の独房

イシュラタバードの軍収容所は、看守、囚人、スタッフ、医師、すべてが男性で女性は私しかいなかった。フィローゼ・サベール(ホダ・サベールの妹)も私より前にこのような経験をしており、しばらく収監されていたことを思い出した。彼女はラジャエイ氏(イラン人ジャーナリスト、現体制には宗教的に反対の立場)を見たそうだから、同じ収容所に収監されていたのかもしれない。

停滞した時間のなかで、昼と夜が続いていく。時が止まっているかのようだった。私は時計を持っていなかったので、1日3回のアザーン(祈りのための呼び声。モスクからスピーカーで流れてくる)だけが、時間を知る手がかりだった。

独房のなかは3歩しか歩くことができず、歩き回ろうとすれば目が回るが、耐えるしかなかった。ずっと座っていると、壁が自分にのしかかってくるように感じた。夜眠る前、歌のレッスンで習った曲を歌ったが、そのたびに看守がドアを開けてやめろと言う。私は小さな囁き声で歌った。

誰の声も長いこと聞いていなかったので、少しでも大きい声を出すと、自分の声に驚いてしまった。

『あまりに過酷な環境に「人間かどうかも怪しくなる」…いまイラン刑務所で強制される「非人道的すぎる」独房生活』へ続く

あまりに過酷な環境に「人間かどうかも怪しくなる」…いまイランの刑務所で強制される「非人道的すぎる」独房生活