鈴木は今も清家を支えていた。というより、清家には主体性が感じられず、すべて鈴木に従っているように見えた。道上は鈴木が清家を操っているのではないかと考える。アドルフ・ヒトラーに演説法などを指導したエリック・ヤン・ハヌッセンのような存在である。

 鈴木には政界に恨みがあった。28年前に起きた政官界が絡む贈収賄事件で、不動産会社社長だった父親は責任の全てを押し付けられた。その後、謎の死を遂げる。鈴木が清家を利用し、政治家たちへの復讐を企んでいる可能性が浮上した。

 ところが、鈴木は何者かに車で跳ねられてしまう。命は助かったが、身の危険にさらされている。清家を操っているのは鈴木ではないようだ。

 道上が次に注目したのは清家の大学時代の恋人・三好美和子(田辺桃子)。法院大学に通いながら脚本家を目指していた野心家だ。美和子は清家を27歳で政治家にすることに執着していた。

 美和子の願いはかなう。清家は27歳で代議士になった。清家が秘書をしていた代議士・武智和宏(小木茂光)が交通事故死し、弔い選挙に出馬した清家が当選したからだ。

 清家を操っているのは美和子で、鈴木と武智の事故も彼女の脚本どおりなのか。道上が大学時代の美和子が書いた脚本に目を通したところ、執筆者の名前は美和子ではなく、「真中亜里沙」となっていた。法院大に美和子の在籍記録もなかった。

◆賛否両論ある櫻井の演技力

 清家の周辺で見え隠れする謎の女(高岡早紀)が美和子の現在の姿なのではないか。清家の後援会長・佐々木光一(渡辺大)も怪しい。やはり高校時代の同級生で、現在は人の良さそうな料亭経営者だが、清家の動きを監視しているように見える。

 疑わしい人物はまだいる。清家自身だ。誰かに操られているように見せかけながら、本当は清家が周囲を操っているのではないか。
清家が道上と会うたびに口にする「これからも僕を見ていてくださいね」という言葉が重い意味を持つに違いない。いずれは自分が主体性を持ち、大きなことをするつもりなのだろう。

 櫻井の演技力については賛否両論あるものの、清家役はハマっている。櫻井は置かれた状況の変化によって、顔色や声色を変えるのがやや苦手。それがかえって表情が硬い清家役に合っている。原作者の早見氏も清家という人物を書く際、櫻井をイメージしたという。

 櫻井の父・櫻井俊氏(70)は東大卒の元総務事務次官。2016年の都知事選では自民党内で擁立論が起きた。櫻井にも政官界に適性があり、その役が似合うのではないか。父子だから当たり前だが、櫻井の顔はこのところ桜井氏に似てきた。

 櫻井の俳優としての可能性を否定するつもりは毛頭ないものの、名優と呼ばれるようになるためには無理に肉体派の刑事やダメな探偵などを演じる必要はない気がする。MCとして十分成功しているのだから、俳優としては政治家や官僚、企業経営者など向く役に絞ったほうがいいように思う。

 どんな役でも演じる俳優ばかりが名優ではない。高倉健さんは高齢になっても老人役は絶対にやらなかった。渥美清さんもホワイトカラー役の多くを断っている。自分に合う役しかやらない名優は数多い。

 助演の清家役によって、櫻井の俳優人生の第2幕が開いたように思う。

<文/高堀冬彦>

【高堀冬彦】
放送コラムニスト/ジャーナリスト 1964年生まれ。スポーツニッポン新聞の文化部専門委員(放送記者クラブ)、「サンデー毎日」編集次長などを経て2019年に独立。放送批評誌「GALAC」前編集委員