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2023年10月下旬、電車内で高齢男性がぐずり出した赤ちゃんに激高する動画がX(ツイッター)に掲載されて注目を集めた(詳報:高齢男性、電車で泣く赤ちゃんにブチギレ 親に「人間失格」と大暴れ、制止されるも「甘やかすから日本が駄目になる」...緊迫の一部始終)。

記事には、子どもを持つ親から「同じような体験をした」という旨の共感の声が多く寄せられた。そんな中、社会全体で子育てを応援しようと機運醸成に取り組む企業もある。

ウーマンエキサイトの「WEラブ赤ちゃんプロジェクト」

ママ向けウェブメディア「ウーマンエキサイト」は、2016年5月に「WEラブ赤ちゃんプロジェクト」を発足させた。赤ちゃんの泣き声を温かく見守っている人がいることを可視化する「泣いてもいいよ!」ステッカーを作成した。

11月13日、J-CASTニュースの取材に応じたウーマンエキサイトの担当者は「WEラブ赤ちゃんプロジェクト」は、赤ちゃんが泣くことを許してほしいという意味合いではなく、赤ちゃんを温かく見守っている人たちの声を可視化するためのものと話す。

「保護者の方もできるならば泣き止ませたいけれど、初めての育児に戸惑いわが子の泣き声に焦ってしまったり、お腹が空いた、オムツを変えてほしい、など赤ちゃんの要求に応えられないタイミングで泣き出してしまったり、瞬時に泣き止ませることが難しいケースがあるのも事実です。
また、ポジティブな声というのはなかなか表に現れにくく、SNSやネットニュースで見たネガティブな情報にかき消されてしまうことも。誰かの『うるさい!』という怒鳴り声や、冷ややかな視線は、たった一回であろうとも親たちの心に深く刺さり、それ以降、多くの保護者の目には、世の中全体がひどく冷たく、厳しいものに感じられてしまうこともあるかと思います」」

「WEラブ赤ちゃんプロジェクト」を導入した経緯については、次のように述べる。

エッセイストの紫原明子さんがカフェにいた際、向かいにいたベビーカーの赤ちゃんが泣き出してしまい、母親が懸命にあやして周囲に申し訳ないと思っている様子だった。紫原さんは、自身の子どもが小さい頃フードコートで泣いてしまい、「うるさい人は出ていってください」と知らない中高年男性に言われた。その経験から「私は赤ちゃんの泣き声は嫌じゃありませんよ」と伝えたかったが、ジロジロと母親を見ると「うるさい」と思っている人だと勘違いされると思い、何もできなかった。そこで、ウーマンエキサイトと共に始めたのが「WEラブ赤ちゃんプロジェクト」だった。

立ち上げに関わったスタッフは当時1歳の子どもがいたこともあり、紫原さんの「泣いてもいいよ」という気持ちが嬉しかったが「本当にいいのだろうか」と思った。しかし、温かい声を可視化することで、その声に応援され子育てを頑張れる母親や父親がいるのであれば、プロジェクトが子育ての一助になるのではと考えた。

その後、プロジェクトの公式ホームページには8万以上の個人賛同が集まるだけでなく、多くの企業、自治体も賛同していると明かした。

立ち上げ時、30人にステッカーをプレゼントする企画を行ったところ、900人以上の応募があった。「赤ちゃんの泣き声は嫌じゃない、応援したいと思っていた」「子育ては一段落したけれど、子育て世代を応援したい」「学生で、ママ・パパたちがこういったことに悩んでいるとは知らなかったから応援したい」などと様々な世代から応援メッセージが届いた。

最近は、ステッカーを配るだけでなく、プロジェクトに賛同している自治体と連携して、子連れで出かけやすい場所を増やす取り組みをしている。

高校の家庭科の教科書にプロジェクトが掲載されたり、京都府でラッピングバスを走らせたり、福島県内で交通広告などのPRをしているという。東京で唯一賛同している世田谷区では、ラグビーチーム「ブラックラムズ東京」の試合前にPRをしている。京都府では、サッカーチーム「京都サンガF.C.」、バスケチーム「京都ハンナリーズ」の試合でPRしているほか、会場の一部にオムツ替えができたり赤ちゃんが遊べたりする場所をモデル的に設けるなど、赤ちゃん連れでスポーツ観戦ができる席を展開した。

小田急電鉄の取り組み「小児IC運賃を全区間一律50円」「小田急の子育て応援車」

小田急電鉄は、21年11月、子育て応援ポリシー「こどもの笑顔は未来を変える。Odakyu パートナー宣言」を策定。22年3月に全国初の「小児IC運賃を全区間一律50円」を実施し、「小田急の子育て応援車」の運用も開始した。

11月15日、取材に応じた小田急電鉄広報部は、小児IC運賃一律50円化の狙いについて、「お子さまに電車でのお出かけをより身近に感じてもらうとともに、ご家族や友人とのお出かけを通じて沿線の魅力に触れてもらい、ぜひ愛着を持ってほしいという想いで実施しました」と述べる。

「全国初の取り組みということもあって大きな反響があり、22年度の小児IC利用者数をみると、コロナの感染状況が低下したことに伴う利用者回復の影響もありますが、対前年で約4割増と大きく伸長したことから、外出需要の喚起につながったと考えています。さらに小児IC運賃の低廉化は、同伴する保護者の鉄道利用にも繋がっているという調査結果も出ているほか、低廉化をきっかけに、沿線自治体や、子育て応援に賛同する企業から協賛をいただく機会も増えています」

子育て応援車導入の意図については、「ベビーカーなどを抱え、電車の乗り降りにも苦労されているお客さまや、赤ちゃんが突然泣き出したりした際にも、気兼ねなく安心してご利用いただきたいという想いから運用を開始しています」とした。

21年5月に約1か月間、イベント列車として「子育て応援トレイン」を1編成運行し、好評だったことから導入を決定したと明かす。

子育て応援車は誰でも利用できる。一部を除く通勤車両の3号車の窓ガラスや乗降扉、貫通扉に子育て応援車であるとわかるような計24枚のステッカーを掲出している。ステッカーには「お子さま連れのお客さまに、安心してご乗車いただける車両です」「お子さま連れのお客さまを温かく見守っていただきますようご協力お願いいたします」などと記載されている。

「ご乗車されるお客さまのご理解とご協力を得ながら、こどもたちを育む温かい空間を目指しています」

利用客からは「子育て応援車という広告紙を拝見し、何だか嬉しくて涙が出そうになった」「もっと広めていただきたい」「もっと積極的にアプローチしていただきたい」という反響があると明かした。

23年4月からは、電車内での子育てにまつわる「ほっこりエピソード」を3パターン漫画仕立てのポスターにして、車内で紹介しているとする。

「子育て世代以外のお客さまからも応援をいただいており、地域全体で子育てを応援するという機運が、小田急沿線から醸成されているという手応えを得ています」

電車内での子育てにまつわるエピソードを掲出後には、様々な世代から子育てを応援するメッセージが届いたと明かす。

担当者によると、他にも鉄道を利用しやすい環境整備として、ハード面では、ベビーカーシェアリングサービス、ベビーケアルームを駅に設置することを進めている。

ソフト面では、駅係員に対して子どもに対する接客のあり方を示す「おだきゅうこども接客サービスポリシー」を策定。接客サービスの向上を図っていると明かした。

JR東海の取り組み「お子さま連れ専用車両」「多目的室案内サービス」

JR東海は、23年12月25日から24年1月8日まで東海道新幹線のぞみ号12号車に「お子さま連れ専用車両」を1日片道1〜2本設置している。

11月17日、取材に応じた東京広報室は、導入した経緯について次のように語る。

「09年、新幹線乗務員の『小さなお子様と乗車される方が、お子様が騒いだりするたびに肩身の狭い思いをされている』という意見をきっかけに、お子さま連れのお客様が、周りに気兼ねなく、安心して乗車できるような車両の運行を企画し、10年から『お子さま連れ専用車両』の前身である『ファミリー車両』の販売を開始しました」

反響については「大変好評をいただいております」とし、利用客からは「いつもは周りの方に騒いでご迷惑をおかけしないかハラハラしながら帰省していたため、移動にストレスを感じていましたが、今回は泣き声や話し声を気にせず、気軽に乗れたので助かりました」といった声が届いていると明かした。

JR東海は、他にも11月から東海道新幹線の新しいサービスとして「多目的室案内サービス」を開始した。14日、取材に応じた担当者によると、空いていれば授乳等で使用できる。これまでは乗務員に声がけをして鍵を開けていたが、QRコードが設置されており利用客自身で乗務員を呼ぶことができ、よりスムーズに利用できるようになるという。

【関連記事】どうすれば親が安心して子育てしやすい環境を作れるか――。こども家庭庁こども家庭審議会部会委員で、著書に「子育て罰 『親子に冷たい日本』を変えるには」がある末冨芳氏に取材しました(詳報:電車で泣く赤ちゃんへのブチギレ騒動、背景に「子育て罰」の呪縛 解決のヒント、識者と探る)。