「間違いなく、今の神戸は強い」と断言できる。イニエスタとの訣別、齊藤未月の離脱、強度が緩んだ厳しい残暑を乗り越え――
広島戦の後には優勝の可能性を残す6位のセレッソ大阪との関西ダービー、そして翌節には横浜F・マリノスとの首位攻防戦を控えていた。後に吉田孝行監督が「2連敗もあり得た」と振り返るこの2試合を、神戸は2連勝という最高の形で乗り越えた。
今季の神戸は2018年から進めてきたポゼッションサッカーから一転して「ハイプレスサッカー」へと舵を切った。厳密に言えば、昨季の途中に吉田監督が就任してから移行は始まっていたが、全面に打ち出したのは今季からである。
それを象徴する出来事が、アンドレス・イニエスタの起用法だろう。
シーズン開幕前は怪我のイニエスタが復帰した際に、どんな戦い方をするのかが注目されていた。というのも、神戸はイニエスタがいる時といない時で別のサッカーをしていたからである。そのすり合わせが課題だと目された。
だが、指揮官はメディアの見解を裏切り、イニエスタを使わないという選択に出た。結果的にイニエスタが移籍する予想外のシナリオになるわけだが、その背景には吉田監督がよく口にする「ある基準」があった。
基準については、まだシーズン中のため詳細は明かされていない。だが、監督や選手のコメントを参考にすると、球際やプレスバック、トランジションなどの項目における強さや速さなどの基準のようだ。
吉田監督は試合動画を選手たちに見せ、このプレーは基準を満たしている、あるいは満たしていないといったディスカッションを繰り返し、チーム全体としてのプレー強度を保ってきた。
別の言い方をすると、基準を満たしていない選手は起用しないという明確なラインを引いたわけである。吉田監督は「一人がズレると守備がはまらなくなる」とよく口にしている。
イニエスタを使わなかったのは、主に守備面で神戸の基準を満たしていなかったからだと思われる。この基準が神戸躍進の大きなファクターだと言えそうだ。
「もう、本当にギリギリ」神戸エース武藤嘉紀、体調不良を乗り越えて大一番を“完走”。ポジションは関係なし「センターバックでも」
神戸の基本布陣は4−1−2−3。そして守備時には4−4−2になる可変システムを採用している。キーポイントは両ウイング。守備時にはインサイドハーフの山口蛍がボランチに下がり、佐々木大樹や井出遥也といった、もう一人のインサイドハーフは1トップの大迫勇也と並んで4−4−2の3ラインを形成する。
この時、両ウイングは前線でボールをチェイシングし、奪えなければボランチと同じ高さまでプレスバックしなければいけない。下手をすれば最終ラインまで戻る場面もある。
両ウイングに求められるのは、前線でのプレス強度とプレスバックを続ける強い精神力。タフな武藤嘉紀が試合後に倒れ込むほどハードワークを要求される。
このハイプレスサッカーにおいて、夏場は大きなポイントだった。8月19日の24節・柏レイソル戦で齊藤未月が負傷離脱した影響もあるが、8月は1勝2分1敗と思うように勝点を積み上げることができなかった。
9月最初の26節・京都サンガF.C.戦には勝利したものの、翌27節・広島戦では先述の通り完敗している。C大阪戦と横浜に敗れていれば、優勝の可能性は著しく低下していた可能性もあったなかで、“強い神戸”が戻ってきた要因には、選手たちの意識変化が関係している。
24節の柏戦から27節の広島戦まで、神戸は5試合連続で相手に先制点を許していた。天皇杯を含めれば、公式戦7試合連続である。当然、チームとしては先制点を奪われる課題の解決にベクトルを向けた。
だが、ここに盲点があった。神戸は浦和に次いでリーグ戦での失点が少ないチーム(25失点)だが、引いて守備ブロックを組むスタイルではない。先ほどから書いているように「ハイプレス」が持ち味である。失点のリスクを背負いながらも、前線から守備を仕掛けることで、結果的に失点を抑えてきたチームだ。
広島戦の後、神戸は先制点を奪われる課題を一旦忘れ、原点回帰でハイプレスに意識を向けた。結果的に本来のアグレッシブさが戻り、C大阪戦では先制に成功してウノゼロ勝利を収めた。試合後には吉田監督から「これぞ神戸という試合ができた」という言葉まで飛び出している。
イニエスタとの訣別や齊藤の離脱など、長い道中にはいくつものターニングポイントがあった。それでもブレずに「基準」を守ってきたから首位という現状がある。間違いなく、今の神戸は強い。
取材・文●白井邦彦(フリーライター)
