宇都宮駅東口に停まる試運転中の「芳賀・宇都宮LRT」の車両。“雷の稲光”をモチーフにしたという黄色が雨の日にも映える車体デザインだ(編集部撮影)

2023年8月26日、栃木県の県庁所在地、宇都宮市と隣接する芳賀町を結ぶ次世代型路面電車「芳賀・宇都宮LRT」が運行を開始。国内の路面電車としては75年ぶりの開業だ。

そもそも路面電車は、一般的な鉄道と法律上何が違うのか。

大正時代にさかのぼる軌道法

LRTは「Light Rail Transit」の略。近代的な路面電車ではあるが、旧世代の路面電車と同様、普通鉄道を規律する鉄道事業法ではなく、大正年間に制定された漢字カタカナ交じりの軌道法体系によって規律される。

軌道は普通鉄道と異なって道路交通を補助する交通機関として位置付けられており、道路上に敷設されることを前提としている(軌道法第2条。逆に鉄道事業法第61条は道路上に線路を敷設することを予定しないことを明言している)。軌道の車両は道路上の他の交通手段と混走することから、軌道運転規則により車両長や最高時速について厳しい制限が定められている。

大手の私鉄でも、東急電鉄の世田谷線や京阪電気鉄道の京津線などは軌道法に基づく路面電車にあたる。

1960年代1970年代の高度経済成長とともに始まったモータリゼーションで、鉄軌道を含めた公共交通機関の旅客が個人の自家用車利用に移転し、多くの路面電車が廃止された。道路交通の補助機関というよりも道路交通を阻害するものとして冷遇された面もあった。

2005年には名鉄岐阜市内線が廃止になるなどしていたものの、2007年に地域公共交通の活性化及び再生に関する法律(地域公共交通活性化再生法)による「軌道運送高度化事業」が定められたことで、路面電車の活用に光が差した。

「軌道運送高度化事業」とは、「軌道であって、より優れた加速及び減速の性能を有する車両を用いること、その他の国土交通省令で定める措置を講ずることにより、定時性の確保、速達性の向上、快適性の確保その他の国土交通省令で定める運送サービスの質の向上を図り、もって地域公共交通の活性化に資するもの」をいう(第2条第6号)。

上下分離方式による運営も特例により認められることから、地方公共団体も関与する地域公共交通計画のなかで、軌道の建設・延伸、新型車両の導入、振動を抑える軌道の導入、停留場のバリアフリーその他利用しやすい設備の設置などが可能となった。

「前近代的な乗り物」の転機

前近代的な乗り物から新しくて利用しやすい交通手段に脱皮をさせることで道路交通の補完的な立場である軌道を公共交通ネットワークの主役にするものである。富山地方鉄道富山軌道線の環状線も「軌道運送高度化事業」の具体的な実施例である。

軌道を規律する軌道法は大正年間に定められた古いものである。施設や車両が新しくなっても道路交通の補助機関として考えられていた時代の法体系が今も息づいている。

LRTの時代、道路交通の主役にもなり得る軌道に対しそんな法令のままでいいのか、と思うときもあるが、軌道法はあくまでも軌道の性格や建設、運転などの基準を定めるものであって、軌道を地域公共交通のなかでどのように活用するかということは目的外である。

軌道法が古くて今のLRTにはふさわしくないということがあったとしても、地域交通計画の中で路面電車を活用するときはバスその他の交通機関とも有機的に関係を構築しなければならないから、軌道法だけをLRTに合わせて変えたところであまり意味はない。

軌道運転規則の運転速度制限や車体長の制限は改正の余地がありそうだが、改正にはほかの法令との調整を含め大きなエネルギーも必要であるし、軌道法の規律を残しつつ、路面電車を地域交通に活用する場面で地域公共交通活性化再生法を用いるというのが座りがいいのだろう。

「地方都市の足」モデルとなるか

宇都宮のLRTも2016年に軌道運送高度化実施計画の認可を受け、宇都宮市や芳賀町の地域公共交通再編計画の構成要素として位置づけられている。

公設型上下分離方式(公設民営方式)が採用され、軌道整備事業者には宇都宮市と芳賀町とがなり、宇都宮ライトレール株式会社が軌道運送事業者となっている。車両は超低床車の新潟トランシス社製「HU300」17編成をそろえた。バスやデマンド交通との乗り換え場所であるトランジットセンターも19ある電停のうち5つに設けられる。

宇都宮駅から東方向への鉄軌道がこれまで存在しなかった宇都宮市・芳賀町にゼロから立ち上がったLRTが、新たな地域公共交通機関としてどれだけ効果をもたらすことができるか。地方都市における将来的な地域公共交通のあり方を示すよいモデルといえよう。


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(小島 好己 : 翠光法律事務所弁護士)