帝国ホテル「1万円台のバイキング」の豪華な中身
今年8月にリニューアルした「インペリアルバイキング サール」では、北京ダックも味わえる(写真:筆者撮影)
日本を代表するホテルの1つである帝国ホテル。帝国ホテル 東京内にある「インペリアルバイキング サール」は、日本初のバイキング形式のレストランとして知られている。
そんな同店のバイキングが、今年8月にリニューアルオープンした。リニューアル前にも、40種類ものメニューが用意され、料理もデザートも手が込んでいるなど、こだわりが随所に見られたが、今回のリニューアルでどのように変わったのだろうか。
まずは価格面からみてみよう。
【リニューアル前】(ランチ)平日1万200円、土日祝日1万2700円(ディナー)平日1万4000円、土日祝日1万6500円。
【リニューアル後】(ランチ)平日1万2000円、土日祝日1万4000円、(ディナー)平日1万7000円、土日祝日1万9000円 ※大人料金、消費税・サービス料込み
価格面をみると、それぞれ値上がりしている。ただ価格が高くなった分、バイキングの内容もより充実したものになっている。
メニューは、50種類に増えた
まずはメニューの数が増えた点だ。店内にあるバイキングカウンターはもともと2つだったが、リニューアル後には店内奥に1つ増設された。現在バイキングカウンターは、エントランス側から順番に温菜、デザート、冷菜の3つとなっている。これによりメニューの数は40種類から、50種類へと増えた。
リニューアル後の店内(写真:筆者撮影)
コンディメント(調味料)も充実させた。店名に「サール」=「sal(ラテン語で塩)」とあるように、塩にもこだわり、11種類の塩を用意。より自分好みで、料理の味を楽しむことができそうだ。
11種類の塩が提供されている(写真:筆者撮影)
料理のジャンルが増えたことも、注目ポイントだろう。これまでフランス料理のみだったのが、今回から中国料理と日本料理も加わった。なお中国料理は、帝国ホテル 大阪で人気の中国料理店「ジャスミンガーデン」で長年シェフを務め、現在は中国料理統括シェフの畑繁良氏が監修している。
料理ジャンルが増えたことについて、帝国ホテル 東京の料理長を務める杉本雄氏は「帝国ホテルは今年で133年目を迎えます。大阪では開業から日本人にも馴染みのある中国料理を提供していましたが、東京には中国料理の直営店がなかったのでまだ提供していませんでした。帝国ホテルが生み出したバイキングは、さまざまなお客様に、おいしく味わっていただくことがコンセプトです。そう考えたときに、フランス料理に加えて、食べやすい中国料理や馴染みのある日本料理もお召し上がりいただきたいと考えました」と語る。
中国料理と日本料理が加わったことにより、紹興酒や日本酒、焼酎も用意。さまざまな食事とお酒のマリアージュが体験できるようになった。
さまざまな中国料理や日本料理が加わった
ここで、新たに加わったメニューもいくつか紹介しよう。
冷菜では、シャキシャキ感が心地よい「クラゲ冷菜」やピリ辛の「ザーサイ」など、ポピュラーな中国料理が加わった。帝国ホテルのファンであれば、「帝国ホテル伝統のポテトサラダ ミモザ風」とともに、中国料理の定番冷菜が味わえるのは、うれしい驚きだろう。
また、旬の食材をカラッと揚げた「天婦羅」や、鴨のパリっとした皮とジューシーな身を巻いた広東スタイルの「北京ダック」、ワゴンで提供される「小籠包」などの点心、シンプルなラーメンの「光麵」、焼き立てが目の前で切り分けられる「台湾カステラ」などもメニューに加わった。
旬の食材をカラッと揚げた「天婦羅」(写真:筆者撮影)
温菜は、杉本氏が本場フランスのニュアンスを取り入れた、バターが香ばしい「スズキのカフェドパリ風」や、濃厚なソースで味付けされた「鮑の煮込み」、適度なピリ辛さが癖になる「麻婆豆腐」、優しい出汁が効いた「鱧のお椀」を味わうことができる。
〆の食事も、バイキングではなかなか見かけない「鰻丼」、「五目チャーハン」と充実した内容だ。
シェフの紀野安彦氏が「メニューは約2カ月ごとに新しくなりますが、旬が短いものは1カ月単位で入れ替えます」と語るように、いつ訪れても新しいものが楽しめるのはうれしい。
ペストリーシェフの秋城俊徳氏が生み出すデザートにも注目だ。「デニッシュシャンティ」は、優しいデニッシュ生地にソフトなクリームが包まれている。「クロワッサンプディング」は、クロワッサンを用いた上質なプリン。濃厚だがコクがあり、食べ応えのある一品だ。
このほか、マンゴー果肉が存分に用いられた「マンゴープリン」、包容力のある甘味がある「タピオカココナッツミルク」、どこまでも爽やかな「ジャスミン茶風味のゼリー」、上品な香りがする「杏仁豆腐」と、中華デザートも豊富な内容となっている。
中華デザート(写真:筆者撮影)
今回のリニューアルにより、料理やデザートなど、さまざまな中国料理を味わえるようになった。この点について、畑氏は次のように述べる。
「大阪で人気のメニューを東京でも味わっていただきたいと思い、北京ダックや点心、杏仁豆腐やマンゴープリンなどを選定しました。東京で提供させていただくにあたり、半年前からレシピを整えて人材を育成し、東京でも大阪と同じクオリティーを提供できるようにしています。
北京ダックは、ご自由に食べていただきたいので、われわれもお手伝いいたしますが、お客様ご自身でも巻いていただけるようにしました。点心はワゴンで巡回して熱々をご提供し、中国料理のデザートはよい状態を保てるようにグラス仕立てにしています」
また、デザートを担う秋城氏は「中華デザートは初めてでしたが、チームみんなで学びました。誰か1人ができるようにするということではなく、チーム全員が同じクオリティーでつくれるようにしました」と語る。
1万円超えのバイキングは、消費者に受け入れられる?
リニューアルでより充実した中身となった「インペリアルバイキング サール」のバイキング。何か課題はあるのだろうか。気になるところがあるとすれば、次の3点である。
まずは価格に関して。コースではなくバイキングで、軽く1万円を超える価格は消費者に受け入れられるのだろうか。杉本氏は次のように話す。
「これまでもお客様にご満足いただいていましたが、中国料理と日本料理を加えて、種類数も増やしました。これだけ質の高い和洋中の料理を体験できるバイキングは、ほかにはないのではないでしょうか。
また、朝食では数が不足しないようにパンをご用意するので、余ってしまうことがあります。これをうまく活用して、クロワッサンはプディングにし、デニッシュ生地はケーキにしました。お客様に喜んでいただきながらも、社会的課題にも取り組み、環境に優しくできるようにも努めています」
2つ目は、バイキングカウンターの配置だ。通常のバイキングはエントランスから順番に冷菜、温菜、デザートと並んでいることが多い。そのほうが食べる順番に即しているからである。
店内奥に新しいバイキングカウンターが設置され、そこが冷菜エリアとなったため、エントランスから入ると、温菜、デザート、冷菜という並びになった。
杉本氏は「座る席によって、どのバイキングカウンターが近いかは変わるので、影響ないと考えています。ゲスト単位で考えてみれば、もともと正解はないことです。それに近年のバイキングでは、入口に最も引きの強いメニューを配置するケースも多いので、問題ないでしょう」と語る。
サービスの難易度も高まる
3点目は、2014年に導入したバイキングコンシェルジュに関して。
バイキングコンシェルジュは、バイキングでどれをどのように食べたらよいか、どの料理にどのお酒がマリアージュするかなど、瞬時に最適解を返さなければならない。ただでさえ、大変な責務を担っているが、全体的なメニュー数が増え、中国料理と紹興酒、日本料理と日本酒や焼酎も加わったので、サービスの難易度がより高くなった。
「インペリアルバイキング サール」の支配人を務める松本貴史氏は次のようにいう。
「新しい料理が増えたことによって、食べ方も新しくなりました。その日の状況によっても変わりますので、どのようにすればお客様により楽しんでいただけるのか、マニュアルや資格要件をアップデートしていきます」
帝国ホテルを知らない日本人は、あまりいないだろう。その一方で、バイキングの発祥が帝国ホテルであると知っている人は多くないのではないだろうか。バイキング誕生から65年を経て、さらなる進化を遂げた「インペリアルバイキング サール」。読者自身の目と舌で、その歴史と進化を確かめてもらいたい。
(東龍 : グルメジャーナリスト)