1.5リッターVCターボエンジンにe-POWERを組み合わせて登場した4代目エクストレイル(写真:日産自動車)

少しずつ街で見かける機会も増えてきた、日産のミッドサイズSUV「エクストレイル」の4代目(T33型)。

まだまだ新鮮な印象であるが、発売となったのは2022年7月25日だ。では、この1年でどれだけ売れたのか。そして、どんな評価を得ているのか。発売から1年が経った今、振り返ってみたい。

RAV4やCR-Vに対する日産の回答

まずは、簡単にその歴史をたどってみよう。初代エクストレイルは、2000年に誕生。日本だけでなく、世界中でヒットした。

ボディはモノコックで、エンジンを横置きするFF(前輪駆動)レイアウトがベース。本格的なオフロード走行を前提としたフレーム構造のクロスカントリー4WDとは異なる、街乗り用途を中心に据えたSUVとしたことが特徴だった。現在、ブームとなっているSUVの基本的なフォーマットである。


2000年に登場した初代エクストレイル(写真:日産自動車)

トヨタ「RAV4」やホンダ「CR-V」など、1990年代に生まれた“モノコック構造のライトクロカン”という新しいジャンルに対する日産の答えが、このエクストレイルだったのだ。

2007年に誕生した2代目は、2007年度から2009年度にかけて3年連続で「SUV国内販売ナンバー1」を獲得。2013年12月に登場した3代目の先代モデルも、2014年から2018年にかけて年間5万台以上の販売実績を達成する人気モデルとなった。


初代のヒットを受けキープコンセプトで登場した2代目エクストレイル(写真:日産自動車)

ミニバンの「セレナ」とともに、エクストレイルは2000年代を通じて日産を支える屋台骨の1つに成長したのだ。そして、2022年に登場したのが第4世代となる現行モデルである。

先代のアーバンなイメージから、初代や2代目を思わせるアクティブなスタイルへと外観が大きく変わったのもトピックだが、内容面での最大の特徴はすべてがハイブリッド仕様となったことだろう。

そのハイブリッドは日産が「e-POWER」と呼ぶ、駆動のすべてをモーターに任せてエンジンは発電に徹する、いわゆる「シリーズ式ハイブリッド」となる。

エクストレイルのハイブリッドシステムにはもう1つ大きなトピックがあり、それは発電用のエンジンに1.5リッター「VCターボ」が採用されたことだ。

これは、日産が世界で初めて量産化を成功させた「可変圧縮比機構」を持つもの。圧縮比を変えることで、低負荷から高負荷の領域まで常にベストな状態の燃焼ができるため、ハイパワーかつ省燃費となる。


新型エクストレイル、e-4ORCEのパワートレーン(写真:日産自動車)

過去に、世界中の自動車メーカーが実現化に挑み、そして敗れ去ってきた技術だ。そのため“夢のエンジン”とまで呼ばれていた。それを日産は、20年以上の研究期間をかけて世界で初めてモノにしたのである。まさに「技術の日産」を証明するエンジンと言えよう。

この“夢のエンジン”VCターボによって、エクストレイルでは本来2.5リッター相当の大きなエンジンが必要なところ、小さな1.5リッターで済んでいる。また、エンジン回転数を低く抑えることもでき、それが静粛性アップに貢献する。


ドライブモードセレクターにより走りを変化させることもできる(写真:日産自動車)

実際にエクストレイルを試乗してみると、VCターボがいい仕事をしていることがわかる。加速はリニアで力強いのに、ノイズや振動は少ないのだ。

また、ブラッシュアップされたモノコックや電動駆動4輪制御技術「e-4ORCE」によりハンドリングには信頼感があり、乗り心地も上質。日産の高い技術を結集させたSUVであると実感できた。

2週間で1万2000台受注も登録は5カ月で1万台

そんな新型エクストレイルは、発売2週間で1万2000台を超える受注を獲得している。これは、かなり優秀な成績だろう。

2013年12月に発売となった先代モデルは、3週間で1万1000台の受注であった。また、2015年にハイブリッド版がリリースされたときは、受注1万台を突破するのに2カ月かかっている。


2013年に発売した3代目エクストレイル(写真:日産自動車)

受注1万台を最速で突破した事実は、新型エクストレイルの人気の高さを示すものといえるだろう。

ところが、実際にユーザーの手に渡った数となると、それほど多くない。2022年8〜12月までの5カ月間の新車登録台数は、1万0554台(一般社団法人日本自動車販売協会連合会調べ)に過ぎない。

なんと、発売2週間までに得た受注分を、納車できていなかったのだ。発売から1年を経て、ようやく見かけるようになってきたのは、それが理由である。

その要因は、主に生産の遅れ。半導体をはじめ、コロナ禍による部品調達の遅延などが、日産にも影を落としたのだ。そして、その残念な状況は、まだまだ続いている。2023年上半期(1〜6月)の新車登録台数は、1万4330台。販売ランキングは25位だ。

この調子では、年間3万台にも達しない。先代モデルがデビュー以後5年間、毎年5万台レベルで登録・納車されていたことを考えると、とても満足できない数字だろう。

部品不足による生産遅延は他社も同じでは……と、思うかもしれない。しかし、ライバルを見わたしても、年間3万台レベルは厳しい。


初代や2代目を思わせるスクエアなデザインなど評価は高いが…(写真:日産自動車)

トヨタの同クラスとなるRAV4は、2023年上半期だけで2万6297台、販売ランキング17位だ。現行RAV4のデビューは2019年であり、今から4年も前のモデルだ。それに大きく水をあけられてはいけない。

さらにいえば、車格が上となるマツダ「CX-60」の1万7499台(販売ランキング22位)やレクサス「NX350h」の1万6922台(同23位)にも負けている。これもいただけない。

「CX-5」の1万3495台(同29位)には勝るが、CX-5は2017年のデビューだ。上回って当然である。発売1年時点での新型エクストレイルの販売実績は、まだまだと言えるだろう。

実績と実力が“見合っていない”

しかし、良い話もある。日産のホームページにある「各車両の工場出荷時期の目処について」を見ると、新型エクストレイルの工場出荷は「3〜6カ月」。特別に早くはないが、近年とすれば、“普通のレベル”に回復したと言えるのではないだろうか。

新型エクストレイルに乗ってみれば、決してクルマとしての実力は劣っていない。内装などの質感も、上がっている。それに、先代のハイブリッドでは設定されなかった、7人乗りもある。


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全車ハイブリッドになったこともあり、スタート価格は100万円近く上がっているが、ハイブリッド同士で比べれば、内容に準じた価格アップだといえる。

現在の状況から、販売実績とクルマの実力が、“見合っていない”ことは明らか。不振の原因を克服し、今後の日産の挽回を期待したい。

(鈴木 ケンイチ : モータージャーナリスト )