慶応が優勝をつかんだ夏の甲子園。振り返れば多数の重要なテーマがありました(写真:東京スポーツ/アフロ)

8月23日、第105回全国高等学校野球選手権記念大会の決勝戦が行われ、神奈川県代表の慶応が107年ぶり2度目の優勝を果たしました。

今年は大会前からプレー以外のさまざまな話題がネット上でフィーチャーされ、SNSにコメントする人が続出。X(旧ツイッター)のトレンドランキングをにぎわしたほか、ネットメディアが記事を量産し、球児や監督などの当事者だけでなく、日本中の人々を巻き込んで盛り上がりました。

ここでは野球のナイン(9人)に引っかけて、ネット上でフィーチャーされた9個の話題をピックアップ。今夏の甲子園にはどんな話題があり、それぞれ現状や未来に向けてどんな意味合いを持つのでしょうか。

酷暑開催、脱丸刈り、チアへの盗撮

1つ目の話題は、酷暑の開催。全国各地で熱中症警戒アラートが発表され、不要不急の外出自粛が呼びかけられる中、例年以上に開催への懐疑的な声が飛び交い、大会前から熱中症などによる命の危険が指摘されていました。そんな声を受けてか運営側は、今大会から5回終了後に10分間の“クーリングタイム”を導入。球児たちが水分補給や冷風などで体温を下げるシーンが見られましたが、今後その効果や改善点が検証されていくでしょう。

しかし、それでも体調不良を訴えたり、足がつったりする球児がいたなど、暑さ対策が十分ではなかったのは明白。決勝戦の開始時刻が最も暑い時間帯の14時だったことを含め、最後まで酷暑での開催は議論の中心となっていました。その中には、松井秀喜さんによる前・後半の二部制を筆頭に、試合時間を朝と夕方に限定、京セラドーム大阪との2拠点開催、秋開催への季節移行などの案があり、実際に高野連が検討を続けていることも含め、来年からの変化を予感させられます。

もし球児たちに万一のことがあったら……指導者、学校、高野連などはどう責任を取ればいいのか。さらに球児だけでなく、アルプススタンドの応援団もしかり、ほかの部活動もしかり。猛暑がビジネスなどの大人の都合でスルーできないタームに突入したことを実感させられました。

2つ目の話題は、脱・丸刈り。今大会は準々決勝に勝ち上がった8チーム中3校が丸刈りではない髪型だったことが驚きを持って報じられ、その姿にスポットが当てられました。その後も、「準決勝に脱丸刈り2校が進出」「脱丸刈りチームが決勝進出」などと最後まで報じられたほか、帽子やヘルメットを取った姿が「イケメン」「プリンス」などと話題に。

脱丸刈りのシンボリックな存在だった慶応が優勝し、「イケメン」「プリンス」と言われた丸田選手が決勝で先頭打者ホームランを放つなど活躍したこともあって、この流れはほかの強豪校などにも加速しそうなムードが漂っています。ただ、その一方で「僕たちは自ら望んで丸刈りにしている」と話す球児も依然として多く、「メディアや視聴者が髪型でさわぎすぎ」という不満の声もあり、来年は話題にならないくらいのほうがいいのかもしれません。

3つ目の話題は、チアリーダーへの盗撮。チアリーダーへの盗撮による被害や対策が複数回によって報じられたほか、ネット上には彼女たちの画像がアップされていました。実際、検索エンジンに「チア」と入力すると、「2023 画像」「撮影」「脚」「かわいい」などの予測変換ワードが表示されます。

チアリーダーたちは踊っているときだけでなく、座ったとき、風が吹いたとき、汗で服が密着したときなどをつねに狙われているストレスフルな状態。そのため、出場4校がチアリーダーの衣装をスカートからハーフパンツに替えたほか、スタンドでの撮影を控えるように要請する高校もあったそうです。

チアリーダーだけでなく、マネジャーや女性アスリートたちに対するものも含め、盗撮への注意喚起や厳罰化には限界があるだけに、個人やチーム単位での防衛策が進められていくのでしょう。また、今後はテレビ中継でチアリーダーの全身や顔のアップを映すシーンを減らすなどの配慮が求められていきそうです。

土の持ち帰りと応援の新たなブーム

4つ目の話題は、土の持ち帰り。今大会は4年ぶりにベンチ前の土を持ち帰ることが許可され、試合に敗れた選手たちが土を集める姿がひさびさに見られました。

はじまった時期がわからず「100年近く前では」という説もあるほどの風習ですが、今大会では「土を持ち帰らないのが伝統」という広陵や、「土はいらない」と話す球児の存在などもクローズアップ。また、「グラウンド整備をする阪神園芸のスタッフがトンボで土を選手たちのところへ集める」「女性マネジャーが阪神園芸のスタッフに笑顔で頭を下げる」などのハートフルなシーンも注目を集めました。

ただ、試合に敗れた選手たちが土を集める姿を至近距離で撮影することについて、「敗者に対して、やめたほうがいいのではないか」「プレーではないので盗撮のような感じがする」などとメディアの姿勢に疑問を呈する声もありました。個人の尊重が叫ばれる時代だけに、土を持ち帰る風習は続いていくとしても、メディアの撮影は抑制的にしていくべきなのかもしれません。

5つ目の話題は、「盛り上がりが足りない」応援。今夏は「も、もり、もりあ、盛り上がりが足りない!」と大声で叫ぶ応援スタイルが、各地区予選からブームになっていることが報じられ、甲子園でも多くの応援団が採用していました。

さらに、優勝した慶応は森林監督をもじって「森林が足りない」というコールでスタンドを盛り上げたことも話題に。吹奏楽部の演奏に頼らず声を張り上げるため一体感が生まれること、ビハインドや勝負時などに選手たちを鼓舞しやすいことなどのメリットがあるだけに、この応援スタイルは今後も定着しそうな感があります。また、来年もSNSによって新たな応援のブームが生まれるのではないでしょうか。

日大クエストとありえない高額転売

6つ目の話題は、日大クエスト。岡山県代表のおかやま山陽が1回戦で山形県代表の日大山形、2回戦で岐阜県代表の大垣日大、3回戦で西東京代表の日大三に勝ったことで、“日大クエスト”というフレーズがネット上に飛び交いました。

おかやま山陽は準々決勝で鹿児島県代表の神村学園に敗退しましたが、もし勝ち上がって茨城県代表の土浦日大(準決勝で敗退)にも勝利していたら、今大会出場の日大系列校を総なめに。ネット上が沸いたことで、今後も「○○クエスト」というフレーズが定着しそうなムードを漂わせました。

また、ネット上には、同時期に薬物事件で世間をさわがせていた日大アメフト部を引き合いに出すコメントもあるなど、日大関係者にとっては不名誉な夏だったのかもしれません。

7つ目の話題は、チケット高額転売。今夏は酷暑だったにもかかわらず甲子園のスタンドが満員となるケースが多く、準々決勝以降は各メディアが早期の完売を報じていました。その一方で、ネット上では高額転売が横行。定価の5〜10倍以上で販売されていることが報じられ、「あまりに高すぎる」「学生が買えない」などと物議を醸しました。

今大会の入場券は2019年に施行された不正転売禁止法が適用されないほか、よほど悪質でなければ兵庫県迷惑防止条例での摘発もされづらいなど、高額転売への対策が不十分だった感は否めません。来年以降の大会では、購入者に氏名と連絡先を義務づけて不正転売禁止法の対象にするほか、転売防止機能を付けた電子チケットの導入などが求められていくでしょう。

また、大会運営側には、高額転売を行う人物への毅然とした対応や、「目当ての試合が終わって帰った」という人の空席をどうするのかなどの課題を解決する姿勢が問われそうです。

痛恨の誤審と慶応の応援マナー

8つ目の話題は、誤審の影響。準決勝の宮城県代表・仙台育英VS鹿児島県代表・神村学園の3回裏に映像を見ればわかるレベルの誤審があり、仙台育英が勝ち越し点を挙げたほか、一気に4点を取って試合の行方を大きく決定づけたことが批判を集めました。

ネット上は審判への批判にとどまらず、試合に勝った仙台育英を責めるようなものもあるなど大荒れ。NPBで導入されているリクエスト制度やリプレー検証がないことへの不満を含め、怒りの声があふれました。

現在はテレビ中継で映像が流れてしまうだけでなく、ネット上に動画がアップされてしまうなど、誤審騒動の影響は過去とは比べものにならないほど大きくなっています。バッシングを受けるリスクが高い割に報酬が安く、酷暑の重労働であるなどの理由から、「審判の担い手が減っている」という現実もあり、球児と審判を守るために甲子園限定のリプレー検証などが実現に向けて動き出していくでしょう。

ただ今夏は神奈川県大会の決勝戦・横浜vs慶応の最終回に、2点リードされていた慶応の大逆転勝利につながる誤審疑惑も大きく報じられました。その先に慶応が全国制覇するという結果もあって、リプレー検証の議論は甲子園に限らず来年も続いていきそうです。

9つ目の話題は、慶応の応援への賛否。決勝の試合が進むにつれて、Xのトレンドランキングには、「慶応の応援」「大応援団」「応援のせい」「異様な雰囲気」「応援の力」「仙台育英がんばれ」「仙台育英応援」などのフレーズが上位20位をほぼ独占するような状態が続いていました。

慶応の応援はそれまでも何度か、その迫力や相手チームへの圧力が指摘されていましたが、好意的なものばかりではありません。「相手チームの攻撃時にアウトを取っただけで大声を出して盛り上がるのはマナー違反」などの声が少なくなかったのです。決勝では両チームで6つものエラーがありましたが、「大きすぎる応援が両チームへのプレッシャーになっていたのではないか」という声も見られるなど、応援のマナーを考え直すきっかけにつなげていくべきでしょう。

ターニングポイントと言われる年に

ただ、慶応の応援がこれほど盛り上がったのは、単に107年ぶりの優勝がかかっていたからだけではなく、「メディアの慶応びいき」という背景がありました。とくに民放各局には大学も含めた慶応のOB・OGも多いためか、勝ち進むたびに扱いが大きくなり、ワイドショーでは相手チームとの差が歴然に。それがネット上の反発を招いたことで、決勝戦の前後にはできるだけ平等に扱うような配慮が見られたようにも感じました。

ここまで、「酷暑の開催」「脱・丸刈り」「チアリーダーへの盗撮」「土の持ち帰り」「“盛り上がりが足りない”応援」「日大クエスト」「チケット高額転売」「誤審の影響」「慶応の応援への賛否」という9つの話題をピックアップしてきました。球児のプレー以外だけでこれほどの話題があっただけに、のちに今大会は「2023年がターニングポイントだった」と言われるかもしれません。

甲子園の開幕前夜に大型特番「ファン1万人がガチで投票!高校野球総選挙2023」(テレビ朝日系)が放送されたほか、今秋からTBSの看板ドラマ枠「日曜劇場」で鈴木亮平さん主演の「下剋上球児」(TBS系)が予定されているなど、高校野球がエンターテインメントのトップクラスにいるのは間違いないでしょう。

だからこそ運営側やメディアは、エンターテインメント性ばかり追求するのではなく、球児のプレー環境や生徒の応援環境をより整えることが望まれていくのではないでしょうか。

(木村 隆志 : コラムニスト、人間関係コンサルタント、テレビ解説者)