勉強「以前」に、「自分がどのように努力すれば結果が出るのか」を整理すれば、結果につながりやすい(写真:zon/PIXTA)

学生時代はもちろん、社会に出てからも勉強をする必要にかられることは少なくない。例えば資格試験の勉強だったり、新たな仕事を覚えるために必要な知識やスキルを習得するためだったりーー。

しかしいずれにしても、自分にマッチした勉強法を実践できている人は少ないと、『なぜか結果を出す人が勉強以前にやっていること』(チームドラゴン桜 著、東洋経済新報社)の著者は指摘している。

多くの人は、自分のサイズに合っていない服を着ているかのように、不恰好な勉強をしているというのだ。だとすればたしかにそれは、「自分に合った努力」ができていないということになってしまうだろう。

結果が出ている人の勉強法

逆に、さまざまなことで結果を出している人は、自分に合った勉強法を「オーダーメイド」でつくっています。勉強を始める「以前」に、自分に合った勉強法を準備するーーだから「自分に合った努力」が続けられて、苦労せずとも結果が出るのです。(「はじめに」より)

こう語る著者の「チームドラゴン桜」は、現役東大生や有名予備校講師、大学の准教授などからなる「勉強法研究のスペシャリスト集団」。その名称からわかるように、漫画『ドラゴン桜2』(三田紀房 著、講談社)の制作・情報提供のために発足されたチームである。

だが気になるのは、上記の「自分に合った勉強法」という部分ではないだろうか? なにしろ嫌いな勉強を無理して好きになる必要はなく、嫌いなら、「嫌いなりの努力の仕方」をすればいいと断言しているのである。時間がない人には、「時間のない人なりの勉強の仕方」があるのだとも。

勉強法が先にあって、その勉強法に合わせて自分を変える必要は、ありません。
自分が先にあって、自分に合わせた勉強法をオーダーメイドでつくっていくほうが、圧倒的に効果があるのです。
どんな人でも、勉強「以前」の準備で努力の仕方を変えることによって、結果を出すことができるようになるのです。(「はじめに」より)


そうした考え方を軸とした本書では、自分の強みと弱みを正しく理解し、それぞれについて「結果の出る努力」がわかる方法論を紹介している。勉強「以前」に、「自分がどのように努力すれば結果が出るのか」を整理すれば、結果につながりやすいという考え方だ。

そうすることによって、自分が勉強すべき内容を「好き×得意」「好き×苦手」「嫌い×得意」「嫌い×苦手」の4つに分類して可視化することが重要だというのである。

マトリクスを活用したその具体的なメソッドに関しては本文を参照していただきたいが、ここではそのなかから、最大の難敵ともいえる「嫌い×苦手」の勉強法に焦点を当ててみたい。

歯を磨くように勉強する?

いうまでもなく、「嫌い」で「苦手」な勉強は「やりたくない」部類に入るはずだ。「好き」なものならともかく、「嫌い」で「苦手」なのだとしたら「やろう」という気になること自体が最大の壁になる。要するにモチベーションが上がらないわけだ。

とはいえ、勉強することを避けられない状況だってある。では、どうしたらいいのか? 著者によれば、この「嫌い×苦手」の領域に収まる分野の勉強を始める前にまずすべきなのは「習慣化(ルーティン)」なのだそうだ。


(漫画:©︎三田紀房/コルク、書籍『なぜか結果を出す人が勉強以前にやっていること』より引用)

この漫画にある「歯を磨くように」という表現、これこそが「嫌い×苦手」なことで結果を出そうとするときにもっとも重要な考え方だというのである。いわば歯磨きのように、「とにかく、それをしないと気持ち悪い」と感じるくらいまで“するべきこと”(つまり勉強)を身体に染みつけて習慣化するということだ。

いわれてみれば当然の話で、いま「嫌い×苦手」な物事なのだとすれば、それは「習慣化ができていないから、嫌いで不得意」なのだと考えることができるはずだ。

そこで逆の観点に立ち、「『何度も繰り返しているため、ほとんど無意識にそういう行動をとることができること』はなにか?」という点について、改めて考えてみるべきかもしれない。

たとえばお風呂場に行って「さあ、まずは何をしようか?」といちいち考えて身体を洗っている人はいないですよね。
おけでお湯をすくったりシャンプーやコンディショナーを使ったり、身体を洗うのにはたくさんのプロセスがあります。でも、普通はそれらをほとんど意識することなく、自然に身体を洗うことができていると思います。
なぜそれができるかというと、何度もそういう行動をして身体に染みついていて、ルーティン化しているからです。(68ページより)

もちろん「嫌い×苦手」なことは、やり始めるのもやり続けるのも大変だ。とはいえ、それでもやらなければならないことはいくらでもあるだろう。だとすれば、歯を磨くように、あるいは風呂で身体を洗うように「なにも考えずにやれるようにする」、すなわち習慣化することがなにより大切だということだ。

「ルーティンの空白地帯」に習慣を埋め込む

とはいえ、習慣化することがそれほど簡単なことではないのもまた事実だ。だとすれば、具体的にどうすれば「嫌い×苦手」なことを「歯を磨くように」「風呂に入るように」習慣化できるのだろうか?

そのための手段として著者は、“「場所」で習慣をつくる”ことをすすめている。

たとえば、学校や職場は勉強したり仕事したりする場所というイメージがあり、実際に自分以外の人間も勉強や仕事をしています。
こういうところでは、あなたももう無意識的に勉強も仕事もできるはずです。そこで勉強したり仕事をしたりするのは、「習慣化」されているわけです。(69ページより)

一方、家での勉強や仕事は往々にしてルーティン化されていないものである。仕事を持ち帰る方も少なくないとはいえ、基本的に家には「休む場所」というイメージが強く、そのイメージが自分のなかで固定されている場合が圧倒的に多いからだ。

家では「仕事をする」「勉強をする」ルーティンができていないわけで、そう考えると、持ち帰った仕事がはかどらないことにも納得できるのではないだろうか?

ちなみに家での勉強に苦労しているのは、著者の周辺にいる東大生も同じであるらしい。だとすれば、彼らがどうやって勉強の習慣を身につけたのかを知りたいところだ。

そのことについて著者が明かしている答えは、当たり前のようであり、やや意外でもある。多くの人が、自室ではなくリビングや廊下で勉強するという選択をしていたというのである。

理由はいたってシンプルで、つまり自室には「休む場所」というイメージがまとわりついており、すぐに「休むルーティン」ができてしまうから。長い時間をかけて培ってきたそのようなルーティンは、東大生にとっても壊しにくいものなのかもしれない。

そこで有効なのが、まだ何のルーティンもないリビングや廊下です。この「ルーティンの空白地帯」に「嫌い×苦手」な勉強をするという新しいルーティンを埋め込んで、習慣化してしまおうというわけです。(70ページより)

実際、東大生に話を聞いてみると、すぐ横で親や兄弟姉妹がなにか違うことをしているリビングで勉強していたという人はとても多いのだそうだ。そこには自分以外の誰かから見られているという緊張感もあるだけに、「集中しなくては……」という思いがことさら強くなるのだろう。

また、本来は通路でしかない廊下で勉強するとしたら、その環境自体が新鮮さを与えてくれるに違いない。そう考えてみると、リビングや廊下のような環境で勉強する習慣をつけることは意外に楽で、そして効果的なのかもしれないということがわかる。

立って勉強する

ただし、なかには「自室しか勉強できる環境がない」という方もいらっしゃるはずだ。では、そんなときにはどうしたらいいのだろうか?

この問題に関しても、著者はまた意外な提案をしている。自室でしか勉強できない場合は、「立ってやる」のがおすすめだというのだ。

決して冗談ではない。椅子に座ったり、あるいはベッドに横になりながら勉強している場合、「そのまま、いつの間にか寝落ちしていた」というようなことも十分に考えられる。というよりも、よくある話だともいえそうだ。ただし、当然のことながらそれは最悪のパターンである。だからこそ、いっそ立ったまま勉強しようと著者は訴えているのである。

しかし、いざやってみようとすればなかなか難しいものではある。なぜなら多くの人は、「立ってなにかをするルーティン」など持ち合わせていないはずだからだ。やりなれない以上は、気恥ずかしさもあるかもしれない。

だからこそ、これから新しく「『嫌い×苦手』な勉強は立ってする」というルーティンを確立してしまえるわけです。東大生には、立ちながら本を読んだり論文を書いたりしている人もいます。
このように、「嫌い×苦手」な勉強は場所や姿勢を変えて、そこでの作業をルーティン化するというのがおすすめの方法です。(71ページより)

つまり大切なのは、自分のなかにこびりついている“常識”や“前例”を取り去り、そうしてできた隙間に新たな考え方を吹き込んでみることなのだろう。それを新たなルーティンとして身につけることができれば、おのずと勉強もはかどるようになるということだ。

(印南 敦史 : 作家、書評家)