今、現場で何が起きているかを勘違いする「お決まりのパターン」(写真:Ushico/PIXTA)

「企業の成長が失速するのは、経営者が長年にわたって信じてきた、あるいは心の底から信じている前提にもはや正当性がないからだ。基本的に、彼らの知っていることはもはや真実ではない」(オルソン、バン・ビーバー、ベリー、2008)

これは、かつての有力企業が突然財政難に陥る最大の理由を指摘した言葉だ。別の言い方をすれば、経営陣の立てた戦略のもととなっていた前提を、環境における何かがくつがえしたにもかかわらず、その状況に対応できないということである。

コロンビア大学ビジネススクールで教鞭をとり、経営戦略の名著『ディスカバリー・ドリブン戦略』を執筆したリタ・マグレイスは、かつて栄華を誇っていた会社が危機に陥るプロセスをつぶさに観察している。

会社の危機を予見する「14のサイン」


かつて組織を成功に導いたさまざまな要因と、その組織を取り巻く現在の環境とのずれがしだいに大きくなったため、やがて急激な経営不振に陥ることがある──組織の崩壊にまでいたらないとしても。

冒頭の言葉を記した企業分析の専門家オルソン、バン・ビーバー、ベリーらは、そうした売り上げの落ち込みが徐々に起きるものではないことを突き止めた。

私は自著『競争優位の終焉』のなかで、いくつかの早期警報サイン──優位性が消滅しつつあることを示すサイン──を列挙した。これらのうち、あなたの会社の上層部はいくつ認識しているだろうか?

◆ 私は自社の製品やサービスを購入しない。
◆ わが社は他社と同じかそれ以上の投資をしているのに、利益も成長も不十分だ。
◆ 顧客は、より安くてシンプルな「そこそこの」ソリューションを見つけている。
◆ 予想もしなかったところからライバルが現れている。
◆ 顧客は、もはやわが社が提供するものにワクワクしなくなっている。
◆ わが社は、こちらが雇いたいと思う人材からもっとも働きたい会社と見なされていない。
◆ わが社で最高の人材が何名か退職した。
◆ わが社の株価は、いつまでたっても割安だ。
◆ 技術系社員(科学者やエンジニアなど)が、新技術によってわが社の事業が変わると予測している。
◆ われわれはヘッドハンターのターゲットになっていない。
◆ 成長軌道が、鈍化したり反転したりしている。
◆ 過去2年間に、市場に投入できたイノベーションがほとんどない。
◆ 会社が福利厚生を削減したり、リスクを従業員に転嫁したりするようになっている。
◆ 経営陣は、今後入ってくるかもしれない悪い知らせの重要性を否定している。

これらの「予兆」が見られたら要注意だ。すでにあなたの会社は取り返しのつかないタイミングにさしかかっているかもしれない。

あなたの企業では、「価値のあるプロダクトやサービスを市場に出すためにおこなう、ひとまとまりの事業活動」がつぶさに検討されているだろうか。

戦略上のアイデアの多くが、こうしたことの理解から導き出されている。ビジネスに重要な影響をもたらすかもしれないさまざまな可能性に、あなた自身の目を向けさせるのが目的だ──今はまだ視界から外れたところにあるとしても。

混乱するアメリカのアパレル業界の例

異常なまでに他者とつながろうとする「ハイパー・ソーシャル」(過度に社交的)なこの時代に、ティーンエイジャーたちはデジタル世界で互いにつながり合うことに熱心なあまり、もはやそれ以外の活動に夢中になることはないようだ。

実のところ、心理学者や観察者、それにマーケティング担当者は、このデジタル機器に没頭する姿を「依存症」の表れと見ている。

アメリカのティーンエイジャーに服を売っている企業がターゲットにしているのは、彼らの自由裁量による家計出費だ。一般的に状況を左右するのは、家計予算(ティーンエイジャーとその両親を合わせたもの)に責任をもつ人たち、つまり(一定期間にわたって)何にお金を使うかを決める人たちである。

ここでの完了すべきジョブ(商品やサービスが顧客に対して果たす役割)は、ショッピングモールに足を運んだり、ウェブサイトにアクセスしたりする気にさせるものなら何でもいい。

「仕事や遊びに着て行く洋服が必要」でもいいし、「洋服ダンスの中身を一新することが必要」でも、「特別なシーンでの装いが必要」でも構わない。これらの必要性に対処すべく組み立てられる消費チェーンは、オンラインとオフライン両方の商店──消費者に、さまざまなセッティングに合わせて洋服を供給するアパレル業者──で構成される。ステークホルダーたちにとってもっとも気がかりな特性は、顧客の全体験というよりむしろ、デザインやトレンドなど、製品そのものと関係がある。

また、この市場に参入するのに不可欠な機能は、あらゆる種類の小売業者によって数十年間にわたってすでに整えられているものばかりだ──多くの場合、(デザイン改良や店舗への商品出荷に要する期間といった)従来の制約に沿う形で。

変化は思わぬところからやってくる

これまでのところは順調。ところが、ここで巻き起こったのが2007年の携帯電話革命である。iPhoneの導入とアンドロイドの商業化とともに起きたこの革命により、家計予算の責任者が完了すべきジョブの序列が劇的に変わることとなる。このときすでに、ソーシャルメディアは確立され、誰かとつながっていたい欲求は若者の間で動かしがたいものになっていた。その欲求をさらにかき立てるテクノロジーが登場したのだ。

こうして、他者とつながり続けるというジョブが、洋服を買うというジョブに(ある程度まで)取って代わった。もちろん衣類がもう購入されなくなったわけではないが、完了すべき種々のジョブを1つの階層組織のなかで考えれば、つながりを保つというジョブの重要度は以前よりはるかに高まったと言えるだろう。

結果として、アパレルの購入にあてられるはずだった資源の行き先は変わってしまった。それはつまり、完全に異なる消費チェーンが、買い手にとって以前よりも重要になったということだ。その後、彼らの獲得したい特性も変わったため、結局のところ、従来の商品を提供するために整えられていた機能までも現状にふさわしくないものになっている。

こうして後から状況を振り返るのは何の造作もないことだ。大事な問題は、この転換点の到来をどうすれば予測できたのかということだろう。

「こだわり」が裏目に出るとき

この年齢層の顧客に関して小売業者が伝統的にこだわり続けた主要な評価基準の1つに、極めて重要だった「新学期」シーズンがある──ある観察者はこう語った。

「既存の店舗が拠って立つビジネスモデルに、今後も小売業は大きく依拠することになるだろうが、そうした従来のビジネスモデルは(「新学期」のような)特定の時季に増益が見込めることを前提にしたものだ」

また、小売業者の多くは「毎平方フィート当たりの売り上げ」や「時間ごとの同店舗売り上げ比較」といった従来の評価基準にもとづく想定を組み立てていた。そして、このような基準に固執していた小売業者が、インターネットから出現しつつあった脅威に気づくはずもなかった。

もし彼らが注意を払っていたら、何かしらのヒントを得ていたかもしれない。2007年当時、研究者たちはすでにインターネットについて、そしてもっと端的に言えば、ソーシャルメディアについて意見を発信し始めていた──それらが10代の若者の時間の過ごし方を劇的に変えている、と。

その年齢層がこれまで友情を長続きさせるためにとっていた行動(家の電話で話をしたり、どこかで一緒にぶらぶらしたりするなど)がソーシャルウェブサイトやインターネット中心に変わり始めていることを研究者たちは突き止めていたのだ。

当時の『ワシントン・ポスト』紙の記事によると、10代の青年たちが従来型の実店舗でまだショッピングしていたときでさえ、携帯電話が──友だちと連絡をとったり、買った商品への承認を得るために──頻繁に使われていたという。その記事に登場する10代の少女は、洋服のおかげで自分の存在を周囲の人たちに認めてもらえると語っている。

「私がどういう人間なのかを、ほんの少しでいいからまわりの人たちにわかってもらいたいの。そして、そのことに誇りも感じている」

不気味なまでに、そのころの彼女にとって服装の果たすべきジョブは、今や簡単にテクノロジーに取って代わられているのだ。10代の若者と彼らのファッションや購入体験との関係性の劇的な変化を示していた微かなシグナルは、2014年には、すでに弱いものではなくなっていた。

実のところ『ウォール・ストリート・ジャーナル』紙が分析結果を発表したときには、すでに大きな転換が訪れていたのは明白だった。さらに、『ニューヨーク・タイムズ』紙に2014年に掲載された記事『プレッピー(名門私立校風の服装)より、もっと今とつながるほうが大切』には、若年層向けのどの小売業者をも恐怖に陥れかねない(若者たちの)態度が報じられている。

洋服よりテクノロジーに魅力を感じる

「洋服は、私にとってそんなに重要なことじゃない」とオリビア・ダミーコ(ニューヨーク出身、16歳)は言った。彼女が姉妹と友人と一緒にホリスターで買い物をしていたときのことだ。「ほとんどブランド品は買わない。たまたま今日はドクターマーチンのフェイクブーツを買ったけど、本当にそういうものにこだわっていないから」。

おそらく彼女はテクノロジーにもっとお金を使うのだろう。なぜなら、誰かと「つながっている」のが好きだとも言っていたからだ。ある(フラストレーション気味の)小売りアナリストは、最新のファッションの動向について10代の若者を相手に何とか会話をしようとした体験を、このように説明した。

「こっちは、次にどんなのが流行するかを話してくれるように仕向けるんだけどね。どんな服を買うと気分が盛り上がるのか、とか。でもいつだって会話は新しいiPhoneがどうのこうのってことに戻ってしまうんだ。クロップトップのことを話題にしたらわりと乗ってきたり、ハイウエストのことにもちょっと反応が返ってきたよ。だけどやっぱり会話は元に戻っちゃうんだ」

(リタ・マグレイス : 経営学者、コロンビア大学ビジネススクール教授)