ホンダが北米で24年に投入する高級ブランドアキュラの新型「ZDX」はGMとの共同開発モデルだ(写真:ホンダ)

仕込んでいた種がようやく芽を出し始めた。

ホンダが8月9日に発表した2024年3月期第1四半期(4〜6月)決算は、売上収益が前年同期比20.8%増の4兆6249億円、営業利益が同77.5%増の3944億円だった。2輪、4輪の両事業で販売台数が拡大。北米やアジアなど主力市場での好調が目立った。

好業績に大きく貢献したのが4輪事業だ。ホンダの4輪事業は400万台規模だった2012年に600万台を目指す拡大戦略を打ち出し、世界で積極的に生産能力を拡大した。だが、思うように販売台数を伸ばせずに採算が悪化した。ここ数年はコロナ禍や半導体不足にも見舞われて、4輪事業の営業利益率は0〜2%台と低迷が続いていた。周囲からは「2輪がホンダを支えている」(ホンダ系部品メーカー首脳)などの声が絶えなかった。

4輪事業の営業利益率が5.8%へと改善

「限界利益単価を向上させてきたところに台数の増加が重なり、ようやく増量効果が最大限に引き出せることをお見せできた」。藤村英司CFO(最高財務責任者)はそう自信を示した。

第1四半期の自動車(4輪)販売台数は、前年同期比10.6%増の90万1000台、営業利益は同約4倍の1769億円に拡大。懸案だった営業利益率も5.8%と、前年同期の1.6%から大幅に改善した。

ホンダは八郷隆弘前社長の時代から4輪事業の構造改革を進めてきた。余剰な生産能力を削るため英国、トルコ、狭山(埼玉県)といった国内外の新車生産工場を閉鎖。世界で増やしてきた新車の派生モデルを2025年までに18年比で3分の1まで削減する計画を推進している。

創業者である本田宗一郎氏の時代に発足し“聖域”とされた本田技術研究所についても、4輪開発機能を本社組織である4輪事業本部に集約。商品企画や開発、生産の各機能をまとめて、一体的に運用する体制を整えた。

新たな設計手法「ホンダアーキテクチャー」の効果もようやく目に見えてきた。車種を超えて主要な部品の共通化を図り、コストダウンや設計・開発の効率化につなげる設計手法で、ここ数年投入してきた新型車に採用が進んでいた。

主力市場の北米で「アコード」や「シビック」「CRV」「パイロット」といった主力車種の改良モデルを投入したことで販売台数が伸長。商品価格の引き上げを実施したことも奏功して事業採算が飛躍的に改善した。

川口正雄経理財務統括部長は「アーキテクチャーの効果も含めて収益力がしっかりしたモデルが出そろったところに、北米で12万5000台の増加があった」と説明する。

今期の好業績の陰で忍び寄るリスク

今期に限っていえば営業利益1兆円(28%増)の通期計画は過達となる可能性が高いものの、この先は原材料費や労務費の高騰、インフレによるサプライヤーの部品価格の引き上げなど複数のコストアップ要因がある。北米では納期の正常化に伴い在庫の逼迫感が解消に向かっており、今後は新車ディーラーの値引きの原資となる販売奨励金(インセンティブ)の増加も見込まれる。

2024年にはホンダの高級ブランド・アキュラから「ZDX」など新型EVも投入される予定で、電池の調達コストが重く収益性の厳しいとされるEVがラインナップに並ぶ中でどこまで収益性を維持できるかが焦点となる。

最も大きなリスクといえるのが、他の国内自動車メーカーでも問題となっている中国市場での低迷だ。

ホンダの第1四半期の同市場での販売台数は30万9000台の前年同期比5%減で、2桁減に見舞われている日産自動車やマツダに比べて健闘した。だが、7月は同32.8%減の8万9691台と急減している。


三部敏宏社長は中国勢について「想定する以上に先を行っている」と危機感を示す(写真:ホンダ)

中国市場は消費の冷え込みに加えて、BYDやテスラといった新興EVメーカーや現地民族系メーカーが新型EVを次々と投入。競争が激化し、ガソリン車が主体だったホンダを含む日本勢はシェアを奪われつつある。

中国では外資系(非中国系)の完成車メーカーは中国資本との合弁で事業を営むのが原則であるため、ホンダも中国での業務は持ち分法適用となる。今期は他地域が好調なため業績全体への影響は限定的ではある。が、ホンダの自動車販売における中国のシェアは約3割と日系メーカーで比較的高く、今後のリスクであることには違いない。

中国での販売低迷の影響を受ける系列部品メーカーの幹部らからは「値下げしないと売れない状況。その分、われわれの利益も減ってしまっている」「夏以降、ホンダが提示した中国の生産計画は急激に下振れしている。業績的にも厳しいものになる」とため息が聞こえてくる。

ホンダは中国での今期の販売台数目標である140万台(前期比12.9%増)を据え置いた。ただ、藤村CFOは中国市場の不振を認識しているとし、「他地域への部品アロケーションを行い、台数も(中国を除いた)グローバルでなんとかカバーしていくことが今後の9カ月のオペレーションのポイントとなる」と説明。「もし現在の140万台が厳しいとなると、(生産)能力、固定費がどうあるべきか考えていかなければいけない」と生産能力の縮小も含めた対応策が必要になるとの考えを示した。

中国での生産能力拡大が重石になる懸念

ホンダは2027年までに中国でのEV専用ブランド「e:N」シリーズを10車種投入する計画だ。2024年にはEV専用工場(年産12万台)を現地合弁会社である広汽ホンダ、東風ホンダのそれぞれで建設する方針で、実現すれば中国での生産能力は年産173万台まで拡大する。競争力のあるEVを投入できず販売台数を伸ばせなければ、こうした大型投資が重くのしかかることになる。


ホンダは8月18日、2020年代後半以降に投入するとみられる次世代EVについてもイメージ画像を公開(写真:ホンダ)

幅広い地域で販売台数を積み上げるトヨタ自動車と異なり、ホンダはこれまで北米と中国という2本柱を基本戦略としてきた。それだけに中国市場の浮沈は4輪事業の将来を大きく左右する。

中国ではエンターテインメントなどソフトウェア分野を充実させたEVが人気を博している。ホンダも自動運転やソフトウェアといった先進領域で幅広く提携関係を結んでいるが、まだその成果は見えてきていない。単にEVを売るだけでなく、今後は具体的な商品価値を示していくことが求められる。


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(横山 隼也 : 東洋経済 記者)