【赤木智弘の眼光紙背】コールを打つのは楽しいけれど - 赤木智弘
※この記事は2012年07月07日にBLOGOSで公開されたものです
赤木智弘の眼光紙背：第228回2005年にアーケードゲームとして稼働を開始。以来、家庭用ゲーム機やマンガやアニメなど、さまざまな媒体で展開している「THE IDOLM@STER」シリーズの７周年を祝うライブイベント「THE IDOLM@STER 7th ANNIVERSARY 765PRO ALLSTARS みんなといっしょに！」が、６月23日、24日の両日、横浜アリーナで開催された。(*1)
僕自身はアイマスライブに参加するのは２回目。両日とも行きたかったのだが、残念ながら23日の分はチケットが取れず、さらに後から予定が入ってしまったので、全国の映画館で行われたライブビューイングにも参加できなかった。その分、24日はサイリウムを準備するのはもちろんだが、体調が悪くなれば楽しめないし、会場にも迷惑をかけることになることから、飲み物やタオルや止瀉薬など、いざ会場で困らないための下準備をしっかりとしてから参加した。
現地ではスタッフの誘導に従い、自分勝手な行動は避ける。その分ライブ本番では、みんなといっしょにサイリウムを振り、コールをして全力で楽しむ。もちろん周囲の人に体が当たったりしないように、ハメを外すことはしない。ライブが終了すれば少しだけ「アイマス最高」コールをしてから、速やかに会場を後にする。そして帰りにも駅などが混み合うので、また駅員の誘導に従う。
こうして、自分たちが楽しむことが他人の迷惑にならないように、節度を持った行動を心がける。それは僕だけではなく、あの日に横浜アリーナに集まった多くの人たちが、このライブを楽しい思い出にするために心がけていた、それが最低限の行動規範だった。
もちろん、僕が気づかないところで、迷惑な行為をしていた人もいたのだろうけど、少なくとも僕自身はライブを十分に楽しむことができたし、そのことをアイドルマスターの１ファンとして誇りに思う。
ところで最近は、大飯原発再稼働に対する反対デモが盛り上がりを見せているようだ。
７月１日に行われた福井県大飯郡おおい町でのデモの一部をUSTで拝見したが、みんなメッセージを掲げ、シュプレヒコールを上げて、思い思いに楽しんでいたように見える。
しかし、そこにいたのは節度を持って自分たちの主張を訴える人たちではなく、ただただひたすら悪ノリをする人たちだったように、僕には感じられた。
再稼働反対とひたすら唱えるのはいいとしても、ミュージシャン気取りが楽器をかき鳴らしたり、なぜか男性器をかたどった神輿に女性が乗るという悪ノリパフォーマンスまで登場。川崎市の「かなまら祭」など、男性器をかたどった神輿を担ぐ祭りはあるが、そこには歴史的な裏打ちが存在している。少なくとも反原発デモでそれをやるのは、悪ノリ以外の何物でもない。
また、当日は天候が悪く、雨が降っていたのだが、デモに賛同的な人たちが雨具や飲み物などの支援をTwitter上で呼びかけたりしていた。屋外で長時間のデモを行うのであれば、雨具などの下準備は当然であり、これだけとってもデモ参加者が単なるノリでデモを行なっていることがわかる。中には「USTのための電気」を要求している人もおり、彼らが散々「電気がなくても生活できる」とがなりたてていたのは何だったのかと、非常にバカバカしく感じた。
また、そのような天気であるにも関わらず、親が子供を抱えてデモに参加しているのも異様な光景だった。彼らは「子供を守れ」と反原発を訴えるが、今、目の前にいる子供の健康はどうでもいいのだろうか？ 天候の悪い中、大人でさえキツい環境のデモに子供を平気で連れてきて、警察の前でバリケードに参加させる親の気持ちは、僕には全くわからない。
しかし、彼らの意図はよく分かる。子供を抱えていれば警察側もうかつに手を出せないということを利用して、子供を盾にしたいのだ。もし仮に、警察が子連れがいる場所に突っ込み、それによって子供が怪我をしたとすれば、嬉々として「子供が警察の暴力の犠牲になった！」と世界中にアピールをするのだろう。そうした政治活動の道具として、デモの現場では子供が利用されていた。 ちなみに子供の政治利用を、まとめ系アフィブログが批判的に扱っているが、彼らが賛美するネトウヨによるフジテレビデモにも、灼熱の中をベビーカーを押してデモに参加する親がいたという事実は都合よく忘れ去られているようだ。
そして、訳の分からぬ連中に町をオキュパイ（占拠）されたあおい町住民の心情はいかほどばかりか。デモをする人たちは非暴力だと主張するが、全国から訳の分からぬ輩が小さな町に集まり、公園をテントで選挙し、公衆トイレのコンセントから携帯電話やパソコンの充電をし、夜通しの抗議活動を繰り広げて鳴り物をかき鳴らすことは、その町に住む人達からすれば、極めて暴力的な行為と映るのではないか。
福井新聞は反原発の非日常性と、彼らが夜通し抗議活動をして地域住民に迷惑をかけている実態を報じている。(*2)
こうした報道は反原発を支持する人たちには「御用新聞によるレッテル」だとして無視されてしまいがちだ。 しかしその事自体、今の反原発運動がイデオロギーに染まり、いかに現実の社会や、そこで生きている人たちに目が向いていないのかの証明である。
そして何より、そうした行為を注意したり批判できない、反原発の中心にいる有名人連中の情けなさ。それこそアイマスライブの帰り道に、道端でコールをしている連中がいれば、誰かしらが注意をするだろうし、ネットに晒されれば「こういう連中のせいで我々が誤解される」という批判が出るのが当たり前である。しかし、反原発はこれだけ、明らかにおかしな行動をしながら、それを注意しないどころか、素晴らしいデモであるかのように賛美する。要するに自浄能力がないのだ。
今回あえて、アイドルマスターのライブと、再稼働反対デモを比較した。どうしてそんな無茶な比較をしたかといえば、もはや反原発デモは参加者が一方的に楽しむためのデモであるとしか思えないからだ。そしてその点においては、お金を払って楽しむライブと、今の反原発系のデモには全く変わりがない。
僕は楽しく政治的主張をすることは否定しない。みんなといっしょにシュプレヒコールを上げることは楽しいに違いない。しかし、そこには最低限の規範がなければならないはずだ。
別にアイマスのライブだけではなく、様々なライブやスボーツイベントなどにおいても、私たちは自分たちが楽しむためにこそ、十分に自制をし、いかに自分が楽しめ、また周囲の楽しみを邪魔にしないかを考える。それは同じ場所で応援をする仲間たちに対してもそうだし、その施設の周辺の人たちに対してもいかに迷惑をかけないかを考える。
しかし、反原発という正義の衣を纏った人たちは、全く自制をしていない。正義だから何をしても許されると思っている。ヒロイズムに酔い、周囲の人達の迷惑を全くかえりみていない。それは自分の子供に対してすら同じで、親の権力を何のためらいもなく子供に振りかざしている。
皆が楽しんでいるライブであれば、他の人も参加したいと思うだろう。アイドルマスターのライブも、赤羽会館という小さな会場(*3)から、７年の月日をかけて横浜アリーナという大箱の2Daysにまで到達したのである。
しかし、今の反原発系デモに、そのような長い期間を経ることができるだけの持続力が存在するだろうか？ これだけ不快感をまき散らしながら、この運動に参加したいと思う人が増えるのだろうか？ 僕には増えるとはとても思えないのだ。
原発問題は、けっして今日明日で解決できる問題ではない。
日本で最初の原子力発電が行われたのが1963年の10月26日。ほぼ50年、日本では原子力発電が扱われてきた。ならばそれをなくすには、50年以上のスパンで考えなければならないのは必然だろう。今の反原発デモの形や、それを批判できない反原発有名人たちの態度は、果たして50年という期間に耐えられるものだろうか？ 50年間、オキュパイだの紫陽花革命だのと言った言葉で、この愚行を誤魔化し続けられるものなのか？
そんなことできるはずがない。誰かがその現実を彼らに知らしめなければ、日本の反原発は、これからもイデオロギーの時代への先祖返りを続け、いつしか嘲笑すらされなくなり、忘れ去られてしまうだろう。
*1：アイマス7周年記念ライブ「THE IDOLM@STER 7th ANNIVERSARY 765PRO ALLSTARS みんなといっしょに！」開催。新作タイトルや，今後の展開なども発表されたライブの模様をレポート（4Gamer.net）http://www.4gamer.net/games/137/G013714/20120625018/
*2：原発起動、地元住民は冷静受け止め 安全徹底し迅速情報を（福井新聞）http://www.fukuishimbun.co.jp/localnews/society/35534.html
*3：ナムコのAC「アイドルマスター」、コロムビア・アニメイト主催「シークレットイベント」開催（GAME Watch）http://game.watch.impress.co.jp/docs/20060130/imas.htm
プロフィール
赤木智弘（あかぎ・ともひろ）
1975年生まれ。自身のウェブサイト「深夜のシマネコ」や週刊誌等で、フリーター・ニート政策を始めとする社会問題に関して積極的な発言を行っている。著書に「若者を見殺しにする国 (朝日文庫)」など。
・@T_akagi - Twitter
