平和の果実は我々民間の手で届ける ～急速な経済発展を遂げるミャンマーで日本が今なすべきこと～ 日本財団 会長 笹川陽平氏～ - BLOGOS編集部
※この記事は2012年06月26日にBLOGOSで公開されたものです
社会福祉・教育・文化などの活動、海洋にかかわる活動、海外における人道活動や人材育成の3つの分野を柱に事業を推進する「公益財団法人日本財団」。その会長を務める笹川陽平氏が６月11日、政府から「ミャンマー少数民族福祉向上大使」の委嘱を受けた。長かった軍事政権からの政治改革とともに、急速に民主化が進むミャンマーで今何が起こっているのか。ミャンマーが抱える問題と、その流れの中でこれから日本が果たすべき役割を、笹川陽平氏に尋ねた。（BLOGOS編集部：濱田敦子／田野幸伸）
―― 最初に、公益財団法人日本財団の活動についてお尋ねします。日本最大の非営利公益団体として日本の被災地支援をはじめ世界中で支援活動されていらっしゃいますが、主にどのような活動をされていますか？
笹川陽平氏（以下、笹川）：日本財団として力を入れて支援しているものに、ハンセン病の制圧活動があります。父・笹川良一が活動をスタートして、私のライフワークにもなりました。ハンセン病というのは、旧約聖書や、紀元前６世紀のインドの古書にも記述があるくらい古くからある病気です。皮膚と神経を侵す慢性の感染症で、治療せずに放置すると身体の変形を引き起こすため、昔から隔離され、ひどい差別を受けてきた歴史があります。私は差別というものは、この病気から始まったと思っています。
現在はMDT(多剤併用療法)の開発により治療可能な疾病となり、世界保健機関（WHO）を通じて世界中に治療薬を無償配布したことで、新規のハンセン病患者は激減しました。しかし、ハンセン病の患者さんは、治癒して療養所を出ても社会に復帰することがとても難しい。早期に発見して、適切な治療を受ければ、なんの痕跡も残らないんですよ。しかし、長い間、病気について誤解があったり、偏見があったり、まだまだ差別は根の深い問題なんです。ハンセン病の問題を本当の意味で解決していくためには、医療と社会的な側面、両方に目を向けて対応していく必要があります。ハンセン病はオートバイに例えると前輪は医学的に病気を治すこと、後輪は社会的差別の闘いです。前輪についてはWHOのハンセン病制圧特別大使として、後輪については外務省のハンセン病人権啓発大使として活動しています。
――会長のブログを拝見すると、ハンセン病の問題はもちろんですが、支援のために世界中を駆け回っていらっしゃいますね。
笹川：今まで訪れた国は、120カ国ぐらいでしょうか。この30年のうち海外に出ていた日数を数えたら、去年までで2350日以上あって、それを計算してみると７年間という時間になりました。さらにその半分は飛行場か飛行機の中で過ごしていたことになりますね（笑）。ハンセン病を世界からなくすという課題があるので、そのためには常に途上国の僻地に行かなければなりませんから。
私は一民間人ですが、そうした活動の中で今までたくさんの世界の要人と会ってきました。その中には国王もいれば、大統領もいます。この10年間で大統領29人、首相は15人と会談しました。日本の外務大臣でも会えないようなネットワークを、日本財団はもっているのです。
――会長は６月11日に、玄葉光一郎外務大臣から「ミャンマー少数民族福祉向上大使」に任命されましたが、政府からどのような要請があったのでしょうか？
笹川：日本財団は以前から、ミャンマーをはじめアジア各国の僻地における学校建設など、さまざまな支援活動を行ってきました。そうした実績を高く評価していただき、日本政府だけでは対応しきれない問題を手伝ってほしいと国から要請がありました。民間の方が自由に動けることもたくさんあるので、私はそういう立場をうまく使って、日本政府と連携を取りながら支援を広げていきたいと思っています。
ご承知のようにミャンマーは1962年から長い間、極めて独裁的な軍事政権下にありました。それが今、法律を変えて民主的な選挙を行い、軍事政権から民主的な政治形態に変えていこうと決断したんです。この転換でミャンマーは、ものすごいスピードで民主化が進んでいる。世界の注目がミャンマーに集まっているといっても過言ではありません。そういう波の中で、日本政府は少数民族支援を重要な課題と考えています。
経済発展が進む都市部と、その波から取り残される山岳部
――なぜ今、少数民族対策が重要なのでしょうか？
笹川：ミャンマー国民は、約７割がビルマ族で、残りの３割は100を超えるたくさんの少数民族で構成されていて、彼らはそれぞれが独自の言語や文化をもって暮らしています。有名な民族にカレン族や、カチン族、シャン族などがいますが、これまで何度も何度も分離独立を求めて政府と対立、衝突を重ねているんです。政府もなんとかこの問題を解決しようと、少数民族と停戦などの合意を結んだりして努力はしてきましたが、合意した少数民族も不満が解消されたわけではなく、これからの発展を考えた際に、この対立は頭の痛い問題です。
そんな状況がある中で、少数民族というのは山岳地帯の恵まれない地域に住んでいるのですが、国が民主化して外国から投資がきたり、道路が整備されたり、電気が通ったとしても、なかなかすぐに彼らが住むところまで恩恵が行きわたりません。都市部に住む人の生活が向上するスピードは増すのに、少数民族の生活が変わらないままだと、貧富の差はどんどんと開く一方ですよね。そういう状態を放置して彼らが経済発展から取り残され、「私たち少数民族が住んでいるところには、何も良いことが起こらない」ということになってしまうと、ますます国がまとまらなくなってしまう。多民族国家というのは、民族がまとまってはじめてきちんと国が機能します。政治のチカラは恵まれない地域の人にこそ、届かなければ意味がないんです。
――少数民族の人々にも、早く民主化を実感してもらうことが重要ということですね。
笹川：そうです。中央政府は色々な問題の対応に追われて、少数民族の生活向上まではなかなか手が回らないでしょう。ですから私たち民間のチカラで、私は「平和の配当」「民主化の果実」と呼んでいるのですが、これをできるだけ早く少数民族の皆さんにも届けて差しあげなければなりません。少数民族の皆さんにも、早く「私たちの住んでいる辺境の地まで、何か良いことが始まった」と思っていただく必要があるんです。
日本財団はこれまでも、カンボジア、スリランカ、ベトナムなどで、少数民族地域の支援を行ってきました。そうした経験をいかしつつ、さらに精力的にミャンマーでも支援をやっていこうというわけです。これは、去年ミャンマーを訪れた際に、テイン・セイン大統領や、アウンサン・スーチー女史からも直接お願いされました。
――少数民族の方は、現在どのような暮らしをしていますか？
笹川：ほとんどのところは電気も水道も通っていません。一番の問題は、現金収入がないことです。食料についても自分が作ったものを自分で食べる程度。学校がないので、子どもを学校に行かせることもできません。途上国の田舎はどこも似たような状況ですね。こんな状況で放っておいたら、都市部と辺境の格差の開きはどうなると思いますか？日本にいては想像がつかないでしょう。
だから、先ほども話したように、目に見える支援をしっかりして、「国が変わった」「私たちの生活も良くなる」と、実感してもらわないといけないんです。そのために、教育と医療と、それから生活の糧である農業の３本柱で、しっかり支援を拡大していきます。
本当に必要なのは、ソフトパワーを育てる支援
――具体的にどんな支援をしていくのでしょうか？順番に説明をお願いします。
笹川：まず教育についてお話しましょうか。今まで支援してきたどこの国でもそうなのですが、反政府勢力の人であっても、ゲリラの人であっても、「自分の子どもに教育を与えたい」という気持ちは同じでした。カンボジアでもスリランカでもペルーでも、学校がゲリラに破壊された例はありません。だから、まずは学校を建てて、彼らの子どもたちにちゃんとした教育を受けさせて、子どもたちの将来の可能性を広げられる環境を整えてやることが必要です。すでに、シャン州というところに200の校舎を建てましたが、今後さらに５年間で累計400校の校舎建設を決定しています。
それから、交通事故や長い間の紛争などの影響で、手足を失った人がたくさんいるので、そうした人へ義肢義足を配付することも続けながら、装具技師を育てる学校を作ります。ベトナムなどで傷ついた５万人に義足を提供したり、スリランカやフィリピンなどに装具技師の学校を建設してきた実績がありますが、障害を乗り越えて社会・経済活動に参加する道を開くことは、彼らの自立を促す大きな力となるんです。だから、ミャンマーにも学校を建てて、その学校には特に少数民族の生徒さんに通ってもらいたい。技術を身につけて故郷に帰って、どんどん活躍していただきたいたいですね。
――医療についてはいかがでしょうか？
笹川：人間は生まれた以上、健康で長生きしなければなりませんが、世界の人口が70億もいる中で、１度も薬を飲むこともなく、１度もお医者さんにかかることもないままに死んでいく人が20億人もいます。日本では考えられませんよね。私たちはミャンマーのそういう人たちが住む医療過疎化が問題視されている7000の村に、薬箱を配布する活動を行っています。ミャンマーで採れた薬草などを使った伝統医薬品を配るんですが、2014年末までに全国の医療過疎地域28000の村をカバーする計画です。
どの国にも何の葉っぱが何に効くという昔からの知恵があるでしょう？例えば、日本でも、私が子どものときは傷ができたらドクダミを庭から採ってきて貼りつけたりしたものです。病気といっても下痢、熱、お腹を痛めるといった症状がほとんどで、これらは伝統医薬品で充分によくなります。特に子どもが訴える症状には、伝統医薬品でほとんどが対応できるんです。
笹川：ほかに、ミャンマーのお医者さんがミャンマー医師会というのを作っていますので、バスに近代的な医療機械をつんで、少数民族の住む地域を巡回医療することも考えています。日本には日本財団のニコニコマークのついた福祉車両が28000台も毎日、活動しています。その中の使われなくなった車両をミャンマーに持って行って、救急車として活躍させようという計画も、ミャンマー医師会と検討しているところです。今は、ミャンマーに救急車はありませんから。
――なぜ、西洋でなく伝統医薬品なのですか？
笹川：近代的な西洋の薬というのは、伝統薬品に比べると値段が10～20倍ぐらい高く、なかなか手が出ません。それに、ミャンマーがそうだとは言いませんが、アフリカなんかでは西洋の薬をわたすと、翌日には闇市に出回ってしまうという問題があります。
――売られて現金化されてしまうと。
笹川：そうです。それにこれは３つ目の農業の話になりますが、それぞれの国の製薬業が発達するのは非常に良いことですよ。原材料となる薬草の作り方を少数民族に教え、収穫物の全量を私たちが買い取る。そうやって、薬草を売って現金を手にすることができるようになれば、彼らの生活水準は間違いなく上がっていくでしょう。奥地に行くと現金を得るためにケシなどの麻薬の原料を作っているところもありますが、そういうところでこそ、薬草の作り方を教えたいものですね。麻薬ほどいいお金にならなくても、現金がしっかり入ってくる仕組みがあれば、貧しい生活から抜け出せる可能性が出てきます。
――昨年の会長との面談の際、スーチーさんは「日本政府に期待することは？」という質問に「将来彼らの自立のためになるODAにしてほしい。他に依存し続けることはしたくない国民なのです」と答えていらっしゃいました。
笹川：援助というとすぐに道路を作ったり、発電所を作ったり、港を整備したりとなります。それはそれでとても大切ですが、彼ら自身が自分たちのチカラで生きていくための方法を教え、育てていくことが大切なんです。私たちの言葉でいえば、ソフトのパワーを教えるということですね。
教えるということは、実は日本人が最も得意として、最も優れている部分なんですよ。西洋人は、どうしても「こうしなさい」「これが正しいことです」と、命令的に監督する、指導するというやり方になりがちなんです。ところが、日本人は一緒に畑に行って、一緒に畑を耕して汗をかくことができる。仕事が終われば、一緒にお酒を飲んだりね。彼らと同じ視線に立って、仕事を教えることができるというのは、私は日本の海外援助の最大の強みだと思っています。山岳地帯の人たちはお米を食べますが、みんな陸稲（りくとう）で、水田はありません。日本は陸稲のいい技術を昔からもっています。ミャンマーは２～３毛作ができますし、お米は有力な輸出商品ですから、お米の生産性もあげていきたいですね。
――日本がODAを再開するという点で、期待されていることはありますか？
笹川：ミャンマーにはイギリスに統治されていた時代があって、そこから独立しようという戦いのとき、いわゆる「南機関」という日本の30人の兵隊が指導して、そのおかげで独立を達成できたという歴史があります。だから、ミャンマーの指導者の皆さんは、「日本人は自分たちのお兄さんであり、お姉さんである」と思っているし、「自分たちの国は、日本人が作ってくれた」と思っているんです。仏教国で信心深い民族ですから、子どもたちもすぐ手を合わせてくる。世界で一番親日家といってもいいくらいです。日本の歌もたくさん残っています。
ところが、日本とアメリカは同盟関係にあるので、アメリカがミャンマーの軍事政権に経済制裁をかけるということであれば、日本も事実上、経済制裁に等しいことをせざるをえなかった。日本は今まで支援がしたくてもできない状態にあって、ミャンマー政府を散々落胆させてきたんです。そんな状態でしたが、ミャンマーの急ピッチな民主化によってアメリカも腰を上げることになり、日本も援助を再開できることになった。今は中国、韓国に大きく後れをとってしまっていますが、私は今度こそ日本政府に大胆に支援を実行してもらいたいと願っていますし、日本が再開するということで期待も大きいと思います。
日本が戦争に負けて最初にお米をくれたのは、どこの国だと思いますか？それは、ミャンマーなんですよ。私は今もミャンマーに対する感謝の気持ちを決して忘れません。日本も忘れてはいけないんです。
急速に経済発展が進むミャンマーに世界中が注目
――中国や韓国は、どのような支援を行っていますか？
笹川：まず、中国はミャンマーと国境が接していますので、ミャンマーの北部では中国のお金が日常で通用するくらい中国元が浸透しています。マラッカ海峡を通るルートではなく、ミャンマーからパイプラインを引っ張って、雲南省まで最短距離で石油を運ぶ設備も作っています。軍事政権が作り、膨大な建設費の出所が不明な新都市のネピドーは、おそらく中国が出して建設されたのではないかといわれています。韓国はラカイン州の沖合で天然ガスを発見して、２年後に商業生産をしようと着々と準備を進めていますね。政治の方向転換により、とにかくものすごいスピードでミャンマーが成長していますから、世界中が魅力的な投資先としても狙っています。
――日本はどのぐらい遅れをとっているのでしょうか？
笹川：おおよそ２周ぐらい遅れている状況です。スーチーさんにお会いしたときも「日本は協力してくれるのが遅いですね」と言われてしまいました。ですから、私は「日本はマラソンに強いですから、走るうちに一番になりますよ」とお答えしたんです。そしたら、スーチーさんに「マラソンに強いのはエチオピアですよね？」と返されてしまいました（笑）。
でも、日本は港の開発から始まって、大工業地帯を独占的に開発することが決まっています。もともとミャンマーは努力家の国です。今はとにかく全てが足りていませんが、日本以外からも次々と援助されている現状を考えると、めまぐるしく発展していくと思います。日本の企業も今までは安くていいものを作ろうと中国で必死になってやってきましたが、中国の物価が上がり始めている状況もある。物づくりも中国からミャンマーに急速にシフトしていくでしょう。日本の企業が争ってミャンマーに行く時代がもうやって来ています。
――昨年の震災の影響などもあり、ODAというと必ず「日本が外国にお金を出している場合ではないのではないか」という意見も聞かれるのですが。
笹川：日本国内で生活しているとそういう考えに陥りがちですが、世界があって日本がある。日本があって、私たち国民がいるんですよ。日本は自分たちだけで生きていけると思ったら、大きな間違いです。日本人がいるから世界があるわけでもありません。昔、結婚式などで「世界は２人のために」なんて謳われていましたが、あれは大間違いですよね（笑）。だって、日本の状況を考えてみてください。食料の自給率は38％しかないんですよ。極端な話をすると、日本だけでやっていこうとした場合、38％しか生き残れないということです。食料を世界から買わないと生きていけません。世界から物が入ってこなかったら、コンビニの売り物が半分になってしまいますよ。大豆が入ってこなかったら醤油も、お味噌も、豆腐も作れません。大豆は97％外国から輸入しているんです。外国とのお付き合いには、命がかかっているんです。
島国で何も資源がありませんから、物を作って売らなくちゃなりませんが、どこに売るかって、それは外国ですよね。グローバリゼーションが叫ばれて世界の垣根がなり、外国為替がいくらとか、アメリカで大統領が何か発言したってだけで株価が上がったり、下がったり。海外の出来事も私たちの生活にすぐ影響してしまうわけですから、日本だけがよくなればいいという考えは通用しませんね。助けたり、助けられたり。東日本大震災ひとつとっても、どれだけ海外から支援され、支援金を頂いたか。被災地の人々も大いに勇気づけられました。
日本のお年寄りの一部には、昔戦争で迷惑をかけたのに、また経済侵略だとかなんだとかって言われたくないという人もいます。でも、それも間違いです。アジアの国々は、日本をお兄さんだと思っています。専門的な知識もあるし、彼らとしては協力してほしいと思っています。向こうの人は発展したいから、日本に協力してほしいんです。
“アジアの時代”に期待される日本のリーダーシップ
――アジアの国々はとおっしゃいましたが、日本にリーダーシップが求められているということですか？
笹川：世界を見渡せば、これから20年はアジアの時代です。経済的にもアジアの成長が大いに期待される時代の中で、日本が果たすべき役割はとても大きいと思っています。本当ならそこで政治がしっかりしてくれればよいのですが、政治力も外交力も弱いから困っているんですよ。世界的な笑い話で、「日本の総理大臣の名前は覚えなくていい」というジョークがあります。次に変わった人を覚えましょうと言われてしまうのは、とても残念なことです。政治が弱いとリーダーシップをとりにくいですね。
だからこそ、私たちのような民間人ががんばっていかなければならない。モノ作りや市民社会の作り方を教えたり、お金を出すだけじゃなくて、しっかりと協力をしてアジア全体が発展するように協力する必要がありますね。自衛隊のOBが地雷の撤去に行ったり、自動車の修理工場で技術を教えたりして活躍していますが、日本には元気なお年寄りがまだまだたくさんがいますので、現地に行ってどんどん手伝ってほしいと思います。鉄道なんかは日本の得意分野ですよね。ミャンマーは60年も前の古い鉄道を使っているので、その改修なども課題です。日本は優れた技術をたくさん有していますから、やれることも、やることも山積みです。
それと、まずは是非、読者の皆さんに、ミャンマーへ観光旅行に行くことをお勧めします。ミャンマーは仏教国で、親日家の本当に素敵な国です。どんどん旅していただいて、世界にもっと関心をもってください。
――最後に120カ国以上訪れている会長が、一番思い出深い場所はどこですか？
笹川：う～ん、たくさんのところで死にかけていますから、思い出深いところはたくさんあります（笑）。その中でも楽しいところで思い出深いというとタンザニアですね。ンゴロンゴロという自然公園があるんですが、私は是非そこでG8（主要国首脳会議）をやってほしいと思っています。ンゴロンゴロのてっぺんは、富士山の頂上のような地形が果てしなく広がっています。そこには、シマウマやライオンが、垣根なく暮らしている。ライオンはシマウマを食べる生き物ですが、必要な１頭しかとりません。シマウマはライオンがお腹いっぱいなのをわかっていれば、ライオンのそばを平気で歩きます。ライオンが、絶対に余計な狩りをしないことを知っているんです。それに比べて、人間は何故、罪もない人を何万人も何十万人も殺すんでしょう？動物の方がよっぽど、人間より優れている。動物の中で一番高等な頭脳を持っている、生物的にはトップに存在している人間が、常に人殺しをやっている。動物は垣根もないし、いつ食べられても不思議じゃないところでちゃんと共存している。あの景色を見て、人間がいかに動物に劣るかというのを見てほしいと思っています。
――ありがとうございました。
公益財団法人 日本財団 会長
笹川陽平（ささかわ ようへい）
1939年1月8日、東京生まれ。ハンセン病の世界的な制圧に力を注ぎ、公衆衛生上だけでなく、人権問題にも目を向け、差別撤廃に活動を行う。WHOハンセン病制圧特別大使、ミャンマー少数民族福祉向上大使を務めるほか、ハベル大統領記念栄誉賞（2001）、国際ガンジー賞（2007）、ノーマン・ボーローグ・メダル（2010）など多数受賞。主な著書に「この国、あの国」（産経新聞社）、「外務省の知らない世界“素顔”」（産経新聞社）、「人間として生きてほしいから」（海竜社）、「若者よ、世界に翔け！」（PHP研究所）、「不可能を可能に 世界のハンセン病との闘い」（明石書店）、「隣人・中国人に言っておきたいこと」（PHP研究所）、近著に「紳士の「品格」」(PHP研究所)などがある。
