「こども子育て新システム」は日本の運命を決める法案【前編】 - BLOGOS編集部
※この記事は2012年05月28日にBLOGOSで公開されたものです
ニコニコ生放送とBLOGOSがタッグを組んでお送りしている「ニコ生×BLOGOS」第８回のテーマは「こども子育て新システムって結局どうなんですか？」
近頃、メディアで多く報道される待機児童問題。具体的な解決策が見出せない中で、政府が今国会に提出したのが「子ども・子育て新システム」の関連法案。
待機児童問題の解決や子育て支援が目的の法案ですが、そのシステムが非常にわかりにくく、世間への浸透度が薄いと問題だらけ。
そこで今回のニコ生×BLOGOSでは、「子ども・子育て新システム」に賛成・反対・中立の立場の政党から国会議員を、そして、実際に育児の現場で活動をしているNPOの方をゲストに招いて、あらためてシステムの中身について伺うとともに、必要性と問題点を徹底討論しました。90分に渡る激論になりましたので、前後編でお送りします。 【ニコニコ動画】ニコ生×BLOGOS第8回～こども子育て新システムって結局どうなんですか？～
【出演】
司会：大谷広太（BLOGOS編集長）
アナウンサー：小口絵理子
コメンテイター：須田慎一郎（経済ジャーナリスト）
ゲスト：泉健太（民主党・衆議院議員）
田村憲久（自民党・衆議院議員）
高木美智代（公明党・衆議院議員）
駒崎弘樹（NPO法人フローレンス代表理事）
待機児童は全国で８５万人！
小口：「子ども・子育て新システム」について、そもそも今、子育てにまつわる問題点は何があるのか？駒崎さんに伺ってもいいでしょうか？
駒崎：本当に簡単にいいますと。今、子供の預け先である保育所が足りないという状況になっているわけですね。「待機児童問題」って言われています。そうした時に、今の「認可保育園」という制度でそのままいこうと思うと、なかなか十分な量の保育園が作れませんよね。そういったところで、なんとか制度を変えて保育園を作って行こうじゃないか・・・といった形で改革をはじめようと自民党時代から議論がなされてきたわけですね。そこで「子ども子育て新システム」という形になって、いるのですが、色々な立場の方々が反対されておられたり、ということもあるので、そういったところも踏まえて今日は議論ができたらいいんじゃないかと思います。
須田：非常に基本的な質問なんですけどね。認可保育園に入れない子供たちが「待機児童」ということでよろしいんですか？
駒崎：そうですね。定義ではそうなっています。
須田：加えて、そういった待機児童の方々っていうのは、今日本全体でどれぐらいいらっしゃる？
駒崎：色々な統計で数万人といわれていますが、ただ潜在待機児童、つまり「この近くに保育園があったら入れるんだけどなあ」とか「どうせ入れないんだから申し込んでないよ」そういう人たちを合わせると８５万人いると言われています。
須田：そんなにいるの！？
駒崎：ちょっとイメージして頂きたいのですが、８５万人の子供たちが小学校に入れないという言い方をすると、この問題の大きさがわかると思います。。実際に保育園に入りたくても入れない。そうした良質な保育・教育が得られないといった状況が野放しになっているということが一番大きな問題です。これから少子高齢化が進んでいくと、高齢者は２０５０年で人口の４割までになり、労働者は３分の２にまで減る。こういった状況の中で、女性もきちんと働けるような場を作っていくということは、日本経済にとっても、非常に重要な話なんですね。ですので、これは「狭い意味での子供だけの問題だよねー」という捉え方をするのではなく、日本全体の運命がかかっているといっても過言ではない重要な問題と捉えるべきです。
小口：待機児童を減らすという目的においては、どの政党においても納得なわけですよね？これに関しては異議はないと。「子ども・子育て新システム」というのは自公政権時代に考えられていたプランをたたき台にして、民主党が政権交代を果たして、来年の施行を目指して検討が進められている。すごくおおざっぱなんですけど、現在の子どもの施策、文部科学省と厚生労働省に別れているものを「子ども家庭省」のようなもので一元化して、包括的な制度にしようというもの。それから先ほど駒崎さんの話にもありました「待機児童の問題」を解消するために、保育所の新規参入のハードルを下げて、企業やNPOにも自由に参入してもらって、もっともっと保育所を増やしていこうじゃないか・・・という狙いもあると。ただもちろんサービスの多様化にお金がいるし、質が下がるのではないか？ということもいわれております。
須田：いま小口さんに説明していただいたものが民主党案ということでよろしいんですか？
泉：はい、そうです。
須田：それに対して、高木さんは中間派。田村さんは当然反対派ということですよね。
田村：反対です。というのも、我々が自公政権に作っていたといいますか・・・。正直にいいますと、当時は官僚が大分、暗躍して作った部分があるんです。その中身からさらに変質をしまして、よくいわれる「幼保一体化」なるわけのわからないものがでてきちゃったんです。「幼稚園も保育園も一緒にしたら待機児童がなくなるんじゃないか？」という幻想を色んなところにバラまいたんですね。ところが待機児童はなくなりません。それはなぜかというと、幼稚園というのは基本的に３歳以上を預かります。いま０歳から２歳の待機児童が約８０数％。つまり０歳から２歳までの子供たちを預ける機関がないことには、待機児童はなくならないんですよ。幼稚園と保育園を一緒にしても、幼稚園機能はそのままですから、０歳から２歳の子供たちは預けられない、預かれない。だから、今回のこの「総合こども園」というものは、別に０歳から２歳の子供たちを預からなくてもいいよ・・・ことなんですね。これだと全く意味ないでしょ？
小口：泉さん、この指摘についてどう思いますか？
泉：総合こども園は、０歳から２歳の子供を預かるんです。
田村：いや預かりません！
泉：ただ、幼稚園については全部「総合子ども園にいきませんよ」という制度にしてるんです。
田村：間違ってますよ。
泉：最初から間違っちゃマズイですよ。
田村：義務付けてないんです！「総合こども園」でも、幼稚園型というのは、０歳～２歳を預からなくてもいいんです。
泉：あのですね、都市部と地方では違う問題が起きていて。今大きく問題になっているのが都市部の待機児童が１つです。地方では逆に、ドンドン子供が減っているんです。この問題をどうするのかっていうのがあって。都市部の話で行くと、待機児童を減らすためには、幼稚園を保育所化しただけでは全然ダメなんです。もっときめ細やかな小さい小規模保育を作らないとダメなんです。駒崎さんがやってらっしゃるところのような、マンションの一室で０歳～２歳の子供たちをみるということまでやらないと。本当はみんなそんなことはしたくないんです、実は。だけども、地方でやってるような認可保育所を都市部では作れないんです。土地が高い、土地が無い。運動場もなかなかないといった環境の中で、全国一律の制度はなかなか難しいので、東京都の認証保育みたいなものがあって。それでもっと小さい規模の保育所までいかないぐらいの保育拠点をいっぱい作れるようにしないと、都市部はなんともならないね・・・っていうことで、今それを盛り込んだ改革案を出そうとしています。
駒崎：「総合こども園」で、待機児童を全部解消できるかといえば、そんなことはないと思います。それに実際「幼保一体化」って新システムの中の「一部分」なんですよね。他の部分もいっぱいあって、その中に泉さんがおっしゃったような「小規模保育」とか「多様な保育をやっていこう」という話が含まれてくるんです。なんで今さら小規模保育について語るのかというと、例えば、日本の認可保育園は「子供が２０人以上いないと作ってはいけない」という謎の規制がずっとかけられていたんです。「この２０人って根拠はなに？」って誰も分からない状況。欧米を見ると、非常に小規模で手厚い保育っていうものも点在しているんですよね。だったら、その小規模で手厚い保育を実現しようじゃないかというのが、私が始めたことなんです。今回「子ども・子育て新システムの中に 小規模保育サービス」という名前で入れ込んであります。そうすると、都市部みたいに、十分な広さの土地が見つかりづらいところでも、ピンポイントで待機児童（が多い）というエリアに開園できるようになるので、フレキシブルになってきますよね。
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新システムで大切なのは「幼保一体化」ではない！？
須田：ちょっと再確認なんだけども。新システムっていうのは「幼保一体化」が大きな需要を占めているようなイメージを持っているんだけども、駒崎さん曰く「そうではない」。泉さんからも話があったけど「そうじゃない」と。そうすると、それ以外（幼保一体化）の部分に、かなり重要な部分があるんだよ・・・という理解でいいわけですか？田村：だからそこは我々（自民党）も賛成なんです。今の小規模保育を作るだとか、保育ママと呼ばれる家庭的保育を進めるっていうのは、我々がこれまでやってきた話なので「賛成」なんです。じゃあなぜ「幼保一体化」をするのか？意味がわからないといっているんですね。
泉：そこじゃあちょっと説明と・・・
田村：いや待って、待って。いま幼稚園っていっても色んな幼稚園があります。例えば、市町村の幼稚園。これは色々な方を受け入れます。ところが私学の保育園っていうのは、試験があって、選別して子供たちをいれているんですね。ですから、それぞれ特色のある教育をやっているんです。で、この幼稚園が「こども園」になっちゃうと、きた子供たちを全員保育園と同じように受け入れなきゃいけなくなっちゃいますね。すると、自分たちの特色のある教育ができなくなっちゃう。これで幼稚園団体は反対をしているんです。そもそも「幼保一体化」と「待機児童の問題」は全く別次元の話なのに、なぜ幼保一体化というものを急にこの法律の中に入れてきたのか。理由が我々もわからないんです。「こども子育て新システム」だけならね。「幼保一体化」がないんならば、全部が全部賛成ではないですが、議論するところはあると思うんです。しかし「幼保一体化」みたいなわけのわからないものを持ってきたもんですから、我々は大混乱しちゃっている。
須田：論点がだいぶみえてきたね。そうすると、幼保一体化の部分が与野党の間の対立点という理解でいいんですか？
高木：ちょっと違います。
須田：あっ、ちょっと違う（笑）教えてください！
高木：私は今回のポイントの１つは「幼保一体化」ここがどうなるのか。またこれからメリット・デメリットについて色々議論をしていきたいと思っています。もう１つは、量自体を増やさないといけない。そうしないと待機児童が解消できないというので、今までコレクションの認定には市町村の実施義務というのがあったんです。そこで責任持って待機児童を解消するというのが今までの流れだったんですけど、今度はそれを外すんです。
泉：いや外さない！
高木：いえ、外して「責務」という風に変えるんです。
泉：いや、それは通称であって「責務」とは書いてないです。まったく書いてない。「義務」なんです。
高木：そうなんですけど、それは全然可否ぶりが違うんですよ。またこれからは、自分で直接契約ですから、全部自分で探さなくちゃならないという流れに変わるわけです。さらにもう１つ「地域型保育を進めよう」という柱が加わります。この３つの柱が私はポイントだと思います。
田村：いま高木先生が言われたようにね。実は幼保の一体化という問題ともう１つは、今までの保育制度の規制改革の問題があるんです。この２つが実は一番の論点なんですね。保育の規制改革も、それをやることによって、保育の質が落ちるんじゃないか！？直接契約だと、今まで市町村が、待機児童が生まれないように、色々なところに子どもを割り振っていたんですね。ところが直接契約になると、自分とその保育園（こども園）との契約ですから。排除されてしまう可能性があると。
小口：大谷編集長もお子さんいらっしゃいますけど・・・
大谷：難しいですよね。これまでも認定こども園というのは存在していたので、ここで急にガクッと変わるわけではなくて。それまでも「こども園」というのは、数は少ないけれども存在はしていたわけですよね。そこでの問題点っていうのは、今後解決された上で全部一緒になるということなんですか？
田村：認定こども園というのは、なりたいところがなるんですね。ところが今回は全部「こども園」にしちゃいますから。最初は幼稚園も全部入れる（こども園に）なる予定だったんです。ところが幼稚園団体から大変な批判がでたんで、「じゃあ幼稚園は、入りたくない人は仕方がないから、今までのように私学でいなさいよ。私学助成をもらってやりなさいよ」ということになりました。
泉：幼稚園はですね、今まで３歳以上の子供だけみていましたから、それで０歳～２歳をみようとすると、調理室を作るなど新しい設備をちゃんと作らなきゃいけない。人も雇わないといけない。長時間保育しなきゃいけないとか色々あって大変なんです。だからそこは「なるべく協力をしてください」って、今回お願いする形にしたっていうのは事実ですね。
幼保一体化どころか“多元化”に？
須田：でもお話伺っていてね、そもそも幼保一体化の狙いっていうのはどこにあるんですか？泉：それはぜひ説明したいと思います。まず、よくわからん制度だって言いますけど、実はOECD諸国では当たり前の制度で、すべての子供に教育を！すべての子供に福祉を！というのは世界の流れなんです。それで結局のところ「保育」と「教育」を両方ちゃんとやっていこうというのは世界的に見てもなんにも珍しいことではない。ただ世界がそうなっているから、日本もやろうってことじゃなくて。今なんで日本は「幼稚園」と「保育所」が別れているの？って考えると、あんまり合理的な理由ってないわけですよね。だって学校って、親が働いてなくても、働いていても、子供たちは一緒に通っていたんです。じゃあなんで、小さい子供の世界だけ「働いている親の子供」と「働いていない親の子供」を分けなきゃいけないの？・・・って話からはじまって。
なんで片方は「教育機関」で、もう片方は「福祉機関」なのって話になって。じゃあなんで、親が働いている時は保育所に預けているけど、仕事を辞めたら、子供まで保育所を辞めなきゃいけないのって話もあって。やっぱり今、新しく制度を作ろうと思うと、わざわざ分けて作るって発想にならないんですよね。今の時代は、幼稚園に通っている子供のお母さんも、保育所に通っている子供のお母さんも、ある意味、核家族化などで「孤独」であったり「育児うつ」であったりして、大変な環境ってみんな変わらないんです。だからみんながある程度、ちゃんと相談にも乗ってもらえて、そしてちゃんと子供を預けられる環境を作ろうよっていう話であったり、専業主婦が半分以下になって、共働きの家庭が半分以上になっちゃうと、いつどこで働くことになるかわからないくらいの環境なんで。だとしたら、みんなが働ける前提の制度を作ったほうがいいんじゃないかな・・・というのが理由ですよね。
小口：女性が働くことを前提としているということですね？
泉：そうです、そうです。
高木：ただあの、今の幼保一体化のデメリットは何かっていう話になりますと。今、お話色々ありましたように、色んな形に別れるわけです。今は幼稚園、保育所、認証、地域型保育とか色々ありますけども。その中で、例えば「幼稚園」はさっきあったように、ブランド幼稚園とか宗教系の幼稚園などは「総合こども園」に移らなくてもいい。そして他の幼稚園はできるだけ移ってください。予算をつけて政策的に誘導する。あと保育所については、私立は３年ぐらいで移ってください。公立の保育所は、１０年以内に移ってくださいと。そうすると、無認可とか色々合わせて、１０類型ぐらいになってしまって、結局利用する側がわからなくなってしまう。
本来、幼保一体化のそもそものはじまりは、働きたい女性が継続就労できない。必ずどこかでキャリアを断念せざるを得ないとか、子育てかキャリアかって選択をせざるを得ないっていう現状をちゃんと変えましょうよっていうところからそもそもはじまって。教育の質とか保育とか、それをちゃんと確保しましょうっていうのが出発点だったんですけど。出来あがったものは“一元化どころか多元化”で、全くわからなくなってしまっている。やっぱり利用者の方にとって、わかりやすい・選びやすいというものが大事なんじゃないかなあと思います。
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「幼保一体化」は 戦後最悪！？の制度改革
須田：プライオリティが一番高いのは、待機児童の問題をどうするんですかって・・・田村：それは都会だけ。田舎は違います！待機児童はいませんよ！
須田：そうすると、田舎は田舎の問題を解決しなければならないし、都会は都会の問題を解決しなきゃならない。
田村：ですから田舎は、実は枠が空いちゃっているんです。幼稚園なんかも空いちゃっているわけですよ。だから、それをどうするかっていうので、認定こども園っていうのを作って。だから、一緒になりたいところはなっていただければいいので、わざわざなりたくないところまで、こちらに持ってくるっていうのが大間違いですよね。
泉：いや、なりたくないところを持ってくるなんて話ではなくて。
田村：いやいや、元々はなりたくないところを持ってこようとしたじゃないですか！
泉：今、地方で問題となっているのは、幼稚園が本当になくなってきているんですよ。１年間で１００園ペース。全国で幼稚園が１００ずつなくなっていっているんですね。だから、幼児教育をやる拠点そのものが、地方ではドンドン少なくなっていて。じゃあ、保育所と幼稚園、どっちが先になくなりやすいかっていうと、やっぱりどうしても短時間しか子供を見られない幼稚園のほうが、先になくなっていってしまうんですね。そうすると、幼児教育をする場所そのものがなくなっちゃうので、それはやっぱり幼児教育と保育を一緒にしていったほうが、すべての子供に教育と福祉っていう感じになっていくんじゃないですかね。
小口：財源的にはどうなんですか？メリットはあるんですか？
泉；例えば、地方で市町村合併して「幼稚園が３つ、保育所が５つありました」っていう地域が、統合して、８つの保育所を作れるかというと、なかなかそういう風にはならないので。それはやっぱり幼稚園と保育所を統合して、合計８つだったところを５つに再編するということはできるので。両方の機能を持っていれば、やっぱり親たちも安心しますよね。実はあの、去年ぐらいに文部科学省の外郭団体みたいなところが調査を出したんですよね。そうしたら、幼稚園に通っている子供のほうが、学力が高くて、保育所に通っている子供のほうが学力が低いみたいな、変なデータを出したことがあって。そういうことをやるから、またおかしな話になるので。やっぱりすべての子供は、幼稚園と保育所で差がつくみたいな話にしてはいけないと思うんですよね。
須田：駒崎さん、ご意見があるようですが・・・
駒崎：分かりづらい点があったようなので補足しますと、OECDっていうのは先進国ですよね。スウェーデンのように、子育て支援大国といわれる国でも「プレスクール」という名前で、幼保一体化を進めていますよと。日本もそういった形を踏襲して、質を高めていこうという話は前々からあったのですね。で、ご指摘された点は幼稚園と保育園が一緒になっていく間で、双方の団体の利益調整が難しくて、ちょっと複雑な制度になってしまいましたということだと思うんです。
一方「直接契約」っていう単語がでてきましたので説明しますが、これは本来、保育園というのは子どもの保護者と保育園が間接契約を結んでいるのです。つまり、保護者がお役所に行って保育園の申込をすると「「入れます」「入れません」と、お役所が回答し、保育の供給を分配する、配給制度みたいな形をとっています。それをですね、保育園も、保護者が直接保育所に行って「入園させてください！」と申し込む形にすればいいのではないかと。実際、幼稚園はそのような直接契約ですので、そういう形をとるのは可能ではないかと。でも「それだと保護者が保育所を探すのが大変だよね？」とか「保育所を探せない人はどうなるんですか？」とか、そういう風におっしゃる方がおられます。それに「待機児童問題」について「地方は関係ないんだよ」とおっしゃいましたけども、この点では確かに待機児童の８割は都市部に集中はしています。けれども、地方はなんにもやらなくていいかと言ったら、それこそ廃園になるような、少子高齢化で苦しむような園があります。
さっき２０人以上の子供がいないと、認可園が継続できないとおっしゃっていましたけど、じゃあ子どもの数が１５人になったらどうするんだと。そしたら保育所の運営をやめるんですかと。全部の園をつぶさなくてはいけない。そういう状況で２０人以下の子どもの数でも運営できる保育所の器があって、きちんと継続できる制度があれば、それは地方にとってもメリットになるのですよね。ある意味「待機児童」は、制度改革の皮切りですけれども、基本的には変えなきゃいけないというのは間違いないです。戦後７０年間ドラスティックには変わっていない日本の保育制度を、ここにきて大改革しようというところですので、色んな反対っていうのはあると思うのですが、いずれにせよ、制度疲労を起こしているのは間違いないです。なるべく変えていくべきだということをふまえて、実のある議論をしていきたいなと思いますね。
小口：これ、戦後最大の制度改革なんですよね？
田村：いや最大っていうか、最悪じゃないですか。
小口：自公政権の時からあるんですよね？
田村：そうじゃなくて、幼保一体化の話ですよ。中身が複雑になっちゃって、さっき高木先生がいったように、うちのこども園はどういう機能を持っているこども園か、わかんないという状況が生まれてくるんですよね。例えば、うちの１歳の子供を預けようと思っていったら「うちは３歳以上の子供しか預かりませんよ」っていわれるこども園がでてくるわけですよ、「え！？どういうこと？こども園なんでしょ？」っていっても「うちはそういう風に当局で認められていますので、３歳以上しか預かりません」ってなったら「じゃあ、私どこにいったらいいの？」ってなりますよね？
小口：じゃあそういうものをカウンセリングかなにか、また間に組織が必要になってくるんじゃないですか？
泉：そこは行政がちゃんと情報提供したりですとか。この施設はこういうものですよとか、全部説明して、インターネットでも見られるようにしますね。
高木：そうなんですが・・・。保護者の方の立場になると、どうなるかというと、まず市役所に行って、支給認定っていうのを受けるわけですね。今まで通りの部分はあるんですけど、いわゆる３歳以上のお子さんと、お母様の就労とか、ご病気のためにどうしても見てあげなければいけないという理由から長時間保育が必要な方。そしてもう１つは３歳未満のお子さん。病気などで、保護者の関係でみなきゃいけない。３種類に区分されて、それぞれにどういう保育の量が必要なのかっていう時間数とか。そういう認定を受けるわけですよ。
で、受けて、そこでどうするかっていうと、さっき泉さんがおっしゃったように、市役所が紹介する先に対して、自分で探すわけです。それでどうしても見つからなければ、２番目、３番目の方については、もう１回市役所が保育所とかそういうところに斡旋するっていうんですね。それは今までは義務でやってきてくれたのが、今後はできなくなるという話なんです。駒崎さんがおっしゃったように、確かに制度疲労を起こしていて、特に働いているお母様達にとってみたら、まだお子さんが１歳未満で育休中なのに、無認可の、費用の高い保育所にいれなければ、自分が育休をあけた時に、認可に入れられない。っていうので、ちゃんと点数を稼ぐわけです。そうすると、本当にちゃんと自分の手元に子供を置くということができない。だから、女性が安心して子育てができる、また男性がそこに関われるそういう仕組みを、本当は待機児童をゼロにしながら作らないといけないんですけど、今度はそうなっていませんね・・・ってところが危惧されるところなんです。
駒崎：「なっていませんね・・・」って仰っていますが、今までも待機児童は多数存在していましたので、どちらの制度がいいとか悪いとか言っていられない状況なのです。
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保育に消費税増税が不可欠なワケ
田村：待機児童が解消されない理由ってのが、いくつかあるわけですよ。１つはそもそも潜在的に待機児童が多すぎてですね。４月になると２万５０００人ぐらいまで減るんですが、１０月になると５万人近くまで増えるんですよ。こういうのをドンドン繰り返して、保育所増やしているんですけど、待機児童は全然減らないっていうのが、この１０年間の状況なんですね。「今は必要ないけれど、近くに保育所ができたら、私も預けよう」っていう親御さんがドンドンでてきますから、いま８５万人っていうのが潜在的な部分ですよね。それを全部解消しようとなると、今からすごい勢いで保育所もしくはこども園を作らなきゃいけないんですよね。問題の１つはお金。これは今回、消費税７０００億、さらにどっかからお金を３０００億くすねてこようという話で、あわせて１兆円と。これは我々も、それぐらい使えばいいねっていう思いの部分は一緒です。ただし、３０００億円、本当に消費税以外からとってくるのは大変ですよね。ところがお金だけじゃないんです。１つは地方負担の問題があったんです。国のお金だけじゃなくって、県や市町村も（保育所またはこども園）設置した時には、自己負担がいりますから。その負担部分をどうみるかっていう問題があります。今までは認可制といいまして、都道府県が「作っていいよ」と許してあげてはじめてできたんです。
それが今回から「指定制」に変わりますから、一定の外形的な基準さえクリアしていれば「もうこれは市町村が指定します」といって認めちゃうんですね。さらに、市町村、都道府県が断れないので、ドンドン保育園やこども園ができるだろうということで、待機児童が減るんじゃないかというのが、浅はかなお考えなんです。なぜかというと保育士が全然足らないんです。なぜ保育士が足らないかというと、本来保育士は１００万人以上、資格者がいるんです。ところが実際働いているのは、約３６～７万人ぐらい。待遇が悪いんです！
小口：待遇が悪いから、子供ができてみなさん辞めてしまう？
田村：そうです！これ単価が悪くてですね、保育園というのは１１時間の開設義務があるんです。ところが保育は８時間なんです。単価は８時間で支給されています。ですから、実は保育士にちゃんと給料を払えない！しかも、人件費が約８割ですから。それで結果的に、保育士の資格を持っている人たちが、スーパーでパートしていたりするわけですよ。その人たちを掘り起こすためには、保育士の待遇改善をしなくちゃいけない。ところが今回それが入ってないんですよ。だから大問題だと！
高木：これは自公政権の時からずっと課題ですから。
泉：自公政権の時からの課題だったら、その時にやりましょうよ。まさか、それをいうとは思っていなかったですよ。
田村：違うんですよ！財源がないからできなかったんです。ところが今回消費税をあげるっていう話になれば、その時には我々も子育てにお金を使おうっていうんで、参議院の時の政権公約にちゃんといれてあります。
須田：しかしあの、待遇改善しなければね、保育士の方が仕事しようというモチベーションがあがってこない。あるいは応募してこない。そうじゃないですか？
泉：いや、今はそもそも資格持っている人が少ないという現状がありますんで。資格持っている人がいっぱいいても、実際は家で生活していたりだとか、要は職場に復帰しない人もいっぱいいるわけですよね。そこで厚生労働省がやろうとしているのは、認可外の施設で保育をしていた経験者の人に、保育士の資格を与えられるように受験資格を・・・という話はあるんです。それが確かに「良い」「悪い」はあって、だけども、それぐらい切迫している状況ではありますよね。本当に人が少ない。
大谷：今新しいテーマが１つでてきたのですが、こども園では幼稚園と保育園が一緒になりますよね？そうすると免許についてはどうなるのでしょうか？これまで幼稚園の教諭免許は文部科学省から与えられていた。一方、保育園は社会福祉施設なので、厚生労働省から保育士資格が与えられていた。この２つが一緒になると、どういった資格になるのですか？
泉：表記上は「保育教諭」という資格ができるんですね。今でも実は大体学校の段階で８５％ぐらいの保育士さんは、幼稚園の教員の免許も持っているし、幼稚園の先生も同じぐらいの割合で保育士の免許を持っています。しかし、残り１５％のみなさん。特に、ベテランのみなさんは、経験は豊富だけれど、両方の免許を持っていないっていうことがあるんで、そういう方々には経過措置で、将来的には両方とも免許とれるように・・・っていう風にしていくつもりです。
こども家庭省を作るにはパワー不足！
須田：両省庁の所管だったものが、一体化することで「こども家庭省」なんてものを作る予定なんですか？泉：今は、正直いうとそこまでのパワーはないんです。
大谷：今年３月に出た資料だと「今後も審議する」ということになっていますが？
泉：政権交代直後から「こども家庭省」を作りたいというのがあるんですけど、やっぱり１つの「省」を作るっていうのが大変で。例えば、厚生労働省からこども家庭省に移った場合に、労働部分はどうするとか色々な話になると、省庁再編、全体の話になるんですよね。だから、僕らもやりたいんですけど、すごいパワーが必要で。
須田：やることのメリットって何があるんですか？
泉：子供を基準に考えるっていうことでいうと。例えば「子供の事故」とかは、学校で起こしたら文部科学省が統計とって、外で起こしたら厚生労働省が統計とって、結局トータルで子供の事故が何件あったのか、よくわからなかったというのが問題だったんですね。だから、子供の生活をトータルで見て、そこで子供の福祉をちゃんとできるようにしていこうよ・・・っていうのがこども家庭省的発想ではありますね。
須田：でも、福祉だったら厚生労働省に任せればいいじゃないですか？
泉：いやそこはやっぱり、教育と福祉っていうのはかなり一緒なんですよ。
須田：なんか役人の答えみたいになっちゃって（笑）のせられてません？（笑）
高木：これね実は、うちの党（公明党）も「こども家庭省」ではないですけれど、一括した部局が必要ですよねっていうのは、ずっと提案しているんです。それはさっきからでているように、幼稚園は文部科学省、保育所は厚生労働省。そこを一体化するんだったら、役所もちゃんと一体化しないと。例えば、幼稚園でなにかあったら聞くのは文科省。しかも途中に入るのは市役所ですから。そこでまた市が「どこに聞けばいいの？」という話に。保育になれば、今度は厚生労働省に聞かなければならない。そこをちゃんと一体化しないと、本当の幼保一体化にはなっていかないんですよね。
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