「年末調整」してもさらに「確定申告」が必要なケースとは? 手続き漏れに注意を
年末調整と確定申告は、いずれも所得税の過不足をなくし、正しい年税額を確定するための手続きです。しかし、それぞれ手続きの対象となる人や、手続きの方法に違いがあります。人によっては両方の手続きが必要なケースもあるため、それぞれの手続について知っておくことが大切です。今回は、年末調整と確定申告の違いや、両方の手続きが必要なケースについて解説します。
年末調整と確定申告の違いは?
年末調整は、会社員などの給与所得者が、勤務先を通じて行う手続きです。月々の給与から源泉徴収された概算の所得税を年末で確定させ、主に年末の給与で調整する方法です。一方、確定申告は、主に個人事業主や会社役員などを対象として、直接税務署を通じて行う手続き。1年間の収入や課税所得を申告し、翌年の確定申告を経て所得税の納付を行います。
会社員は原則として会社が年末調整を行ってくれるため、個人で確定申告を行う必要はありません。ただし、状況によっては後述するとおり年末調整と確定申告の両方が必要になるケースもあります。
年末調整とはどのような手続きなのか?
会社員ならほとんどの人が年末調整の手続きをしたことがあるでしょう。しかし、新社会人を含め、何のための手続きなのかよくわからないという人もいるかもしれません。ここでは、あらためて年末調整とは何なのか確認してみましょう。
年末調整は税金を調整するための手続き
給与所得者は、毎月の給与やボーナスから所得税が「源泉徴収」という形で天引きされています。会社は従業員から源泉徴収した所得税を、毎月所轄の税務署へ納付しています。ただし、会社が計算した所得税は、一定の法則に従い概算で算定した額です。しかし、実際は、従業員それぞれの家庭状況や転職などの事情に応じて納めるべき税額が変わります。
そのため、年末に一括してそれまでの社会保険料や、個人で支払った保険料の控除なども加味して、正しい年税額を再計算します。その結果、今までに源泉徴収した合計が実際の所得税よりも多ければ差額が戻り、納めるべき所得税に満たない場合は追加で徴収されるのです。これを、年末調整といいます。
毎年11月ごろ会社で手続きをする
年末調整の手続きは会社が行ってくれますが、そのためには従業員が個人で支払った保険料、扶養家族の有無などを正しく会社に届け出なければなりません。多くの場合、11月中旬ごろから手続きが始まります。会社に必要書類を提出すれば、12月分または翌年の1月分の給与で精算する形で、税金分が戻ってきたり引かれたりします。年の途中で転職した場合も、前の職場から受け取った源泉徴収票を今の会社に提出すれば、転職後の会社でまとめて年末調整の手続きをしてもらえます。
年末調整に必要な書類・手続きの方法
年末調整に必要な書類として、各種申告書や控除証明書などがあります。生命保険か地震保険に加入している人、住宅ローンを組んでいる人は、保険会社や金融機関などから送られてくる書類もあるため大切に保管しておきましょう。年末調整に必要な申告書は以下のとおりです。
・扶養控除等申告書
・配偶者控除等申告書
・保険料控除申告書
・住宅ローン控除申告書
・基礎控除申告書
・所得金額調整控除申告書
参照元:国税局「給与所得者(従業員)の方へ」
また、年末調整に使用する控除証明書等は次のとおりです。これらの書類は自分で提出する必要があります。毎年10月~11月ごろに関係機関から送られてくるため、紛失しないように注意しましょう。
・保険料控除証明書(保険会社が発行)
・住宅借入金等特別控除証明書(税務署が発行)
・住宅取得資金に係る借入金等の年末残高証明書(金融機関が発行)
提出する書類が多く大変に感じるかもしれませんが、今後は電子化により手続きがスムーズになりそうです。2020年10月から年末調整の手続きの際も各種書類を電子化し、電子データとして提出と保存ができるようになりました。以前のように会社から配布された書類に手書きで記入することなく、年末調整のための専用ソフトウェアなどで画面の指示に従い入力するだけで、簡単に提出できるようになってきています。
また、各種の控除証明書も電子データとして提出可能です。ただし、所属する会社で電子化の準備が整い、税務署に承認されてからの運用になるため、それまでは従来どおりの処理が必要です。
確定申告が必要な人・手続きのしかたは?
確定申告とは、1月1日から12月31日までの1年間の所得を税務署に申告し、所得税を確定する手続きのことです。会社で年末調整をしてもらった会社員でも、確定申告が必要なケースがあります。ここでは、確定申告が必要な人や手続きのしかたについて解説します。
確定申告は主に会社員以外の人が対象
確定申告は、主に会社員以外の人が行う納税のための手続きです。次のような人が対象となります。
・自営業やフリーランスなどで事業所得がある人
・年収が2,000万円を超える人
・不動産や株取引などで所得がある人
・賞金など一時所得がある人
・給与を2ヶ所以上から受け取っている人
・退職所得があり退職金などの支払者に「退職所得の受給に関する申告書」を提出していない人
年末調整と確定申告が両方必要なケース
会社で年末調整をしたあと、さらに確定申告の手続きが必要なケースもあります。
医療費控除、寄附金控除、雑損控除、住宅ローン控除(1年目のみ)を受ける場合は、会社の年末調整では処理できないため、個人で申告手続きが必要です。これらの控除が対象となる場合は、確定申告や還付申告をしたほうが節税になります。
また、住宅ローン控除を受ける場合は最初の1年のみ手続きが必要になるため、忘れずに行っておきましょう。2年目以降は年末調整で手続きできるようになります。
そのほか、給与所得以外に年間20万円を超える所得がある場合、給与を2ヶ所以上から受け取っていて、年末調整していない所得の合計が20万円を超える場合、年末調整で控除書類の不備等により申告漏れがあった場合なども、確定申告を行う必要があります。
確定申告の時期や手続きのしかたは?
確定申告の手続きは、通常は翌年の2月16日から3月15日までに行います。過去には、災害や新型コロナウイルスの影響で期間が延長されたことがありました。還付申告の手続きは翌年の1月1日から5年間にわたり手続きが可能です。確定申告書への記入は、税務署備え付けもしくは国税庁のホームページからダウンロードして印刷した用紙に手書きで行います。あるいは、国税庁のホームページから確定申告書作成コーナーを利用して作成すると簡単です。手続きの流れは以下のとおりです。
1.源泉徴収票や控除証明書などの必要書類を準備
2.申告書Aまたは申告書Bを作成。申告書Aは、給与所得、雑所得、総合課税の配当所得、一時所得を申告する場合に使います。申告書Bは、所得の種類に関係なく誰でも使用できます。
3.国税庁の手引きと記載例に沿って、必要事項を記入または入力。
4.手書きした申告書は、必要書類を添えて所轄の税務署に郵送するか持参します。国税庁のe-Taxを利用して、オンラインでの申告も可能です。
5.納税は、口座振替、現金納付、e-Taxからインターネット納付の3つから選べます。還付申告の場合は、指定の口座に還付金が振り込まれます。
まとめ
正しい所得税額を確定するには年末調整や確定申告、または両方の手続きが必要です。会社ではすべての控除手続きができないため、年末調整を行っても、確定申告で控除が受けられるケースもあります。控除の要件に該当していれば、納め過ぎた分の税金が還付されるため、ぜひ確認してみることをおすすめします。