なぜか行きたくなる観光地の不思議な博物館|木下隆之の初耳・地獄耳|
「観光地に気兼ねなくドライブに行ける日が待ち遠しいよ」
「僕も行きたいんっすよ。伊豆とか箱根とか…」
「それはいい場所だ」
「キノシタさんは、どこにドライブに行きたいですか?」
「そりゃ海だろうね。大海原を横目で味わいながらのクルージングは格別だからな。峠も気持ちいいよ。となれば伊豆かな。箱根もいいね」
気持ちは早くも、伊豆半島に飛んでいた。箱根ターンパイクから伊豆スカイラインを経由、熱海から海岸線をドライブして西伊豆を目指す。最高のドライブルートなのだ。
「僕は、伊東の『怪しい少年少女博物館』に行きたい。あそこは素晴らしい」
「 怪しい少年少女博物館? ナンジャそれ?」
「知らないんですか?」
伊豆のドライブが好きなのに、怪しい少年少女博物館を知らないって、完全にモグリだという。聞けばどうやら、「怪しい少年少女博物館」という名のまさに怪しい博物館は、伊豆半島の城ヶ崎海岸のそばにあるらしい。国道沿いに、風光明媚な海岸線には似つかわしくない建屋が現れるという。博物館といっても、埃のかぶったマネキンやへし曲がった恐竜や、第二次世界大戦を想像させる戦闘グッズや不気味なホラー人形が無造作に展示している。
「展示されているものは、なんというか怖いというか」
博物館内は薄暗く、カタカタと動くろくろ首や、恐竜から生まれた人間なんて展示物もあるらしい。
「お化け屋敷か?」
「怪しい少年少女博物館です」
「カオスな世界だな」
それにしても、観光地には、時より首をかしげたくなる博物館が少なくない。なぜか不思議と「トリックアート博物館」が多いような気がする。秘宝館は昭和の温泉地の名残だろうが、爬虫類博物館やバナナワニ園など、好んで見たいとは言い難い観光スポットが多いのである。
平和記念資料館だとか、恐竜博物館だとか、あるいは科学館や歴史館ならばなんとなく存在が理解できる。向学のために訪れる気持ちも想像できる。ガラス細工博物館や、オルゴール博物館や、もしくはネコ屋敷だとか忍者屋敷も楽しそうだ。だが、爽やかな気持ちに浸りたい人が大勢訪れる自然に囲まれた場所に、なぜB級博物館が多いのか理解できないのである。
「でも、楽しいじゃないっすか」
「たしかに興味は注がれる」
「だったらいいじゃないっすか」
たしかに興味は注がれる。だが、せっかく自然に触れたくて海や山を訪れているのに、わざわざ薄暗い博物館に立ち寄らねばならないのか、その心持ちが理解不能なのである。
「でもですよ、観光地だからこそ、足が向くんですよ。秘宝館なんて、観光気分だから楽しいんですよね。ビジネス街にあってもそそらない。合田 誠のような芸術家ならばセンスを磨くためにはいいっすよね。近代美術館などでも鑑賞したい。だけど、怪しい少年少女博物館は、観光地だからこそ、そそられる」
「なるほどね」
「東京から下田に向かって海岸線を走っていると、左手には雄大な太平洋が広がっている。深く吸い込まれそうな紺碧の海、抜けるような青い空、自然美が見渡せる。だが右手に突然、奇妙な博物館が現れる。それには腰を高しかけたね。入り口には奇妙な人形が立っているのだからね」
「キノシタさん、詳しいですね」
「・・・・」
「その博物館に、行ったんじゃないですか?」
「・・え・・いや・・その・・・12」
「図星ですね(笑)」
「・・ええ・・まあ・・・。観光地に行くと、ついつい足を踏み入れたくなるのだ」
〈文=木下隆之〉
