川崎に完封勝利。試合終了後の選手たちの表情には充実感が表われていた。写真●徳原隆元

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[J1リーグ12節]名古屋1-0川崎/8月23日/豊田スタジアム

 培ってきたものを正確に、均一に、惜しみなく注ぎ込んだからこそ得た“金星”である。11試合で勝点31、1試合平均3得点を超える現状のJリーグ最強チームとの対戦は、ともすればリスペクトを過ぎてネガティブな構え方をしてしまいそうにもなる。

 たとえ前週にルヴァンカップで引き分け(2-2)ていても、試合結果に求める互いの条件を思えば、それがそのまま次の戦いの担保になるとは思えない。だが名古屋は引かず恐れず、正しく川崎に立ち向かった。自分たちの力を信じ、闘うことで最良の結果を引き出したのだ。

 試合は見た目やボール支配率、シュート数などでは圧倒的に川崎の“勝ち”だった。立ち上がり5分の守田英正の決定機が決まっていれば(ゴールと判定されていれば)、一気に押し切られていたかもしれない。

 だが、試合前に「食ってやろうという気持ちで」と語っていたCB中谷進之介が根性で防ぎきると、守護神ランゲラックの好セーブもあり自慢の対応力で内容を押し返し始める。ボールを回させていたとは言い難い展開も、ゴール前だけは死守し、フィニッシュにかかる場面も丹念にケアすることで危険の芽を摘んでいく。

 前半の中盤には得意のセットプレーで劣勢の流れを押し戻し、守りながら好機を窺ういつも通りの試合に持ち込むと、前半終了間際に虚を突くようなサイドチェンジからの攻撃を金崎夢生が仕留めてリードを奪った。時間は44分。最高のタイミングだった。
 後半、名古屋はシュートを1本しか打っていない。これといってチャンスもほとんど作っていない。カウンターの場面はいくつかあっても、シュートの匂いが漂ってくる前に川崎に守り切られた。その相手はといえば、7本のシュートを放ち、アクシデント絡みも含めて5人の交代選手を注ぎ込んで反撃を目論んだ。

 だが、前半ほどの決定機を作らせなかった。名古屋が覚悟を決め、守ることから勝機を膨らませようと腹を据えたからだ。中谷の言葉が簡潔でいて頼もしい。

「夢生くんが本当に良い時間帯に得点をとってくれたので、DF陣としてもすごく踏ん張りがいのある試合でした」

 1点差を不安に感じるどころか“踏ん張りがいがある”と思考できてしまうのは、彼がCBというだけでは説明がつかない。そこには再開後の試合を粘り強く守り、攻め、勝ってきた実績による自負と手応えの積み重ねが後ろ盾として存在する。

「最近の試合を通じて自分たちが手応えを感じられていることに、引いた中でも守りきれる力がついてきているというものがあります。そこの自信があるというのは大きかった」(中谷)

【J1第12節PHOTO】名古屋 1−0 川崎|名古屋が金崎の執念のヘッドで快進撃を続ける川崎を撃破
 
 前線からの守備が第一優先で、速攻ばかりでなくポゼッションでも試合を運び、なおかつ引いて守って嵐が過ぎ去るのを待つこともできる。なんでもできるチームの礎にはやはり困った時に展開をやり過ごせる堅牢な守備が欠かせず、いざとなれば引いて守るなど、そう簡単にはやられないという自信があれば、壁の硬度も余計に上がる。

 そこに前週でつかんでおいた川崎の特長と能力、渡り合ったという感触が精神を安定させ、名古屋は準備してきた川崎とのゲームプランを苦労しつつも滞りなく、完遂できたわけである。
 結果として得られたのは勝点3だが、6ポイントマッチの価値と首位を叩いた経験、前線のアシスト役に徹していた金崎の復帰後初得点と、付随してチームに肉付けできた部分は非常に多い。

 阿部浩之や米本拓司を欠き、厳しい日程による疲労も目に見えて溜まってきたなかでのそれは、最高の癒しにもなるはずだ。

 フィッカデンティ監督はまた「そろそろ米本や阿部を、この1週間以内にはなんとか起用できる状態にしなければ」と目算を語ってもいる。主力抜きで川崎の連勝を止めたチームに彼らが戻ってくるとすれば、まさに鬼に金棒。この勝利をもって今季における名古屋は正式に“強豪”を名乗る資格を手に入れたのではないだろうか。

取材・文●今井雄一朗(フリーライター)