日米協定「熟議」遠く きょう衆院委採決

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 日米貿易協定の承認案は15日、衆院外務委員会で採決される。政府・与党が成立を急ぐ中、審議は11時間で終わり、環太平洋連携協定(TPP)を大きく下回る。農産品の影響試算の根拠や、牛肉のセーフガード(緊急輸入制限措置=SG)の実効性などを巡る政府と野党の議論は平行線のまま。「熟議」につながらないまま衆院の審議は終わる。

審議時間 延期・空回しTPP下回る


 10月24日の衆院本会議で審議入りしたが、外務委で予定されていた審議は2度延期された。公職選挙法違反疑惑を巡り、辞任した閣僚2人が説明責任を果たさないことに野党が反発し、国会審議が空転したためだ。

 本格的な質疑は11月6日に始まったが、8日の質疑では要求資料の提出に応じない政府・与党に主要野党が反発して退席。与党側は、質問者不在のまま時間を進める「空回し」で審議時間を消化するなど対立が深まった。13日には正常化したが、政府と野党のやりとりはかみ合わないまま。結局、与野党の合意で採決日程が決まり、衆院での実質的な審議は終わった。

 衆院での審議時間は11時間。「空回し」の時間を除けば10時間にも満たない。TPPは2016年に特別委員会を設けて70時間以上、米国抜きのTPP11は18年に20時間以上審議したのと比べると、議論の不足は否めない。

 政府・与党は、日米協定を今国会の最重要案件に位置付ける。その分、野党の視線も厳しく、国会運営の駆け引き材料になった面があるが、野党内には「審議時間をより多く確保する方法がなかったか」(農林幹部)との声も漏れる。

試算・SG 議論は平行線なお残る懸念


 審議の中で、野党が特に批判を強めたのが影響試算だ。政府は農産品について「生産額は減少するが、国内対策によって生産量や農家所得は維持される」との説明を変えていないが、国内対策は指針となるTPP等関連政策大綱の改定さえ完了していない。

 野党からは「予算を出してから言え」と、政府説明の根拠の乏しさに批判が相次いだ。

 より現実的な試算を求める声も出た。日米協定の試算は、既に発効済みのTPPや欧州連合(EU)との経済連携協定(EPA)を前提としていないことを野党は問題視。既存の通商協定を踏まえた具体的な試算を示すよう要求したが、政府・与党側は一貫して拒否している。

 牛肉SGは、発動した場合の再協議規定を巡る攻防が激化した。発動すれば「発動水準をより一層高いものに調整する」協議に入り、期限も決まっている。引き上げを前提とした規定だとして、野党はSGの効果を疑問視する。

 一方、SGの再協議についての政府答弁は「結果は予断していない」(茂木敏充外相)にとどまり、SGの先行きの不透明さは解消されないままだ。生産量や農家所得を維持する国内対策の具体像や、SGの実効性をどう確保するかなど、農業経営に直結する論点の議論は深まらなかった。