「あたたかい天然水」(伊藤園提供)

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 朝晩冷え込むようになり、温かい飲み物がうれしい季節になりました。SNS上では「白湯」、つまり「お湯」をコンビニや自動販売機などで売ってほしい、との声が上がっています。「毎年冬に思う。コンビニでホットウォーター販売してもらいたい! 白湯買いたい」「『あったかいお茶』『冷たいお茶』があるのに、なぜ『白湯』を売ってないの?」、あるいは、子育て中の人からの「出かけるときミルクを作るためにお湯が必須」といった要望です。

 確かに、コンビニやスーパー、自販機などで「白湯」を見ることはありません。「体に優しい」とされる白湯は、なぜ売られていないのでしょうか。

朝飲めば一日のリズムが整う

 まず、白湯が他の飲み物より優れている点について、医師の市原由美江さんに聞きました。

Q.白湯が、冷たい水や常温の水より優れている点は。

市原さん「一般的に白湯とは、一度沸騰させた水を50度程度に冷ましたお湯です。冷たい水や常温の水よりも白湯の方が体を温めるので、胃の血流が増えて胃腸が活性化し、代謝や免疫力がアップするとされていますが、医学的に証明されているわけではありません。理論的に優れていると考えられている程度です。

ただし、通常は冷たい水よりも白湯の方が飲みやすいと思います。特に寒い時期は白湯の方が飲みやすく、結果、適度に水分摂取ができ、体調が良いと感じるのではないでしょうか。また、毎朝ゆっくりと白湯を飲む習慣をつけると、一日のリズムが整い、リラックス効果も得られ、精神的にも良いと思われます」

Q.白湯が温かいお茶やコーヒーよりも優れている点は。

市原さん「白湯には、水成分とミネラルしか含まれていませんが、お茶やコーヒーには、カフェイン、ポリフェノール(カテキン、タンニン)、ビタミン、ミネラルなど水成分以外に多くの成分が含まれています。過度の量でなければ肝臓や腎臓などに過度な負担をかけることはなく、利尿作用も軽度で健康に良い成分も含まれているので、決して悪いわけではありませんが、純粋に水分摂取が目的であれば、白湯(水)は体への吸収や体内循環の点で最良と思われます。

水に含まれるカルシウムやマグネシウムの量が少ないと軟水、多いと硬水に分類されますが、硬水はこれらの含有量が多いため、苦みや飲みにくさを感じたり、お通じが緩くなったりすることがあります。白湯として毎日定期的に飲むのであれば、軟水である水道水や国内のミネラルウォーターを利用するのがよいでしょう」

Q. 白湯のデメリットはありますか。

市原さん「白湯は水を一度沸騰させてから冷ますので手間と時間が少しかかることでしょうか。白湯自体のデメリットはないでしょう」

Q.白湯を飲む場合、何度くらいがよいのでしょうか。

市原さん「熱過ぎる飲み物(65度以上)は食道がんのリスクを高めます。熱過ぎず、かつ、リラックス効果も得られる温度としては、自動販売機のホット飲料と同じ50度程度がよいでしょう」

 それでは、白湯を商品化した例は存在しないのでしょうか。ネット上には、伊藤園(東京都渋谷区)の「あたたかい天然水」(275ミリリットル、税込み110円)、アサヒ飲料(同墨田区)の「富士山のバナジウム天然水 ホット PET340ml」(税別105円)という商品の情報があります。ただし、両社のホームページには現在、これらの商品はありません。

女性から支持されたものの…

 伊藤園広報部の担当者に話を聞きました。

Q.「あたたかい天然水」は現在も販売していますか。

担当者「現在は販売しておりません」

Q.いつまでの販売だったのでしょうか。なぜ販売をやめたのですか。

担当者「『ミネラルウォーター市場に新しい価値を創造する』ことを目的に、2007年10月に発売し、年明けのホット飲料の需要期まで販売しました。販売期間中は、喉のケアを気にされる皆さんや、サプリメントを白湯で飲まれる皆さんから評価を頂いておりましたが、全体としての販売数量が思わしくなかったため、販売を終了しました」

Q.その後、白湯の商品は出ていませんか。

担当者「ございません」

Q.伊藤園に限らず、白湯をコンビニや自販機で売っているのを見たことがありません。

担当者「白湯を飲む人の絶対数が、他の飲み物を飲む人に比べて少ないことや、白湯の飲用シーンが、『朝起きてすぐ』など家庭でのシーンが多いことが理由ではないかと思います。ホット対応ペットボトルは加温状態での販売なので、家庭での飲用需要にお応えできなかったのかも知れません。

また、白湯に限らずホット飲料は品質管理上、加温状態での販売は2週間ほどしかできません。加温状態の売り場面積が限られる中、飲用者が少ない商品でラインアップを増加させるのは難しいのです」

Q.ミネラルウオーター、つまり冷たい水は多くの自販機で売っています。

担当者「冷たい水は、白湯とは逆に賞味期間が長いです」

 次に、2014年11月発売の「富士山のバナジウム天然水 ホット」について、アサヒグループホールディングス(HD)の広報担当者に聞きました。

Q.発売時の反響は。

担当者「当時は、都心型の店舗で女性からの支持が一定数獲得できました。しかし、期間限定販売の商品で現在は販売しておりません。ほかに白湯の商品はありません」

Q.なぜですか。白湯は他社でもなかなか見かけません。

担当者「温めて飲む白湯の需要は、ターゲットが狭いためボリュームが稼げず、なかなか製品化に至りません」

Q.白湯を販売することの難しさや課題は。

担当者「ホット商品は販売時に温度を一定に保つ必要があります。さらに、2週間以内に販売・飲用いただく必要もあり、品質管理や販売オペレーションに課題があります」

 また、日本コカ・コーラ、サントリー食品インターナショナル、キリンは「白湯の販売実績はありません」と回答。キリン(東京都中野区)からは「現在の水の容器はホット対応を行っておらず、もし販売するとなると新商品を開発する必要がありますが、世の中のニーズが多いとは捉えていません」との説明がありました。

 白湯が今冬、商品として登場するのは難しそうですが、伊藤園の担当者に今後の可能性を問うと、次のような答えをもらいました。

「現在のところ、弊社での展開の予定はありませんが、今後、白湯の健康性や飲用者の拡大などで需要が増加する可能性はあるかもしれません。引き続き、世の中のニーズに対応してまいります」