大学入試の問題の中には「これ、どうやっても正解が絞り込めないぞ?」「教科書も用語集も隅々まで読んだけれど、その答えはなかった……」というようなものが出てきたりします。そんな難問・悪問・奇問・出題ミスっぽいものを集めた本が「絶対に解けない受験世界史」です。

絶対に解けない受験世界史 | 総合書籍出版 社会評論社

http://www.shahyo.com/mokuroku/culture/sub_culture/ISBN978-4-7845-1101-3.php

なぜこの本が作られたのかについて、裏表紙に「問題を解くことに膨大な勉強時間を費やしてきたからこそ、どうがんばっても解けない問題を出すのは出題側の不始末だ」とゲーテ(2009〜2014)の言葉が引用されています。



本の装丁は赤本風なのですが、よく見ると「大学入試問題問題シリーズ」。「大学入試問題」の「問題」を集めています。



帯を取ると表紙の女の子がスクール水着姿に。さらに表紙裏にも秘密が隠されています。



中身も赤本風。大学入試で「悪問」「奇問」と呼ばれるような問題が出ているのは1990年代から続く問題で、2000年には「悪問だらけの大学入試―河合塾から見えること」が出版されています。受験世界史研究家の稲田義智さんは、問題が騒がれなくなったのは「単純に世間が興味を失っただけなのではないか」ということで、改めて現状について記録しておくことを目指して本書を執筆したのだそうです。



目次。年度の新しいものから、大学別に問題がまとめられています。



たとえば、2014年度の上智大学の問題は正しい記述を5つの選択肢から選ぶ、というもの。a・c・dは除外できて、bかeが正解。「赤本」が正解としたeには時系列の間違いがあるため、消去法だとbが答えとなります。しかし、これもまた解釈次第でなんとか、というところがあるので「悪問」に分類されています。



こちらは2014年度の慶応大学の問題。受験世界史の範囲内では答えの候補はエグバートかアルフレッド大王の2人までしか絞れないため、「難問」に分類されています。



上智大学の問題で、写真を見てムスタファ=ケマルを選ぶというもの。



これが「難問」に分類された理由は、問題に使用されているケマルの写真はよく使われているものとは異なるため、消去法になってしまうということ。解説にもありますが、bはネルー首相は有名なので除けるとして、a・サダト大統領とd・パーレビ国王(パフレヴィー2世)は1970年代のニュースでよく登場した顔なので、年配の人の方が容易に解けた問題かも。



解説で指摘されている「黒板を使ってラテン文字を教えている」ケマルの写真はこれ。



「出題ミスに近い」という分類のものもあります。その理由は、問題文やリード文だけで答えが導けるというもの。



名古屋大学では、漢の高祖が白登山の戦いで匈奴に敗北したときに交わした約束についての問題を出題。しかし、これは教科書や用語集に出てこないものを答えさせる問題なので、受験生にとっては相当の難問。



さらに「悪問」が続きます。問題文中に書かれた「紀元前2−1世紀」という表記を「紀元前2世紀から紀元前1世紀まで」と受け取るか「紀元前2世紀から(紀元後)1世紀まで」と受け取るかで解答が変わってくるため、本書ではこの前の問題2つと合わせて「切腹級」と表現しています。



本書の中には問題だけではなくコラムも掲載されています。



ローマ帝国初代皇帝アウグストゥスの出生名である「オクタヴィアヌス」は現在、ラテン語のVを清音で読むようになっているので「オクタウィアヌス」表記になっている、といった情報も。



なお、2014年度の「最優秀賞」と評されたのは慶応大学経済学部の問題で、冷戦下の東西陣営が色分けされた地図を見て年表中のどの時期かを選ぶというもの。ベトナムが南北に分かれていること、イラクとキューバが西側に色分けされていることから答えを絞ることができるのですが、ソ連が解体済み(1991年)だったり、ユーゴスラヴィアが分裂(2003年)していたりと、細かいところまで見ると「そんなことになった時期はない」という地図になっています。



絶対に解けないと言われると挑戦したくなりますが、読み物としても面白い一冊です。価格は2200円(税別)。

Amazon.co.jp: 絶対に解けない受験世界史 (大学入試問題問題シリーズ): 稲田義智: 本

http://www.amazon.co.jp/dp/4784511016