年収1000万円"貯蓄ゼロ世帯"2割超の謎

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日本経済はこれからどうなるのか。そして、その先行きは私たちの家計にどんな影響を与えるのか。2人の有識者が4つのテーマについて徹底解説する。第1回は「給料」について――。

▼年収1000万円でも2割が貯蓄ゼロ

■年収が上がると生活が苦しくなる、という統計データ

日本経済の景気回復はこのままいけば、“戦後最長”を更新する見通しだとされる。日経平均株価は高値圏で推移し、上場企業の業績拡大も続く。だが、一向に実感が得られない。しかも、2018年度の税制改正により、年収850万円を超える会社員は20年1月から増税の対象となる。「年収1000万円あっても、裕福な暮らしとは言いがたい。むしろ、身の丈以上の支出をし、生活が苦しくなる可能性が高い」。

こう指摘するのは、経済評論家の山崎元氏だ。国税庁の「民間給与実態統計調査」(2016年)によると、年収1000万円を超える人はわずか4.2%にすぎない。その数少ない年収1000万円世帯ですら「“上流”とは言えない」(山崎氏)と言うのだから、絶望的だ。

「所有することが社会的なポジションを表現する財産を『地位財』と呼びますが、この扱いが厄介です。たとえば、広くて立派な家は住人の経済力をアピールするし、自動車や高級時計、高級な衣服、子どもに与える教育によって地位が示される場合もあります」(山崎氏)

年収1000万円以上にもかかわらず、貯蓄がまったくない世帯は約2割にも達する。

「ほとんどの人は地位財にこだわるのはくだらないと頭ではわかっています。でも他人の地位財に影響を受けてしまう。こうした人間の本性とも言える衝動に抗えるかどうかが、今後の人生の幸福度を左右します」(山崎氏)

18年の春闘では、「3%賃上げ」が実現するかどうかが争点になっている。企業の業績が好調ならば、給料にも反映されると期待したいところだが。

「ほかの条件を一定とすると、株価が上がるほうが、給料は上がります。ただし、今の相場は企業が人件費を抑えて利益を増やし、自社株買いを行うことに支えられている側面がある。もっとも、人手不足が続けば、給料が押し上げられる可能性は十分あります」(山崎氏)

■金を稼ぐよりも、いかに満足感を得られるか

厚生労働省によると、17年12月の有効求人倍率は1974年1月以来、およそ44年ぶりとなる高水準をマークしている。人員確保のため、最も手っ取り早いのが給料の増額なのである。

「ただし、人工知能や技術の進歩により、格差は広がる一方です。多少給料が上がっても生活は楽になりません」(山崎氏)

それでは、八方塞がりはどこまで続くのか。

「率直に言って先行きはますます不透明です。確実に言えるのは、価値観が多様化し、世界の潮流は統合から分散へと向かっていること。これまでは『金を稼げるかどうか』が非常に重要な位置を占めていました。しかし、30年後には稼ぐことより、満足感を得ることに対するプライオリティが高まっている可能性もあります」

こう解説するのは大和総研のチーフエコノミストの熊谷亮丸氏である。

「短期的にはお金にならなくとも、“やりたいこと”を優先する。世界的な潮流もこうした姿勢が重視されつつあることは認識しておく必要があります」(熊谷氏)

だが、先立つものがなければ、手も足も出ないというのも多くのサラリーマンが抱える“今そこにある危機”だ。

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山崎 元(やまざき・はじめ)
経済評論家
1981年、東京大学経済学部卒。楽天証券経済研究所客員研究員、マイベンチマーク代表取締役。共著に『難しいことはわかりませんが、お金の増やし方を教えてください!』など。
 

熊谷亮丸(くまがい・みつまる)
大和総研常務執行役員チーフエコノミスト
1989年、東京大学法学部卒。日本興業銀行調査部などを経て2007年大和総研に入社。共著に『この1冊でわかる 世界経済の新常識2018』など。
 

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(ライター 島影 真奈美 撮影=岡田晃奈 写真=iStock.com)