これはセントラルMFとSBあるいはウイングの斜めのパス交換を軸として、(1)外から中への戻しのパスをダイレクトで前線に送り込み一気にフィニッシュを狙う、(2)外での数的優位を活かしてサイドをえぐりクロスを折り返す、という2つの形で決定機を作り出そうという意図からだ。
 
 しかし、(1)はすでに相手にパターンを読まれて中央のパスルートを潰されているうえ、2トップが連携した動きでDFに揺さぶりをかけることもないため、試みることすらできない。必然的にサイドからの攻撃に頼るも、攻撃が単調になり相手にはね返されて終わりという繰り返しだった。
 
 スペイン戦では前半に一度、ベロッティがニアサイドでヘディングシュートに成功した以外、決定機らしい決定機はほとんど作れず、イスラエル戦でもチャンスは何度か作ったとはいえ相手を崩し切る場面は皆無。インモービレの決勝ゴールも、CKの二次攻撃から力ずくでねじ込んだものだった。
 
 ヴェントゥーラ監督はスペイン戦後のインタビューで、中盤の構造的な数的不利を解消しなかった理由について尋ねられ、次のように応えた。
 
「我々はひとつのやり方に取り組んでいる。ひとつの試合がすべてを変えることはない。問題はむしろ我々がどんなサッカーをするか、したいかにある。まずはこの試合を分析して、そこから一歩前進していこう」
 
 しかし、ここまで見てきた通り、イスラエル戦でもスペイン戦で露呈した問題は解決されないままだった。イタリアのマスコミでは、4-2-4というシステムを槍玉に挙げる声も少なくなかった。しかし、問題はシステムを変えればそれで解決するほど単純ではない。
 
 ワールドカップ予選から指揮を執るヴェントゥーラ監督は就任直後、前任のアントニオ・コンテ(現チェルシー監督)から引き継いだ3-5-2を基本として戦い、今年の春からシステムを4-2-4に切り替えている。しかし、この2試合で改めて露呈したチームとしての欠点は、3-5-2で戦っていた昨秋の時点ですでに表れていたものだった。
 
【徹底分析】弱小マケドニアにも大苦戦…アッズーリ新監督の戦術は時代遅れ?
 
 ヨーロッパの最前線では、クラブレベルではもちろん代表レベルにおいても、ハイプレスによる即時奪回を狙ったゲーゲンプレッシング、そうでなくとも予め決めたゾーンまでボールが入ってきたところからはアグレッシブかつ組織的なプレッシングを発動するインテンシティーの高い戦い方が、もはやスタンダードになってきている。
 
 ドイツやスペインのような世界トップクラスのチームは、それをテクニカルなボールポゼッションと組み合わせ、常に主導権を握って敵陣で試合を進めるスタイルをすでに確立し、ほぼすべての相手に対して技術的にはもちろん戦術的にも優位に立って戦っている。
 
 ヴェントゥーラ監督のアッズーリは、そうした最先端のスタイルに対して耐性が低いだけでなく、技術的な不利をインテンシティーでカバーしようとするイスラエルのようなチームに対しても、弱点を露呈しているのが現状だ。
 
 つまりこれは、システムやフィジカルコンディション(これもエクスキューズのひとつに使われた)ではなく、指揮官が掲げるサッカーのコンセプト自体が、すでに乗り越えられて“時代遅れ”になっている可能性も否定できないということ。タレント力で見劣りするいまのイタリアが世界トップレベルと互角に戦うには、戦術やチームスピリットで相手を上回るしかないと、コンテ前監督が率いたEURO2016で実証されている。
 
 過去14回連続で得ているワールドカップ出場権はイタリアにとって“当たり前”以前の問題であると考えられているが、それを手に入れるためには、予選の残り2試合(アルバニア、リヒテンシュタイン)を経て、11月に行われるプレーオフを勝ち上がる必要がある。
 
 その相手がどこになるかはまだ不確定だが、北アイルランド、ボスニア・ヘルツェゴビナ、トルコ、アイスランド、スロバキアなど、簡単には勝たせてくれない中堅国が相手になりそうだ。はたしてヴェントゥーラ監督はそれまでに、戦術的なレベルで、あるいはさらに上位のコンセプトのレベルで、チームに何らかの修正を施すことができるだろうか。
 
文:片野道郎
 
【著者プロフィール】
1962年生まれ、宮城県仙台市出身。1995年からイタリア北部のアレッサンドリアに在住し、翻訳家兼ジャーナリストとして精力的に活動中だ。カルチョを文化として捉え、その営みを巡ってのフィールドワークを継続発展させている。『ワールドサッカーダイジェスト』誌では現役監督とのコラボレーションによる戦術解説や選手分析が好評を博す。ジョバンニ・ビオ氏との共著『元ACミラン専門コーチのセットプレー最先端理論』が2017年2月に刊行された。