by Stefano Pepe

これまで多くの心理学者らは「人が自分自身にウソをついてだます理由」について、「モチベーションを上げてより高い成果を上げるため」、あるいは「自分を過大評価して気分をよくするため」だと考えてきました。しかし、新たな研究では、「人が自分自身をだますのは他人をより効果的にだまして社会的利益を得るため」ということが主張されています。

Self-deception facilitates interpersonal persuasion

http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0167487016301854

Self-Deception Helps Us Accomplish Goals | Psychology Today

https://www.psychologytoday.com/blog/intimate-portrait/201703/self-deception-helps-us-accomplish-goals

Living a Lie: We Deceive Ourselves to Better Deceive Others - Scientific American

https://www.scientificamerican.com/article/living-a-lie-we-deceive-ourselves-to-better-deceive-others/



「人が自分自身をだますのは他人をより効果的にだまして社会的利益を得るため」という説は、1976年に生物学者のRobert Trivers氏によって初めて提唱されました。しかし、Trivers氏は理論家であるため、仮説は実証実験が行われないまま、2017年まで置き去られていました。しかし、心理学者のWilliam von Hippel氏がTrivers氏の説に興味を示したことで、40年の時をへて実験が行われることになったわけです。

今回行われた実験では、オンライン上の被験者306人が架空の「マーク」という人物について説得力のあるスピーチを書くように言われました。この時、被験者は3つのグループにわけられ、グループ1はマークを「好ましい人物」として書くようにと指示され、グループ2は「好ましくない人物」として書くように、グループ3は「マークについて抱いた印象そのまま書くように」と伝えられました。この時、スピーチに説得力があればあるほど、得られる報酬が大きくなることも説明されたとのこと。

次に、研究者らは、マークについての情報のソースとなるムービーを被験者らに見せました。このムービーのうち1つは、冒頭でマークをよい人間として描写し、徐々に悪い部分が見えてくるというもので、もう1つは反対に悪い人間として描写されていたマークが徐々によい人間として描かれるというものでした。

ムービーは任意のタイミングで視聴を中断できたのですが、マークを「好ましい人物」として描くように指示されたグループ1の人々は、冒頭でマークのよい部分を描写するムービーを見た時、冒頭で悪い部分を描写するムービーを見た人に比べて視聴を中断するタイミングが早いことが判明。つまり、これらの人々はムービーを最後まで見てマークの全体像を知ろうとすることはなかったわけです。結果として作成されたスピーチは、スピーチを聞いた人がマークについてよい評価をするような、ポジティブな面が強調されるものとなりました。また、同様の現象は「マークを好ましくない人物として書くように」と指示されたグループでも起こりました。



by Medieval Media

また実験では、被験者にスピーチを書いてもらうだけでなく、マークの実像を評価してもらったところ、「『好ましい人物として書くように』と指示された人々は実際にマークを好ましい人物として見ており、他人もそう評価していると考えている」というようなバイアスが見られたそうです。しかも、バイアスがかかっていればいるほど、被験者は説得力のあるスピーチを作成したとのこと。一連の実験から、目標は、人々が情報をどう受け取るかや、自分が何を真実として信じるか、そして他人の世界の見方を変えようとすること、などに影響を与えるということが言えます。

「興味深いのは、自分を信じ込ませることができれば、より効果的に他人を説得することができるように見えたことです」「私たちはバイアスのかかった状態で情報を処理し、自分を説得し、そして他人を説得します」とHippel氏は語っています。ただし、他人を故意にだまそうとすることと、自分が本当に考えていることで他人を結果的にだますことは違うとして、今回の研究結果に異論を唱える研究者も存在します。