一連のプレーは、まさに左ひざの不安が払しょくされたことで生まれたものと言っていい。細かく見ていけば、もっとメリットが生まれている場面は見つかるだろう。だが、これだけが“新生”たるゆえんではない。彼は万全の状態を取り戻したことで生まれる変化と進化をしっかりと見据えている。これまでも“11人目のフィールドプレーヤー”として存在していた西川だが、その範囲をさらに広めようとしているのだ。

「もっと守備範囲を広くして、他のGKがやっていないような、一つ先のことに取り組んでいきたい。ビルドアップに参加して、相手の背後をどんどん狙っていきたい。ドイツ代表の(マヌエル)ノイアー(バイエルン/ドイツ)のように『ゴール前にいるだけがGKではない』という時代になってきていますし、日本ではそういうスタイルを『西川がやっている』と言われるようにしたい。そういったプレーを浦和でも代表でも生かしていければ、チームのためになると思いますから」

[caption id="attachment_426388" align="aligncenter" width="800"]GettyImages-518005076シリア戦で味方へパスを繋ぐ西川 [写真]=Getty Images[/caption]

 左足に確実な手応えを感じる一方で、痛恨のミスもあった。3月の国内組合宿直前に行われた第2節ジュビロ磐田戦で、チームメートにつなごうとしたヒールパスを奪われて失点。これにはヴァイッド・ハリルホジッチ監督も目を留めたようで、西川に対して「ああいうプレーは気をつけたほうがいい。リスクを負うな」と苦言を呈した。その後、指揮官は代表メンバー発表の壇上で東口順昭(ガンバ大阪)の起用を明言。西川自身は「競争意識を持てというメッセージだと思う」とポジティブな姿勢を見せつつ、「確実なことは確実にやらなければ。それが監督からも要求されていることだし、ハッキリやることがチーム全体のメッセージとしても重要。つなげる自信があるなら、しっかりつながなければいけない」と反省の弁を口にした。磐田戦以降の2試合を無失点に抑えた西川は24日のアフガニスタン戦で東口にスタメンの座を譲りながら、出場機会を取り戻したシリア戦で明確なプレーを徹底。自らが代表チームで果たすべき役割を再確認し、攻守に抜群の存在感を見せて“新生・西川周作”をアピールした。

 今回の3月シリーズでは南アフリカ、ブラジルとW杯2大会でゴールを守った経験を持つ川島永嗣(ダンディー・ユナイテッド/スコットランド)が代表復帰。再合流した川島に加えて東口への評価も高く、林彰洋(サガン鳥栖)もスケールの大きいプレーで虎視眈々とその座を狙っている。日本代表の正守護神争いはまさに激化の様相を呈してきた。

 だが、西川にも2015年後半戦で日本代表のゴールにカギを掛け続けてきた自負がある。浦和で幾度となく目前でタイトルを逃してきた悔しさも頭を離れない。だからこそ新シーズンに懸ける思いは人一倍強い。「チームとしても個人としても今年は勝負の年。今まで以上に強い気持ちでやらなければいけない」と覚悟を固める。その第一歩こそが今回の左ひざ関節遊離体除去手術だった。

 彼にとって日本代表の立ち位置は「やっとスタートラインに立ったところ」でしかない。「まだまだこれからですよ。もちろん満足なんてしていないし、強い相手に対して自分の力を試したい。もっともっと活躍したいですから」。9月から始まる最終予選に向けて、ハリルホジッチ監督は各選手に所属チームでのレベルアップを求めている。中でも多くの代表候補が在籍する浦和への注目度は当然ながら高くなる。西川自身も「監督はJリーグをかなり見ていますし、特にレッズの試合はすごく見に来ている印象がある。『そこでしっかりプレーをしないと、代表でもプレーできないぞ』というメッセージはすごく伝わってくる」と感じている。チームで結果を出すことが日本代表にもつながる。当然ながら周囲の期待は自然と大きくなるだろう。

 だが、新しく生まれ変わった西川周作の可能性に最も期待しているのは、ハリルホジッチ監督でも浦和サポーターでもない。他ならぬ、彼自身だ。

「今シーズンは自分自身に対して今まで以上に期待していますし、身体の状態が良ければチームをもっと救えるんじゃないかと思います。それをピッチ上で示していかなければならないという責任もある」

 “新生・西川周作”としての日本代表デビュー戦で、その可能性は十分に披露した。「これからは何でもできる西川でいきたい。試合には練習では得られないものがあるし、ようやくフィーリングが上がってきたので、これからどんどん手応えを感じていけると思う」と語る“笑顔の守護神”は、今後いかなるバージョンアップを見せてくれるのか。西川の細かなプレーや狙いどころに注目していけば、その明らかな違いが必ずや見て取れるはずだ。今は彼が遂げていくであろう“新生”からの“進化”が楽しみで仕方がない。

文=青山知雄