サンドラッグ/1957年、東京都世田谷区に創業。97年の上場以来、増収を続ける。営業利益は業界トップ。写真は川崎駅前大通り店。壁を隔ててすぐ隣には業界首位のマツキヨがある。

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ドラッグストアは、この10年で約2倍、6兆円に拡大した巨大市場だ。数少ない成長分野「健康市場」をめぐる戦いの実相に迫る。

首都圏の表玄関の一つ、川崎駅。人口約145万人の大都市で、東京に通勤・通学する“川崎都民”も多い。この駅前商店街に2店舗を構えるのが業界2位のサンドラッグ(サンドラ)だ。

「ウチの品揃えは、近くの銀柳街店(ぎんりゅうがいてん)と一緒に考えています。向こうは若い女性客が多いので化粧品が充実。こちらは高齢のお客様も多く、OTC(一般用医薬品)の対面販売も重視しています」

川崎駅前大通り店・店舗運営責任者の中村大輔さん(34歳)はこう話す。

サンドラは店長が2人の「2ライン制」を敷く。登録販売者の中村さんは店舗運営を任され、薬剤師の稲島大志さん(38歳)が商品販売の責任を担う。

すぐ隣に業界首位のマツモトキヨシ(マツキヨ)が店を構え、パチンコ店を隔てて同4位のツルハドラッグ(ツルハ)もある。5位のココカラファイングループのセガミや地元薬局も軒を連ねる。超激戦区でサンドラがめざすのは、社員中心のきめこまやかな接客だ。

「たとえば下痢止めの薬を求めるお客様は多いですが、下痢は止めないほうがいいときもある。症状を聞き、疲れが胃腸にきていると判断すれば、下痢止めでなく整腸剤を勧めます」(稲島さん)

「商品の種類も価格も隣のマツキヨさんと大差がないので接客勝負」と中村さんも続く。対面販売に力を入れる同店では、店舗スタッフ12人のうち10人が社員と、極めて社員構成率が高い。退社後は近くの居酒屋でビールを飲みながら意見交換するのが2人の日課だ。「競合が多いことがやりがいにつながる」と、激戦区での勝ち抜きに意欲を示す。

少子高齢・人口減少の時代で小売り業界が縮小するなか、ドラッグストアは右肩上がりの成長市場だ。協会会員企業の年間売上高は5兆9408億円(2012年度。日本チェーンドラッグストア協会調べ)。21世紀の12年間で2.2倍に急拡大した。

ちなみに国内百貨店は約6兆1453億円(12年度。日本百貨店協会調べ)、スーパーマーケットは約12兆4631億円(同年度。日本スーパーマーケット協会調べ)だが、長期トレンドで数字は落ち込む。

ドラッグ市場の伸びにしたがい、大手各社も時にM&Aをしながら売り上げを拡大した。マツキヨを筆頭に、年間売上高3000億円超が7社を数える。それ以下でもカワチ薬品(同2317億円)などが下克上を狙う、戦国時代が続く。

戦国武将である各社の経営者も、もともと小豪族(小さな薬局店の主人)だった例が多い。本拠地は首都圏が多いが、愛知県のスギHD(スギ)、北海道のツルハHD、福岡県のコスモス薬品(コスモス)といった地方勢も虎視眈々と天下を狙う。

首都圏各社のうち、13年4月にセイジョー、セガミ、ジップドラッグなどが合併したココカラファイン(本社・神奈川県横浜市)は、合併前の各社の強みを生かして医薬品、化粧品にも力を注ぐ。

そもそも業界関係者以外には、ドラッグストアのビジネスモデルがわかりにくいかもしれない。基本は洗剤やトイレットペーパーなどの日用品・雑貨、そして食品を安く販売してお客を呼び込み、医薬品と化粧品の販売で利益幅を高めるのが一般的な手法だ。

医薬品には、医療用医薬品と一般用医薬品(OTCとも呼ばれる大衆薬)がある。薬事法改正により新設された登録販売者は、大衆薬の第1類、2類、3類のうち、2類と3類を販売できる。

一方、医師の処方せんに基づいて医療用医薬品を調合するのは薬剤師で、薬剤師は1類も販売できる。

小売りの規制緩和が進み、さまざまな酒類も販売できるようになった。かつてはペットボトル飲料が目立った食品売り場も、品揃えが多様化。お客の来店頻度を上げるために、食品は魅力的な商材だ。

たとえばコスモスは食品の安売りと、「人口10万人商圏に10店」のドミナント戦略で九州を制圧。M&Aをせずに拡大してきた。食品比率が全売り上げの5割を超え、地域の食品スーパーの役割も担う。この手法を武器に本州進出を図る。

南の雄・コスモスに対する北の雄がツルハだ。グループ店舗数1090店のうち北海道・東北に約680店を持つ。近年は食品の売り上げ拡大に力を注ぐ。

北海道一の歓楽街・札幌すすきの――。この近くに「ツルハドラッグ南8条店」がある。医薬品や日用品も充実するが、食品売り場も広く、特に冷凍食品が際立つ。「この店は時間帯で客層が分かれます。午前中は近隣に住む高齢者で、午後は主婦や学生、夕方以降は帰宅途中のサラリーマンやOL。深夜は飲食店関係者が多い。きめこまやかな対応を心がけています」。

「ほんまにうまい ぜいたく焼売」(6個入り298円)を手にする伊藤文人店長(34歳)。和食チェーン店の運営会社から転職した。前職とは違い、品揃えの裁量を任されて自分の意見も言いやすい。その風通しのよさに満足している。

すすきので、コンビニ以外に深夜営業をする小売店は少なく、駆け込み購入先として喜ばれる。水商売系の客には、ビールのケース買い、精力剤も売れるとか。

ツルハHDの鶴羽樹社長は、出店戦略をざっくばらんに語る。

「長年、郊外型でやってきたが、最近は住民の都心回帰が進む。北海道は雪による弊害が多く、高齢者は雪かきも大変。郊外の一軒家から町なかのマンションに移る人も増えました。だから『もう郊外型はいらん』と言っている(笑)。もっと人が多い場所に店をつくらないと。南8条店はそのモデル店。駐車場もあるが、多くのお客様は自転車や徒歩で来られる。食品の売り上げ構成比も3割を超えました」

時間が空けば店を回るという鶴羽社長。「以前は『薬がおろそかになるから食品は広げない』と言っていたが、方針を変えた。働く女性も増えたので、手早く食事の用意ができる冷凍食品を充実させていく」。

(経済ジャーナリスト 高井尚之=文 小野達多志、川本聖哉、田辺慎司、永井浩、山口典利=撮影)