■廃部が決定的となったSAGAWAに、決意を持って立ち向かった横河武蔵野

大阪と合併してSAGAWA SHIGA FCとなる以前の佐川急便東京SCとかつて東京ダービーを戦った横河武蔵野FCが、SAGAWAに引導を渡した恰好になった。

前半はSAGAWAが圧倒的にボールを支配。いいリズムでトライアングルをつくって廻し、タテにスイッチを入れ、決定的なスペースに走り込んだフォワードにパスを出してシュート。ダイレクトパスを織り交ぜた攻撃サッカーは、J1のFC東京やJ2の京都サンガF.C.と方向性を同一にしたものだった。ただし、得点はセットプレーからの攻撃による1点のみ。いわゆる「流れの中」での追加点が奪えなかった。

後半は一転して武蔵野ペース。前半は引いてブロックを形成していた守備から一転、前からプレッシャーをかける守備でSAGAWAの攻撃を封じてしまう。前半の大部分をトップ下でつないでいた山根伸泉が下がったこともあり、つなげなくなったSAGAWAを押し込み、まず天皇杯でFC東京撃破の立役者となった岩田啓祐が、右サイドのクロスに華麗に合わせて同点。さらにこぼれ球を押し込む追加点があり、武蔵野が1-2の逆転で勝利を掴んだ。

前述の天皇杯を含め、じっくりとがまんして後半や延長戦、PK戦にかけるサッカーに、今夏から移行した武蔵野。その忍耐強さが後半に花開いた。前半がオーバーペースだったのか、足が止まってしまったSAGAWAとは対照的に根性で走りまくり、「旧東京ダービー」最後の1勝を手にした。

SAGAWAは今季限りでの廃部、解散が決定的となっている。その彼らに対して「ある決意」をもって立ち向かっていったことを、試合後、武蔵野の依田博樹監督は語った。
「きょうも握手させていただきましたけど、彼らがJFLをこの何年間か引っ張ってきたのはまちがいない。ミーティングの前には、選手たちに“きょうが引き継ぎの場になればいいな”という話をしました。
“JFLの門番”と呼ばれたチームがひとつ減るというのは──ぼくらクラブチームと企業とではまたちがうかもしれないですけれども、仕事をしながらサッカーをしているという意味では、同じ境遇に立っているチームだと、ぼくらは思っているので。そういうチームがひとつ減るというのは、同じ立場で戦っている、Jをめざすチームを倒していくというところでいくと、残念ですね。やっぱり。
そういう意味では、きょう佐川に勝って“JFLには俺らがいるぞ”というところを示せればいいねという話をしました。ほんとうにリスペクトして選手を送り出し、戦いました」

■武蔵野の敬意と決意が、熱戦を生み出した

こう言っては失礼だが、武蔵野の敬意と決意があったからこそ、意外な熱戦となったのではないだろうか。

武蔵野は天皇杯こそ勝ち進んでいるもののリーグ戦は10位と、優勝にも降格にも関わらないポジション。3位のSAGAWAも優勝は不可能となり、2位浮上しか目標がない。今季限りでの廃部が、高い集中力に結びつく可能性はあるにしろ、平凡な試合になる可能性もあった。

しかしSAGAWAはJFL屈指の攻撃力で武蔵野陣内を脅かし、武蔵野は門番の称号を継承する覚悟で対峙した。
前半に大沢朋也のゴールがオフサイドで取り消されたときにはSAGAWAベンチが烈火のごとく怒った。いっぽう武蔵野も後半、PKを認められなかった際に口角泡を飛ばして抗議した。両チームとも本気だったのだ。優勝争いや残留争いとは別の次元で、この試合にかけていた。

逆転弾はこぼれ球を押し込んだものだったが、武蔵野が同点に追いついた岩田の1点は目の覚めるようなビューティフルゴール。それを生んだ源は、武蔵野イレヴンの共通認識にあった。
「誰かに預けてそこから前にはたいていったんですけど。いまチームとして、パスを出したらとにかく前に走ってスペースをつくるだとか、そういった大きな動きを入れて相手のマークをつけないようにと、みんなが出して動いて、出して動いてを繰り返している。そのおかげで相手のマークがずれて、空いたスペースにぼくが走り込み、すばらしいセンタリングが上がってきて、うまく合わせられた」(岩田)