図2:少年事件の手続きの流れ

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実際に事件を起こした少年は、どのようなプロセスで保護されるのか。

まず、事件を起こして警察に身柄を拘束された犯罪少年は、家庭裁判所へ送られる(図2参照)。非行事実が軽微で、再犯の恐れがないと判断された場合(簡易送致)も含めて、全件が家裁に送られる(14歳未満の触法少年は、家庭裁判所ではなく児童相談所に通知され、必要に応じて家裁に送致される)。

犯罪少年の事件が全件送致されるのは、少年法が健全育成を目的としているからだ。非行事実がそれほど重大でなくても、要保護性があれば、少年の健全育成を邪魔している問題を明らかにして対応する必要がある。まずはそれを探るため、すべて家裁に送るのだ。

家裁では専門の調査官が、少年の生活歴や家庭環境などについて調査を行う。調査官は心理学や教育学などの見識を持ち、少年本人や親はもちろん、他の家族や学校、勤め先などにも必要に応じて面談を行い、行為の原因や更生の可能性などあらゆる観点から情報を収集する。その報告結果を受け、裁判官が審判を開始するかどうかを判断。審判が開始されれば、少年の非行事実と要保護性を考慮したうえで処分を決定する。この間、少年は少年鑑別所に収容されることもある。

少年の保護処分には、保護観察や少年院送致などの種類がある。少年院に送られた場合、収容期間は原則的に20歳まで。家裁の決定によってはそれを超えて収容することも可能だが、11カ月程度のプログラムを組んでいる少年院が多く、通常は1年前後で仮退院し、保護観察となる。

結果が重大な事件については、家裁が検察官に事件を送り返すこともある。これを「逆送」という。逆送されると、成人の事件と同じように刑事事件として扱われ、起訴されれば裁判所で裁判が行われる。その結果、実刑判決が出れば少年刑務所に収容されることになる。しかし、逆送されたからといって量刑まで成人と同じになるわけではない。18歳未満は死刑がなく(※注1)、成人なら無期刑のケースでも10年以上15年以下の懲役になる。

(※注1):死刑が確定した山口・光市母子殺害事件(99年)のケースは、少年の犯行当時年齢は18歳だった。

■世間を震撼させる重大事件の発生が「厳罰化」を促す

少年事件の流れは以上だが、終局決定したなかで実際に逆送されたのは、10年のケースを見るとわずか0.6%。ほとんどの少年が審判不開始、不処分になっている。この数字を見ても、ほとんどの犯罪少年が国の育て直しが必要ではないとされ、必要な場合でも、逆送までは必要ないと裁判官が考えていることが読み取れる。

もちろん、少年の保護を優先するという点について、これまで批判がなかったわけではない。むしろ少年法の歴史は、厳罰化を求める世論とのせめぎあいの歴史だったといえる。後藤教授が解説する。「1949年に施行された少年法は、世間の注目を集める少年事件が起きるたびに処分の在り方の見直しを迫られました。大きな契機となったのは、97年に起きた神戸の連続児童殺傷事件(犯行当時14歳の中学生が児童2人を殺害、3人に重軽傷を負わせた。被害児童の頭部を切り取るなど猟奇性が注目を集めた)。

当時の少年法は、16歳未満の少年に刑事責任を問うことができませんでした。神戸の事件をきっかけに、この年齢層の少年でも刑罰を科して罪を自覚させるべきだという声が高まり、00年の改正で刑事罰対象年齢が16歳以上から14歳以上に引き下げられ、16歳未満でも逆送が可能になりました。また従来は結果が重大でも逆送されないケースが多かったのですが、16歳以上の少年が故意で被害者を死亡させた場合、原則的に逆送する規定ができました」

さらに厳罰化を進めるきっかけになったのが、03年の長崎幼児殺害事件(犯行当時12歳の中学1年生が、4歳の男児を誘拐・殺害)と04年の佐世保同級生殺害事件(小学6年生の女子児童がカッターナイフで同級生を切り付け、死亡させた。現場は学校内だった)。「どちらも14歳未満の触法少年が起こした事件であり、刑事責任を問うことはできません。そのため警察が強制捜査を行えず、事件の調査が不十分になる可能性があった。そこで07年の改正で、14歳未満の少年に対する警察官の調査権限を強化。身柄拘束以外の強制的な調査を可能にしました。また、従来は14歳以上だった少年院収容可能年齢を『おおむね12歳以上』に引き下げ、少年が小学生でも犯罪少年に近いかたちで調査をしたり、少年院に収容したりすることができるようになりました」(後藤教授)

(村上 敬=文)