■歴代三冠馬との“ある嫌な違い”

 過去10年で、菊花賞(GI)に三冠達成がかかった例は3度ある。2003年のネオユニヴァース、05年のディープインパクト、それに06年のメイショウサムソンで、達成できたのはディープインパクト一頭のみ。

 今年、史上7頭目の三冠達成を狙うオルフェーヴルは、春には圧倒的な強さで皐月賞(GI)とダービー(GI)を勝ち、秋初戦の神戸新聞杯(GII)も 2着に2馬身半差の完勝。ディープインパクトほどではなくても、強さや成長力、さらにはここまでの順調さという点で、ネオユニヴァースやメイショウサムソンよりは上という感じはするが……。三冠達成の可能性はどれくらいか?

「70%くらいでしょう」、こう語るのは『ダービーニュース』本紙担当の長谷川仁志氏だ。まずは「70%」のプラス面から見ていこう。長谷川氏によれば、その最大の根拠は、この世代におけるオルフェーヴルの圧倒的な強さ。それを証拠づけるのが、皐月賞以来、神戸新聞杯までの3戦での2着以下の馬たちとの着差だ。

 皐月賞は2着とは「勝負づけが済んだ」といわれる3馬身差で、ダービーは2着とは1馬身4分の3差だったが、2着と3着の間には7馬身差もあった。そして、そのダービーの2着馬ウインバリアシオンとの差は、前走の神戸新聞杯で2馬身半差にまで広がった。この3戦の圧勝劇は、もうひとつ別の見方からも評価ができる。

「スピードと瞬発力が求められる皐月賞を勝ち、不良馬場で持久力に加えて精神面のタフさが求められたダービーも勝ち、前走・神戸新聞杯は時計が例年より3秒も遅い超スロー。それを自ら前をつかまえに行って、さらに後続を突き放した。つまり3つの違うパターンの競馬で、3つとも他を寄せつけない強さで勝ったということで高く評価できます」(長谷川氏)

 さらに、秋初戦の前走では春よりパワーアップした姿を見せたし、血統的にも母の父メジロマックイーンは1990年の菊花賞を勝った名うてのステイヤー。3000mの距離にも不安はない。

 では、残り「30%」の死角はどこにあるのか? ひとつ目は、菊花賞はどの馬にとっても未知の距離で行なわれる長距離戦。故に、常に波乱や番狂わせの可能性をはらむということ。過去10年を見ても、単勝1番人気の馬が勝ったのは05年のディープインパクトと08年のオウケンブルースリの2回しかない。

 断然の1番人気というだけでなく、ここを勝てば三冠というレースで、主戦の池添謙一騎手にかかる極度の重圧も不安材料。さらに、歴代6頭の三冠馬とオルフェーヴルとの間の“ある嫌な違い”も。

「過去6頭の三冠馬は、三冠レースをすべて1番人気で勝っています。それは6頭すべてが早くからこの世代では圧倒的な評価を得ていたということ。ところがオルフェーヴルは、ダービーは1番人気でしたが、皐月賞は4番人気。その点で歴代の6頭とは違う。ただのジンクスかもしれませんが、嫌なデータです」(長谷川氏)


■メイショウサムソンの二の舞いになる?

 では、もしオルフェーヴルが負けるなら、どんなケースが想定できるのか。長谷川氏は三冠がかかったメイショウサムソンが敗れ、8番人気のソングオブウインドが勝った06年を例に挙げる。菊花賞がハイペースになったときに起こる波乱の典型パターンだ。

 このときはアドマイヤメインが前半1000mを58秒3のハイペースで逃げ、それを早めにつかまえに行ったメイショウサムソンがゴール前で失速し、その後方に待機していたソングオブウインドが一気の末脚で差し切った。菊花賞がハイペースになると、人気を背負った馬には時にこのような落とし穴が待ち構える。