国民が理解する前に成立「副首都構想」関連法案 あくまで維新のための法だというこれだけの理由
守られた維新との約束
150日以上も続いた通常国会の最後の最後で、「副首都構想」の関連法が7月24日、参院本会議で可決され、成立しました。当初の会期末だった17日までに成立させられず、審議時間を確保するために、国会会期が25日まで8日間延長され、最終的に総投票数244票のうち123票の賛成票という、まさに薄氷を踏むギリギリの差での可決でした。
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しかし、もう成立してしまったとはいえ、「副首都構想」を理解している人や、その必要性について考えをめぐらせた人は、あまりいないのではないでしょうか。というのも、「副首都構想」は日本維新の会の看板政策でしたが、維新以外に推している政党もなく、したがって、国民に向けてその必要性が広く説明される機会もなかったからです。

そんな法がにわかに、急ぎ足で成立させられたのは、高市早苗総理が維新との約束を重視したからです。2025年10月、自民党総裁選で高市氏が勝利したのち、公明党が連立を離脱。高市政権誕生に暗雲が立ち込めたそのとき、助け舟を出したのが維新で、高市氏と維新の吉村洋文代表は連立政権樹立の合意書に署名しました。高市総理はこの合意書の約束を守るために、今国会での成立にこだわったのです。
とはいえ、一般の国民にとっては「副首都構想」なんて、ぽっと出の案件。ふつうに考えれば、ていねいな説明を受け、そのうえで熟議する必要があったと思います。しかし、高市総理にとっては、総理の座につけさせてくれた維新との約束は、国民の理解を得ることよりずっと大事だったのでしょう。結果として、いまなお「副首都構想」について、必要かどうかを含めてなんのことやらわからない、という人が大半だという状況です。
法の中身に不思議な点が
「副首都構想」とは簡単にいうと、大規模な災害などが発生して首都機能が損なわれたときのために、その機能をバックアップできる副首都をもうけ、東京への一極集中を是正しようという政策です。日本維新の会は2023年にも関連法案を国会に提出しましたが、そのときは廃案になっています。
副首都の役割をもう少し細かく見ると、災害発生時に首都機能をバックアップする役割のほかに、災害の救助や復興を指揮する拠点となることが求められています。たとえば、九州や四国など西日本で大災害が発生した場合、東京よりも被災地に近い都市が、救助や復興のための司令塔になったほうがいい、という考え方です。また、東京への一極集中の弊害がずっと続き、相対的に地方都市が衰退してしまう、という指摘があります。そこで副首都を発展させ、それを地方の発展につなげよう、というわけです。
関連法が成立したといっても、まだまだ具体的なことは未定なのですが、副首都には国の出先機関が立地でき、経済や人口が一定規模で集積していて、必要な地方行政体制が整っていることなどが求められています。地方行政体制に関しては、東京23区のような特別区を整えるか、都道府県と政令市が連携協約を結ぶことが想定されています。例を挙げれば、福岡県が政令市の福岡市や北九州市と連携協約を締結する、というようなかたちです。
こうして副首都に指定されると、国から予算がたっぷりつけられ、東京と並ぶ経済圏として投資も呼び込める、と考えられています。
ただ、法の中身を見ると、いろいろと不思議な点も見つかります。副首都は、首都直下地震や富士山の火山災害で大きな被害を受けない地域であることが条件とされています。しかし、今後30年以内の発生確率が80%程度とされる南海トラフ地震の被害については、条件とされていません。なぜでしょうか。これについては、「維新が副首都法案にこだわったのは、大阪都構想を実現するため。南海トラフ地震が発生すると大阪でも大きな被害が想定されるため、あえて条件から外したのではないか」という指摘が、多くの人からなされています。
維新に報いるために国を売った
いずれにしても、なぜいま急に副首都法案なのか、よくわかりません。たしかに、東京で大災害が発生したとき、バックアップしてくれる都市があったほうが、いいことはいいかもしれません。しかし、その場合は、地域ごとに災害が発生する可能性などを確認のうえ、バックアップできる場所の候補を綿密に検討する必要があったと思います。あらたに副首都をもうけるというのは、国の統治機構の根幹にかかわることなのですから、熟慮が必要なのは当然のことです。
災害は待ったなしなので急ぐ必要があった、というのが、今国会での成立にこだわった表向きの理由のひとつです。しかし、緊急性を言い出せば、なんでもそうです。それこそ、止まらない物価高を食い止めるための円安是正こそ、国民生活や国力の維持を考えたら、何倍も喫緊の課題のはずです。それなのに、そちらは置き去りにして生煮えの法案を強引に通したのは、通さなければならない別の理由があったからでしょう。
そもそも「副首都構想」自体、災害時のバックアップ機能が柱なのか、東京一極集中の是正と地方の振興が柱なのか、それすらよくわかりません。目的がひとつに定まっていない時点で緊急性は乏しく、内容をもっとよく検討すべき案件であったことは明らかだと思います。
結局、多くの人が指摘するように、「高市政権が発足できたのは維新のおかげなので、その恩に対する返礼だ」ということなのでしょう。実際、維新はこの法を、大阪府を廃止して特別区をもうける悲願の「大阪都構想」の実現につなげようとしています。
副首都に選ばれれば、前述のように多額の予算がつくことは目に見えています。言い換えれば、副首都ができれば、あらたな財源が必要になります。大阪を副首都にして、たくさんの国費を注ぎ込んでもらって、地元の経済を潤わせたい、というのが維新のねらいだとしたら、野党などが指摘したように「我田引水」もはなはだしいといえます。そうした維新の目論見の実現を優先した高市総理も、自分を総理の座に就かせてくれた維新に報いるために国を売った、というそしりは免れないように思います。
国民のためではなく大阪のための構想
維新にとって「副首都構想」関連法案が、「大阪都構想」を実現するためのお膳立てであったのは、法が成立したのちの吉村代表の発言からも明らかです。
吉村代表は以前から、副首都指定に向けた特別区設置に関する投票、つまり「大阪都構想」への賛否を問う住民投票を、来春の統一地方選と同じ日に実施することをめざす、といい続けてきました。実際、地方選と同日に住民投票を行えば、選挙戦で候補者が「都構想」に賛成するように訴えることができますから、維新に有利だと見られています。
しかし、それでは維新にとっての我田引水がすぎるので、与野党が話し合って、「副首都構想」関連法案の採決にあたり、「住民投票と地方選挙が同日実施にならないように最大限調整する」という付帯決議をつけることで合意したのです。
ところが、可決されるとすぐに吉村代表は、「最終的に僕自身が投票期日を決める権限はありませんが、僕自身は(同日選を)めざしていきます」と、付帯決議を完全に無視した発言をしました。ここから維新とりわけ吉村代表が、国民のためでなく大阪のために、「副首都構想」をごり押ししたことがわかります。
要するに、「副首都構想」関連法とは、大阪に国費をたんまりと注ぎ込ませるための、大阪が本拠である日本維新の会の戦略だ、と言い切ってまちがいないと思います。どういう条件の都市が副首都としてふさわしいのか、などとていねいに検討していたら、大阪が選ばれる可能性はどんどん低くなってしまいます。だから、国民が「副首都構想」について熟慮する前に、なんとしても成立させてしまいたかったのでしょう。
ですから、私たちが「副首都構想」についてよく理解していないのは、当然なのです。ただ、ある法案が国民ためのものなのか、ほかのだれかのものなのか、ということを、これを機に私たちはよく考えるべきだ、という教訓にはしたほうがいいと思います。
香原斗志(かはら・とし)
音楽評論家・歴史評論家。神奈川県出身。早稲田大学教育学部社会科地理歴史専修卒業。著書に『カラー版 東京で見つける江戸』『教養としての日本の城』(ともに平凡社新書)。音楽、美術、建築などヨーロッパ文化にも精通し、オペラを中心としたクラシック音楽の評論活動も行っている。関連する著書に『イタリア・オペラを疑え!』(アルテスパブリッシング)など。
デイリー新潮編集部
