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高額な不動産取引は、仲介会社や司法書士など複数のプロが介在することで安全性が担保されている。それにもかかわらず、購入した物件に「売主の借金の担保(抵当権)」が残ったまま引き渡されてしまうという、信じがたいトラブルが発生している――。本記事では、陽なた法律事務所代表弁護士の松井竜介氏が、50代経営者の事例とともに、不動産購入の最終局面に潜む、見落としてはならない落とし穴を解説する。※個人情報保護の観点から、登場人物の情報を一部変更している。

「1億円の一棟マンション」を購入したが…

「これなら安定した収益源になると思ったんです」

法律相談に訪れたAさん(50代男性)は、年収約3,000万円。順調に事業を成長させている会社経営者であった。

将来を見据えた資産形成の一環として、不動産投資を検討することに。その際、紹介されたのが、自宅とは別エリアにある一棟マンションだった。価格は1億円。入居率は安定しており、表面利回りも魅力的である。周辺環境や賃貸需要を考えても、長期保有に適した物件に見えた。

仲介する不動産会社からは、「毎月安定した家賃収入が期待できます」「土地と建物を所有することで資産になります」「金融機関からの評価も問題ありません」といった説明を受けた。

納得したAさんは、売主Bさんとのあいだで売買契約を締結する。金融機関から融資を受け、売買代金1億円を支払った。Aさんは、「これで自分の資産になった」と考えていた。

しかし、その直後に顔面蒼白になる大問題が発覚する。登記簿を確認したところ、購入した物件には、売主の借入に関する抵当権が残ったままだったのだ。

「代金を払ったのに、なぜ?」…買主を襲った予想外のリスク

不動産を購入する際、多くの人は、「売買代金を支払えば、自分の所有物になる」と考えるだろう。しかし、不動産取引において重要なのは、単にお金を支払ったかどうかではない。買主が「不要な権利や負担のない状態で不動産を取得できているか」である。

「抵当権」とは、金融機関などが融資の担保として不動産に設定する権利のことだ。売主が銀行などから融資を受け、その担保として物件に抵当権が設定されている場合、通常は売却代金などを利用して借入を返済し、抵当権を抹消したうえで買主へ引き渡す。そのため、通常の不動産取引では、買主が抵当権の残った物件を取得することは想定されていない。

しかし、なんらかの事情で売主の借入返済が予定どおり進まなかった場合、問題が生じる。たとえば、

・売主側の資金繰りの問題

・金融機関との調整の遅れ

・関係者間の確認不足

などにより、借入返済と抵当権抹消の手続きだけが後になれば、買主は売買代金を支払ったにもかかわらず、登記上は抵当権が残った状態になる可能性がある。

つまりAさんは、1億円を支払ったにもかかわらず、「売主の借入の担保が付いた状態の不動産」を取得するリスクに直面したのである。もし売主がその後、金融機関への返済を継続できなくなれば、抵当権者は競売手続きを進めることが可能だ。最悪の場合、買主は取得した不動産について重大な権利リスクを抱えることになる。

決済時の確認体制が不十分だと…

不動産売買では、売主・買主・金融機関・仲介会社・司法書士など複数の関係者が関与する。高額な取引ほど、多くの確認作業を積み重ねることで安全性が確保されている。

しかし、下記のような事情が重なると、本来同時に進めるべき手続きにずれが生じることがある。

・売主が予定していた返済資金を準備できない

・金融機関との手続きに時間がかかる

・必要書類の確認が不十分になる

不動産取引では、「代金を払った」「契約が終わった」という事実だけで安心することはできない。重要なのは、「所有権移転と同時に、不要な権利が確実に消えているか」という点である。

追加で数千万円の出費…法的手段と現実的な限界

このような場合、買主が検討できる対応はいくつかある。

1.売主への責任追及

売買契約上、売主には抵当権などの負担を除去して引き渡す義務がある。そのため、契約内容によっては、

・契約不適合責任の追及

・損害賠償請求

・契約解除の検討

などが考えられる。ただし問題は、売主に資力があるかどうか。仮に売主が資金難に陥っていれば、裁判で勝っても実際の回収が困難になる場合もある。

2.抵当権者との交渉

金融機関など抵当権者と交渉し、

・借入返済による抵当権抹消

・条件調整

を進めるケースもある。しかし、これは買主だけで自由に解決できる問題ではなく、抵当権者との交渉ごとになるため、不確定要素が大きい。だからこそ、購入前や決済時の確認が重要になる。

1億円の投資で確認すべきは「利回り」だけではない。Aさんは、最終的に弁護士を通じて関係者との調整を進めることになった。

ひとまず抵当権者に、追加で数千万円の返済を行い、抵当権を抹消してもらった。その後、売主に責任追及をしようとしたが、音信不通となり、返済金の回収は現実的に困難という状況に。Aさんは、結果的にマンション自体は確保できたものの、予想外の出費となったことで、改めて痛感したという。

「物件の収益性ばかり見ていました。まさか権利関係で問題になるとは思いませんでした」

不動産投資では、利回り、賃料収入、立地などに注目しがちだ。しかし、本当に確認すべきなのは、「その不動産を、安全な権利状態で取得できるのか」という点である。

特に一棟マンションなど高額な投資では、

・登記内容の確認

・抵当権など担保権の確認

・決済時の手続き確認

・専門家による事前チェック

が不可欠だ。不動産投資における最大のリスクは、必ずしも空室や価格下落だけではない。1億円を投じたあとに、「自分の資産だと思っていた不動産に、第三者の権利が残っていた」という事態を避けるためにも、収益性だけではなく、権利関係まで確認する姿勢が求められる。

松井 竜介

陽なた法律事務所 代表弁護士