【分析】トランプ氏によるW杯トロフィー授与、どこが優勝しても気まずい空気になるのは必至か

(CNN)7月19日に米ニュージャージー州で開かれるサッカーの北中米ワールドカップ(W杯)決勝戦。どの国が勝ち上がるかに関係なく、トランプ大統領が試合後に優勝トロフィーを授与する場面では、気まずい空気が流れそうだ。
トランプ氏は、今大会に出場するある国との間で本物の戦争を遂行。他の多くの国々とは言葉による「戦争」を繰り広げてきた。また過去には多数の国の国民や指導者を侮辱した他、南米諸国の複数の選挙では影響力の行使を試みている。あらゆる国に関税を課しつつ、従来の同盟関係にもひびを入れた。背景には「米国第一」の外交政策を掲げ、世界秩序を作り替えようとする自身の取り組みがある。
米国が優勝する可能性は依然として低い。しかし代表チームはグループステージで圧倒的な戦いぶりを見せ、人々に「もしかしたら」という期待を抱かせている。とはいえ、仮に米国が優勝するなら、それはチームが擁する多数の移民系選手のおかげだろう。グループステージの2試合終了時点でチーム最多得点を挙げているフォラリン・バログンの母親はナイジェリア人だ。母親はバログンを妊娠して7カ月目のときにニューヨークを訪問したが、妊娠期間の長さを理由に帰りの飛行機への搭乗を拒まれた。その後ニューヨークで生まれたバログンは人生の大半を英国で過ごし、現在はフランス1部リーグのモナコに所属する。それでも米国代表でプレーできるのは、生得権としての市民権(出生地主義の市民権)を有しているからだ。
米国で生まれた人は誰でも米国民となる権利があり、それは合衆国憲法修正第14条によって保障されている。しかし現在、保守派が多数を占める連邦最高裁判所は、トランプ氏がその権利を無効にできるかどうかを審理している。もしトランプ氏の思いどおりになれば、バログンは米国ではなくナイジェリアかイングランドの代表としてプレーしていたことになる。
別の国が優勝したら…トランプ氏はイランとの戦争に踏み切った。イラン代表はW杯から排除されてはいないものの、期間中に追加の制約を課された。
スペインは有力な優勝候補と目されているが、トランプ氏はイランとの戦争に反対したスペインの外交方針を「ホラーショー」と非難。同国とのすべての貿易を打ち切ると脅した。オーストラリアもまた、イラン戦争を支援しなかったとしてトランプ氏が名指しで批判した国々の一つだった。もっとも実際のところ同氏は、有志連合の結成を模索することもなく、イスラエルと足並みを揃(そろ)える形で戦争を開始している。
また同氏と北大西洋条約機構(NATO)との気まぐれな関係には、西欧諸国の多くが神経をとがらせている。これらの国々はサッカー界の中心勢力に他ならない。
トランプ氏はかつて、NATO本部のあるベルギーの首都ブリュッセルを「悪の巣窟」と呼んだ。
ノルウェーについては「冗談みたいな国」 と評している。ノーベル平和賞を受賞できなかったことが理由だが、その代わりにW杯を統括する国際サッカー連盟(FIFA)は、独自の「平和賞」をトランプ氏に授与した。
フランスとドイツの首脳は、トランプ氏をなだめすかそうと以前から苦慮している。米国を孤立させないための対応だが、そうした中でトランプ氏の盟友たちは欧州の極右政党との関係構築に余念がない。
最近の英国首相の政治的失脚は、トランプ氏を喜ばせたようだ。英国北部のスコットランドにある自らのゴルフ場を巡る問題をきっかけに、トランプ氏は洋上風力発電などの再生可能エネルギーを貶(おとし)める構えを示している。
第1次政権時には中南米のハイチやアフリカ諸国を「肥だめのような国々」と呼んだ。2024年大統領選では、ハイチからの亡命希望者がオハイオ州民のペットを食べているという虚偽の陰謀論を広めた。現在、保守寄りの連邦最高裁は、米国での一時的な合法的滞在資格を持つハイチ人について、トランプ氏による強制送還を認める意向を表明している。
W杯の共同開催国であるメキシコとカナダに対しては関税や国境の壁、さらにはカナダの主権を奪うという脅しを繰り返しながら、揺さぶりをかけてきた。
パナマ運河はカーター元大統領の政権によってパナマへ返還されたが、トランプ氏はこれを取り戻したいとも考えている。
南米の政治に介入するトランプ氏は、友人関係にあるアルゼンチンのミレイ大統領を後押しするため、同国への金融支援を申し出た。米国はパラグアイとも友好的な関係にあり、報道によれば同国をデータセンタープロジェクトの有望な候補地と見ている。やはり友好関係を築くエクアドルでは、米軍が国内の麻薬摘発に関与している。
ブラジルには40%の関税を課し、友人のボルソナーロ前大統領の対立相手を罰した。ボルソナーロ氏はクーデター未遂の罪で禁錮27年の刑に服している。
今月行われたコロンビア大統領選では、極右野党を率いるアベラルド・デラエスプリエジャ氏を支持した。同氏はコロンビアと米国の二重国籍を保有。極端な接戦にもつれ込んだ決選投票の第1回集計で優位に立っている。
トランプ氏は大統領執務室(オーバルオフィス)で南アフリカの大統領と会談した際、同国で白人農民に対する「ジェノサイド(集団殺害)」が行われていると非難した。世界の大半の地域から米国への亡命の道を閉ざすトランプ政権だが、南アフリカの白人は歓迎している。
オーバルオフィスでの会談は、各国首脳にとってある種試練の場となっている。今年、高市早苗首相を迎えたトランプ氏は、真珠湾攻撃にまつわる冗談を口にした。
米国はガーナに対する方針を転換しているようだ。バイデン政権は現地の反LGBTQ法に反対していたが、トランプ政権は先月、ガーナで新たな法律が成立した際に沈黙を守った。この法律はLGBTQ当事者だけでなく、LGBTQを擁護する人々にも禁錮刑を科すことを含む内容だ。またセネガルで可決された同様の法律についてもトランプ政権はこれを非難せず、その結果、活動家の中からは米国を糾弾する声も上がっている。米国がアフリカの一部の国々で反同性愛的な風潮を助長する一因になっているというのがその主張だ。
コンゴ民主共和国ではエボラ出血熱が蔓延(まんえん)。これを巡り、トランプ政権2期目の初めに行った米国の対外援助削減を疑問視する動きが見られる。
サラエボの米国大使館は、欧州諸国との外交上の対立を受け、この地域における米国の役割を見直す可能性があると警告した。またトランプ氏の長男のドナルド・トランプ・ジュニア氏は、かつてボスニア・ヘルツェゴビナ政府から制裁を受けたことのある分離主義指導者を訪問してもいる。
連邦最高裁は退けたものの、25年にトランプ氏が広範囲に導入した「相互関税」は、ボスニア・ヘルツェゴビナや小国チュニジアに過度な圧力をかけた。
トランプ氏は、サウジアラビア王国と良好な関係を築いているが、同国は人権問題を抱える。一方でサウジを含む湾岸諸国は、スイスのジュネーブで行われている米国とイランとの交渉を懸念を持って見守っている。またトランプ氏が最近、中東のより多くの国々にアブラハム合意への参加とイスラエルとの国交正常化を呼びかけたことは一定の驚きを持って迎えられ、サウジアラビア、ヨルダン、エジプト、カタールに思わぬ圧力が加わる形となっている。
米国は広範な影響力を持つ超大国だが、トランプ氏流の外交政策は本人の優先事項や友好関係を映し出す一方、世界各地で気まずい状況を生み出してもいる。W杯を制し、その手でトロフィーを掲げられる状況で、そうしたことを気にする選手はそれほど多くはないだろうが。
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本稿はCNNのザカリー・B・ウルフ記者による分析記事です。
