『ライオンの隠れ家』と映画『愛がこわれるとき』に共通点 “事件”の真相が明らかに
「私が息子を殺しました」
参考:『ライオンの隠れ家』松本Pに聞くキャスティング秘話 「柳楽さんだからこそ成立した作品」
洸人(柳楽優弥)と会う約束をした遊園地で、ライオン=愁人(佐藤大空)の目の前で警察に連行された愛生(尾野真千子)。取調室で刑事の高田(柿澤勇人)に対してそう供述するのだが、もちろんこれが愁人を守るための嘘であることは視聴者全員が知っている。
ではなぜ、彼女がこのような嘘をつき、何から愁人を守ろうとしているのか。これまでのエピソードから大方察しがついているが、11月15日に放送された『ライオンの隠れ家』(TBS系)第6話で、この一連の「山梨県母子行方不明事件」の真相がようやく明示されることとなった。
洸人のもとに、Xのスマホから「最後の堤防」に来るよう連絡が来る。そこで待ち構えていた一台の車に乗り込むと、どこからともなく姿を現した謎の男X(岡山天音)は、自ら「ゆるぎ」と名乗る(この時点で、この名前がどういう字を書くのか不明であるためひらがなで表記させてもらう)。そして、愛生が夫の橘祥吾(向井理)のDVから逃れるため、ゆるぎにとある依頼をしたという話を聞かされる。それは自殺に見せかけて姿を消し、遠い街で別人として暮らす“偽装死”という選択である。つまりはこのゆるぎという男、いわゆる失踪請負人のような稼業をしているのであろう。
これでドラマの第1話の冒頭のシーンをはじめ、ミステリーとして機能していた部分――ライオンの正体、愛生の生死、Xが何者なのかと、愛生とXの関係性についてが一通り明らかになったといえよう。“偽装死”というキーワードが提示されたとなるとデヴィッド・フィンチャーの『ゴーン・ガール』を想起させられてしまうが、少なくとも夫側である祥吾が物語の中核ではない以上は別物であり、どちらかといえば新しい人生を歩み始めようとする愛生の方にフォーカスされる点で、ジュリア・ロバーツが主演を務めたジョセフ・ルーベンの『愛がこわれるとき』に近しいものを感じる。いずれにしても、順風満帆に丸く収まることがないのが“偽装死”という題材である。
その波乱のにおいを放つように、祥吾は愛生が逮捕され、かつ息子の愁人が殺されたという報道に際し、愁人の顔写真を公開。当然それは、洸人の元に工藤(桜井ユキ)たちがやってくるきっかけにもなる。さらに祥吾はクローゼットから愛生が小森家を訪ねた時に母・恵美(坂井真紀)と撮った写真を見つけ、さらに洸人や美路人(坂東龍汰)の写真も目にすることとなる。愛生が戻ってくるまで3人で笑顔で暮らすことを誓い合ってきた洸人たちと、彼らを支える牧村(齋藤飛鳥)や寅じい(でんでん)たちが形成する“安全なプライド”という隠れ家に、祥吾が介入する理由が生まれてしまったということだ。
ところで前回、牧村がX(もとい、ゆるぎ)から電話で言われた「見殺し」という言葉の意味も今回明らかにされた。彼女が保育士をしていた時代に担当していた、親から虐待を受けていた園児。牧村はその異変に真っ先に気付いていたにもかかわらずどうすることもできず、結果的にその園児は命を落としてしまったという。その償いのためにライオンを守ろうと行動していたと明かす牧村だが、「亡くなってしまった子とライオンくんは違う。償えない」と呟く。償いのためではなく、純然と目の前にいるライオンという一人の少年を救おうと動きだす牧村という“身内ではない者”の存在は、ライオンにとって非常に大きな支えとなるのではないだろうか。
(文=久保田和馬)