深圳日本人児童刺殺事件の犯行動機は「反日」ではなく「失業のイライラ」⁉

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突如舞い込んだ衝撃のニュース

「腹部を刃物で刺された日本人男児死亡」――9月19日午前、衝撃的なニュースが飛び込んできた。

前日9月18日の現地時間午前8時頃(日本時間9時頃)、中国広東省の経済特区・深圳(しんせん)にある日本人学校の手前200mほどの道路を、日本人母子が歩いていた。10歳の男児は、日本人学校の児童で、登校中だった。その時、44歳の男が刃物を持って近づき、突然、男児の腹部などを刺した。悲鳴を上げ、助けを求める母親。目撃者によると、男児は血だらけになって倒れ、男は「オレがやった!」と叫んだという。すぐに警察と救急車が駆けつけ、男を緊急拘束し、男児を病院に運び込んだ。

深圳には約3600人の日本人が在留していて、日本人学校(小学校・中学校)には、約270人の児童・生徒が在籍している。北京にある日本大使館は、同日、1回目の声明を発表した。

<9月18日(水)午前8時頃、広東省深セン(しんせん)日本人学校の児童1名が徒歩で登校中、男性に襲われ負傷する事件が発生しました。

容疑者は既に当局によって身柄を確保されましたが、本事件の背景等詳細は現在のところ不明です。

6月24日には蘇州で日本人親子が刺傷される事件が発生しており、この他にも中国各地で人の集まる場所における刺傷事件が発生しています。

外出の際は不審者の接近等、周囲の状況にくれぐれも留意し、安全確保に努めるようお願いいたします>

救えなかった幼い命

この声明にあるように、私も真っ先に思い起こしたのは、3ヵ月近く前に起こった蘇州の事件だった。やはり現地の日本人学校に通うバス待ちをしていた日本人母子が、52歳の男に刃物で襲われた。この時、母子は軽傷で済んだが、止めに入ったバスの案内係の中国人女性(54歳の胡友平さん)が、刺されて死亡した。

今回、北京の日本大使館では、夜になって金杉憲治大使が、記者団の前で異例の状況説明を行った。

「今年6月の蘇州の事案に加えて、今回こうした事件が起きたことは、本当に忸怩(じくじ)たる思いであります。東京で岡野(正敬)外務次官から呉江浩大使を招致して、強い申し入れを行いました。在留邦人の安全・安心というのが保証されなければ、日中関係の根本にも関わる話なので、中国側としてしっかり対応してほしい……」

だが、幼い命を救うことはできなかった。在広州日本総領事館の貴島善子総領事は、19日未明に男児が死亡したと報告を受けたという。同日午前、「非常に悲しく、ご家族の気持ちを思うと言葉で表せない。心より哀悼の意をささげたい」と、記者団の前で述べた。

相次ぐ声明発表

北京の日本大使館も、同日午前に2度目の声明を出した。

<9月18日(水)午前8時頃、広東省深圳(しんせん)日本人学校の児童1名が徒歩で登校中、男に襲われ負傷する事件が発生し、医療機関において治療が続けられておりましたが、19日未明、残念ながら逝去されました。心からお悔やみ申し上げます。

容疑者は既に当局によって身柄を確保されましたが、本事件の背景等詳細は現在のところ不明であり、中国側に情報提供を強く求めています。

6月24日には蘇州で日本人親子が刺傷される事件が発生しており、日本人が被害に遭う事件が相次いでいます。この他にも中国各地で人の集まる場所において刺傷事件が発生しています。

当館は各総領事館と連携しつつ、中国関係当局に本件への説明と邦人の安全確保、日本人学校の警備強化を強く要請しています。

引き続き、外出の際は不審者の接近等、周囲の状況にくれぐれも留意し、安全確保に努めるようお願いいたします。また、複数人で外出する等、特にお子さんを連れる場合は十分に対策をとるようご注意ください>

日本に恨みを持つ者の犯行

日本大使館及び領事館は、19日、哀悼の意を表して、半旗を掲げた。金杉大使も急遽、北京から約2200km離れた深圳に向かった。

この原稿を執筆している19日午後の段階で、分かっていることは少ない。だが、「中国における反日感情の高まり」と結びつけて報じている日本メディアには、いささかの違和感を覚える。

たしかに、今回の事件が起こった9月18日は中国にとって、1931年に満州事変のきっかけとなる柳条湖事件が起こった「国恥日」である。旧日本軍は、現・遼寧省都の瀋陽郊外の柳条湖で爆破事件をでっちあげ、それを理由に満州(中国東北地方)一帯を占領していった。

それから93周年にあたるこの日の中国でのトップニュースは、やはり柳条湖事件だった。瀋陽で「恥辱を忘れないための式典」がおごそかに挙行され、9時18分には瀋陽の全市民が自動車のクラクションを鳴らすなどして、恥辱を忘れない決意を新たにしたという。

さらにこの日の2番目のニュースは、李強首相が国務院常務会議を主催し、「烈士褒揚条例」を可決したというものだった。「烈士」とは、主に抗日戦争で命を落とした兵士のことを指す。彼らとその子孫を褒賞する条例を定めたのだ

こうしたことから、日本に恨みを抱く「愛国者」が、日本人を襲ったということを示唆する報道が、日本で散見された。

だが私は、違う見方をしている。「反日愛国者」などではなく、単に「行き場を失った失業者」による衝動的犯行の可能性が高いのではないか。それは、6月24日の蘇州の事件も同様である。

なぜ日本人が狙われるのか

蘇州の事件に関しては、もう少し犯人像を公開している。周という姓の52歳の無職の男で、職を探して田舎から蘇州に出てきて間もなかった。

現在の中国は、未曽有の経済不況に見舞われていて、若者から中高年に至るまで、街には失業者が溢れている。私も中国に4年、住んだことがあるので肌感覚があるが、人々のイライラ感はピークに達していると思われるのだ。

ではなぜ、日本人ばかり狙われるのか?

これには2つ考えられる。

一つは、中国人も同様に狙われているが、中国人が被害者となった事件は、中国当局が報道管制を敷いて、表に出さないようにしているのだ。だが被害者が日本人の場合、情報は統制できない。

もう一つは、いまの中国では、「反日無罪」のような風潮が生まれていることだ。刃物を手にした人間にとって、日本人を襲った方が罪が軽くなるという錯覚、誤解を生みやすい。

いずれにしても、わずか3ヵ月のうちに2度も同様の事件が起こるというのは、明らかに異常事態である。日本政府の厳しい対応を望む。

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