「薄いレースのカーテン越しに、年齢も性別もよくわからない細い人物がいて、カッと見開いた目で家の中をじっと見つめているんです」

 怖くなり、奥の部屋に引っ込むことにしたが……。

「でも、どうしても気になるんです。やっぱりリビングに戻って窓の方を見ると、その人物は変わらず微動だにせずに、窓の外に立っていました。あまりにも動かないのが不気味で。怖くなって、奥の部屋に戻ったんですが、再度気になって戻る。その繰り返しでした」

◆家主はなぜか終始ニコニコしていた

 その人物はただ立っているだけなのだが、異様なのは何時間もそこに居続けていることだった。

「別に何をしてくるわけでもないんですが、あまりにも動かないのが怖くて。それに真夏の暑い日なのに、汗ひとつかかずにそこにいて……。気づいてから、ずっと鳥肌が立ちっぱなしの状態でした」

 バイトを終えて、家主と話した時にも気になることがあったという。

「旦那さんの方と話したんですが、終始ニコニコしていたんですよね。例の窓の外にいたやつの話をしたら色々とされて……そいつのことを知っているみたいで。『その人とは目が合いましたか?』と聞かれたので、『合ったと思いますけど』と答えたんですが、その時が一番うれしそうな顔をしていたんです」

◆自宅でも頻繁に怪異が起こるようになり…

 それから高坂さんは、あることに悩まされるようになる。

一人暮らしをしていたマンションにいると、窓のほうが気になって仕方なくなって……。ある日、前日に遅くまで飲んでいたかなんかで、昼過ぎまで寝ていたことがあったんです。で、起きた時にふと窓の方を見たら、細い何かがいたんです。その後のことは覚えておらず、気づくと夜で暗い部屋の中で、ベッドではなく床の上に倒れていました。バイトの時に見たやつよりももっと細くて、人なのかどうかもわかりませんでした」

 それから、たびたび同じようなことが起きるようになった。窓の外に普通ではありえないほど細い人物が立つようになり、気絶したような状態で目が覚める。そんなことを繰り返すうちに、心底恐ろしくなった高坂さんは、お盆の頃を予定していた実家への帰省を早めることにした。

「神様とかそういうのはまるで信じないタイプだったんですが、実家の仏壇に手を合わせたり、お墓参りに行ったり、神社でお参りしたり、そういうことを何度もやりました」

 その後マンションに戻ったところ、もう窓は気にならなくなり、変なものを見ることもなくなった。報酬は高額だったが、とてもわりに合わないバイトだったという。

<TEXT/和泉太郎>

―[レアなバイト体験談]―

【和泉太郎】
込み入った話や怖い体験談を収集しているサラリーマンライター。趣味はドキュメンタリー番組を観ることと仏像フィギュア集め