アメリカを代償するヴェネベーゴ社の中でも最小クラスとなるキャンピングカー「ソリス ポケット」(筆者撮影)

昔からのキャンピングカー愛好家であれば、アメリカ製の大型キャンピングカーに憧れを抱いている人も多いだろう。なかでも、アイオワ州を拠点とするコーチビルダー(キャンピングカーメーカー)の「ウィネベーゴ(WINNEBAGO)」は、60年以上続く老舗であることや、多くのモデルが映画にも登場していることで、アメリカの文化やクルマが好きな層には有名だ。

もっとも小さなモデル「ソリス ポケット」


ソリス ポケットのフロントフェイス(筆者撮影)

同社のラインナップには、大型バスのような外観で、全長が10mを超える「クラスA」と呼ばれる巨大なタイプもあるが、一方で、もっとも小さく、使い勝手がいいといわれているのが「ソリス ポケット(SOLIS POCKET BUT36A)」というモデルだ。ポケットというと、ちょっとかわいらしい印象もあるが、じつは全長5.4mを超える。国産キャンパーのベース車として人気が高い、トヨタ「ハイエース」のスーパーロング仕様よりも長い。

さすがキャンピングカーを「モーターホーム(動く家といった意味)」と呼ぶアメリカらしいサイズ感だ。しかも、これほど大きな車体でも乗車定員は4名、就寝人数は2名。ハイエースのキャンパーには、7名乗り・4名就寝のモデルもあるから、あまり人が乗ったり寝たりはできない。ただし、そのぶん、車内の居住空間はゆったりとしていて、広大な北米大陸を快適に旅するために作られた、さまざまな装備などはかなり魅力的だ。

そんなソリス ポケットが、キャンピングカーの展示会「東京キャンピングカーショー2023」(2023年7月1〜2日・東京ビッグサイト)」で、ウィネベーゴ日本正規代理店「ニートRV」のブースに出展されたので、ちょっと紹介してみよう。

ウィネベーゴとは、どんなブランド?

ソリス ポケットを製造するウィネベーゴは、1958年にアメリカ・アイオワ州に設立された老舗のコーチビルダーだ。60年以上の歴史で培った技術力やノウハウなどに定評があり、数多くのキャンピングカーメーカーがある北米でも、まさにトップブランドのひとつとして知られている。

また、同社製モデルは、昔から数多くの映画などに登場したことでも有名だ。例えば、「アバウト・シュミット」(2002年公開)、「ロング, ロングバケーション」(2018年公開)といった感動系ロードムービーから、「宇宙人ポール」(2011年公開)というSFコメディなどにも登場。ほかにもゾンビと人間の戦いを描いたホラー「ウォーキング・デッド」(2010〜2022年放映)など、さまざまなテレビドラマにも使われている。ハリウッド映画やアメリカのドラマが好きな人は、どんなシーンに出てくるのかチェックしてみるのも面白いだろう。

ソリス ポケットは、どんなキャンピングカー?


ソリス ポケットの運転席(筆者撮影)

そんなウィネベーゴのラインナップ中で、前述のとおり、最小といえる「クラスB」というジャンルに属するのがソリス ポケットだ。クラスBとは、北米特有のタイプで、ミニバンやワゴンをベースに車内をキャンピングスペースに変更したものを意味する。日本でいえば、ハイエースなどをベースにした「バンコン(バンコンバージョン)」と呼ばれるキャンピングカーに近いものになる。

ベース車両は、「ラム1500プロマスター(RAM1500 PROMASTER)」というフルサイズ商用バンのハイルーフ仕様だ。ちなみに、ラムといえば、昔からのアメ車好きには、かつてクライスラー傘下であった「ダッジ・ラム」ブランドのピックアップトラックが有名だ。とくに1980年代に起こった4WDのオフロード車人気、いわゆる「RVブーム」を知る層には、同ブランドのピックアップ車は憧れの的だった。

なお、現在、クライスラーはステランティスN.V.傘下となり、ダッジとラムも別々のブランドになっている。1500プロマスターはステランティスN.V.の商用車部門「ラム・トラックス」から販売されており、同じ傘下のフィアットがリリースする「デュカト」と共通のプラットフォームを採用している。

そんなラムの商用バンをベースとするのがソリス ポケットだ。車体サイズは、全長5440mm×全幅2070mm×全高2850mm、ホイールベース3450mm。参考までに、ハイエースのなかで、もっとも大型のボディを持つスーパーロング/ワイドボディ/ハイルーフ仕様は、全長5380mm×全幅1880mm×全高2285mm、ホイールベース3110mm。これも先述したとおり、ラインナップ「最小」といいながらも、ソリス ポケットのほうが車体は大きい。

なお、エンジンには、3.6L・V型6気筒ガソリンを搭載。最高出力は276HPを発揮し、9速AT(オートマチック・トランスミッション)とマッチング。このモデルは、室内の架装などで3220kgというかなり重い車両総重量となっているが、それでも高速道路や登り坂などで、快適かつ余裕ある走りを実現するという。

純正のよさを生かしたソリス ポケットの外装

外観は、ノーマルから大きな変更はないものの、各部をキャンプ仕様とてアップデートしている。まず、車体の左右膻にある大型スライドドアにはウインドウを追加したほか、下方へ開くことができるフォールドダウン式のエクステリアテーブルも装備。展開すればアウトドアで食事などを楽しむこともできる。

また、ルーフには、前方に大型ベンチレーターファンを標準装備。オート設定にすれば、室内温度を感知して自動で開閉やファンのオン・オフを行う機能を有する。さらに、ルーフ中央には170Wのソーラーパネルも装備し、115A×2基のサブバッテリー(ディープサイクルタイプ)への充電も行う。


観音開きタイプのリアダブルドア(筆者撮影)

ほかにも観音開きタイプのリアダブルドアやスライドドアには、室内への虫の侵入を防ぐスクリーンも装着するなど、アウトドアで便利な装備を追加している。

広々&充実した装備が魅力の内装


ソリス ポケットの室内(筆者撮影)

室内色に遊牧民を意味する「ノマド」というカラー名を採用した内装は、アメリカ製モデルらしい質実剛健なイメージだ。シックな印象のある欧州製キャンピングカーとは一線を画す。室内の中央部には、左側にギャレー(キッチン)、右側に対面式シートを持つダイネットを配置。車体後方には常設のダブルベッドなども装備している。

ギャレーには、ステンレス製シンクや2バーナーのコンロなどを採用。容量8kgの脱着式LPガスボンベや75Lの水タンク、容量85Lのコンプレッサー式冷蔵庫なども標準装備するため、室内でもさまざまな調理が可能だ。


ステンレス製シンクと2バーナーのコンロを備えたギャレー(筆者撮影)

ダイネットのシートには、表面にラグジュアリーリネンという亜麻系の素材を貼ることで、落ち着いた色調を演出する。中央のテーブルを外せば、ゆったりと膻になれるソファになるなど、多彩なアレンジも可能だ。また、ダイネット膻のサイドウォールには、ボトムヒンジ付きの収納キャビネットも採用。ラップトップPCやファイル、電子機器などを保管することができ、レジャーユースだけでなく、リモートワーク向けとしても活躍する。

また、運転席と助手席は停車時に後方へ回転させ、ダイネットシートと連携させることで、リビングを拡大することも可能。オプションのフロントキャブ・エアマットレス(76cm×165cm)を使えば、運転席と助手席のシートを利用して追加ベッドにすることもできる。

ほかにも、ポータブルトイレも標準装備する。トイレの本体サイズは高さ330mm×幅383mmx奥行き427mmとコンパクトで、前側のダイネットシート下に収納が可能。重量3.8kgと軽量なため、移動も楽だ。なお、洗浄水タンク(上部)容量は15L、汚水タンク(下部)容量は12Lを確保している。

常設ベッドは大人2名が就寝可能


ソリス ポケットのベッド(筆者撮影)

加えて、室内後方にある常設ベッドは、132cmx190cmのダブルサイズで大人2名の就寝が可能。耐圧分散機能を持つことで、寝心地の良さを実現するスラットベッドシステム(ウッドスプリングベッド)を採用する。また、ベッド下は、荷物の収納スペースとなっており、自転車なども積載できるスペースを確保。収納ボックスやギア類を簡単にセットできるMOLLEパネルなども備えることで、アウトドアギアなどを整理して入れることも可能だ。


展示車両の装備や価格など(筆者撮影)

今回展示された2022年型ソリス ポケットは、ニートRVのショールームに展示されていた車両であることもあり、多少ディスカウントされており、価格(税込み)は1726万1200円(フロントキャブ・エアマットレスのオプション付き)。ちなみに、新車価格は1991万円だ。いずれにしろ、国産キャンピングカーであれば、マイクロバスをベースにし、より広い室内などを持つバスコン(バスコンバージョン)などの高級モデルも買える価格だ。

アメリカ文化への憧れがキーワード


ウィネベーゴのエンブレム(筆者撮影)

ニートRVの担当者によれば、このモデルを購入する主なユーザーは「60代がメイン」。とくに昔からのキャンピングカー愛好家や、アメリカの文化やクルマに憧れを持つ層が多いという。そうしたユーザーには、やはり北米の老舗メーカーとして名高い「ウィネベーゴ」の名前は魅力的だ。また、フロントグリルにある大型の「RAM(ラム)」エンブレムも、アメ車のピックアップトラックで有名なブランドだけに、その筋の愛好家にはたまらないだろう。


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その昔、トヨタ製ピックアップの「ハイラックス」に乗っていた筆者も、ラムのトラックに憧れたひとりだったので、その気持ちは十分にわかる。そして、そんなコアなユーザーとっては、たとえ2000万円近い高価なモデルであっても、十分に「価値がある」と思えるのだろう。その証拠に、同じくニートRVによれば、多くがこのモデルを「指名買いする」のだという。

ウィネベーゴやラムといったメーカーやブランドの名前は、一般的に日本ではあまり知られていないのは確かだ。だが、価値観が多様化している現在、たとえ多くが知る商品やクルマだからといって、必ずしもビジネス的に成功しているとは限らない。少数派であっても「確実に購入する層やファン」がいる(そのぶん、価格はハイエンドだが)。その意味で、ソリス ポケットは、現代のトレンドにマッチした商品(キャンピングカー)のひとつだといえるかもしれない。

(平塚 直樹 : ライター&エディター)