「チャーハンを作るには、何種類の材料がいるかな?」。そんなちょっとした話題で、子どもが「かぞえる」場面を自然に作ることができます(写真:JOB DESIGN/PIXTA)

子どもの数学(算数)の力は、小さい頃からの興味や関心のもたせ方で大きく変わります。大切なのは、遊びやゲーム、暮らしの中での対話などを通して、いろいろな考え方、思考のしかたの「芽」を育てておくこと。数学教育35年のキャリアで培ったノウハウをもとに新刊『子どもの「数学力」が自然に育つ2歳からの言葉がけ』を上梓した、くにたち数学クラブ代表・植野義明さんが解説します。

子どもには生まれながらにして「3」までの小さな数を把握する能力があり、数への関心も生まれながらのものです。童謡の歌詞「もういくつ寝ると、お正月」にもあるように、数への関心は外の世界を理解したいという自然な欲求です。

かぞえると一言で言っても、簡単なものから、やや高度なものまでいろいろなレベルがあります。ここでは、親のちょっとした言葉がけを通じて、数への関心を目覚めさせ、かぞえる行為に向かってもらう例を1つお話ししましょう。

「かぞえる」場面を自然に作る

日常の何気ない会話の中で興味をもてる話題を選ぶことで、子どもがかぞえる場面を自然に作ることができます。

例えば、今日のお昼は、あり合わせの材料でチャーハンを作ることにしたとします。冷蔵庫から、ニンジン、玉ねぎ、ハム、玉子を出しながら、子どもに、「チャーハンを作るには、何種類の材料がいるかな?」と聞いてみます。

すぐには答えが出ないときは、さらに「3つかな? それとも4つかな?」と聞いてみると、子どもはまな板の上の材料を見て答えます。

「あ、お母さん、大切なものを忘れているよ。ご飯がなくちゃ、チャーハンは作れないよ」と教えてくれるかもしれません。

2歳児くらいまでは、「種類」という言葉が何を意味するのか理解しにくい場合があります。1本1本のニンジンは手にもってかぞえることができますが、ニンジンという「種類」は抽象概念なので、かぞえることがむずかしいのです。

そこで、小さい子には、冷蔵庫から出したばかりのときにかぞえます。3歳以上になれば、コマ切れになっていても、ニンジンはニンジン、玉ねぎは玉ねぎと、種類の数で考えることができるようになります。

子どもをキッチンに入れられないのであれば、食事をしながらでも会話はできます。「今日のチャーハンには何種類の材料が入っているか、かぞえてみよう」と言葉がけをすることで、食べることが楽しくなり、具材に関心をもつようになるかもしれません。

かぞえられたら、次は足し算へ

楽しく食べながら、足し算もしてみましょう。例えば、「ピーマンも入れたら、もっと色がきれいで美味しそうになるかもね」と言ってみるのです。

色がきれいになると聞いて、ピーマンが嫌いな子も少しは興味をもってくれるかもしれません。「ニンジン、玉ねぎ、ハム、玉子の4つにピーマンを入れたら、材料は全部でいくつになるかな?」と聞いてみます。

もちろん、すぐに「5つ」という答えが返ってきますが、ここで、答えを言うだけでなく、足し算を教えることができます。「4に1を足したら5だから、4足す1は5、つまり、5つだね」と教えます。あるいは、「4の次は5だから合わせて5つだよ」と、子どものほうから言ってくるかもしれません。

小さい子どもは、「いち、に、さん、よん」と数字を呪文のように唱えて覚えているだけですが、3歳児になると、「5は4の次だから、4より1多い」というふうに、数字を量と結びつける理解ができてきます。子どもにおはじきやお菓子などを見せて、「何個ある?」と聞いて、4つと答えたら、「じゃあ、もう1つ足すと?」と聞いてみます。

このとき、もう一度最初からかぞえ直す子どもは、かぞえた結果が数になることは理解していても、4に1を足すと5になることはまだ理解していません。「かぞえる」という行為は単純そうに見えますが、子どもの心の中で実際に起こっているプロセスは、成長段階に応じてさまざまです。

どんなやり方でも、答えが出たら「よくわかるね」「えらいね」などと褒めてあげましょう。

身近なもので足したり引いたり…

同じ話題は引き算にも応用できます。例えば、うちのチャーハンは、ニンジン、玉ねぎ、ハム、玉子が入っているのが定番だということを子どもが理解しているとします。

ある日、お母さんが冷蔵庫を覗くと、ハムがありません。「あれ、今日はチャーハンを作ろうと思ったのだけど、ハムがないわ……」とつぶやいてみます。

「えー、そうすると、今日のチャーハンに入る材料は3種類になっちゃうよ」「そうね、4−1だから、3種類ね。でも、ハムが入ってないと美味しくないよ。どうしよう」といっしょに考えます。

「そうだ、ハムがないなら、焼き豚かカニかまぼこを入れてみたら?」ということになるかもしれません。「そうすると、チャーハンには何種類の材料が入ることになる?」。答えは、3+1=4で4種類です。  

こんなふうに、毎日の食事の会話を楽しみながら、数や計算への興味につなげていけたらいいですね。他の料理や、お出かけ前の持ち物チェックなど、生活の中のほかの場面にも、同じような会話を応用できます。

毎日の生活の基本となる食事のときの会話や、お出かけ前の持ち物チェックなど、数や計算への興味を引き出す場面は、さまざまあります。

また、家庭でできる簡単なパズルやゲームに親子で取り組むことでも、楽しみながら数の感覚を伸ばすことができます。

数は、重さ、長さ、速さなど、いろいろな種類の量にも関係しています。目に触れるいろいろなものやことに興味をもつ幼児にとって、視覚、聴覚、触覚などさまざまな感覚を通して数への興味や数の量としての感覚を育てておくことは、きっと生涯にわたって役に立つでしょう。

たとえば、家庭にある体重計やメジャーなどを使って、測ることの楽しさを子どもといっしょに体験し、測った結果について話してみてください。

ちょっと注意して見回すと、わたしたちの日常にはいろいろな数字があふれていることがわかります。数にはものの量を表すだけでなく、位置や順序を表す働きもあります。数のもつ、そうした多様な側面への「気づき」を、子どもとの会話の中で深めていくことができます。

足し算や引き算の意味を理解する


計算は単なるスキルではなく、足し算や引き算の意味を理解することが大切です。「あといくつ?」は、足し算の考え方を引き算へと自然に応用し、引き算の本当の意味が、知らないうちに自分のものになる魔法の言葉です。

もちろん、現実の世界では、かぞえられるものとかぞえられないものがあり、数学の計算が文字通り成り立たない場面もあります。たとえば、コップ2杯の水を大きな容れ物に注ぎ替えれば1つになりますし、2つの粘土を合わせたら1つのカタマリになりますよね。

1+1が2にならないこともあるよという、子どものちょっとした発見も、現実の事象を単純化して示す数学の役割に気づく対話のきっかけとすることができます。

ほんの少し会話や話しかけ方を変えるだけで、親子の対話が弾んだものになり、子どものわくわく感が大きくふくらんでゆくのです。

(植野 義明 : くにたち数学クラブ代表)